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第19話(改稿前 前後に矛盾があります)

 午前の練習終了後、俺たちは連絡を取り合って花中ジャイファルに集合することになった。


 俺と颯人、花音はジャージに着替え、自転車に乗って一緒に移動することにした。


 自転車置き場で花音を待っていると、花音が部室の方からやってきた。


 花音の顔には、まだ少し弱いけど、しばらくぶりの、爽やかな花音らしい笑顔が戻っていた。


 俺は、その笑顔をずっと見たかったんだよな。


 俺と颯人が手を振る。花音も手を振りながら駆け寄ってきた。


 自転車置き場に着くと、花音は俺たちを真っ直ぐ見た。


 「2人とも、本当にありがとう」


 俺は優しく首を振った。花音の気持ちを邪魔しないよう気をつけながら。


 「いや、俺たちは何もしてないって」


 「そうだぞ花音。俺たちは、特に何もしてない。何かいいことあったのか?」


 颯人がとぼけた感じでそう言う。


 花音は優しく笑った。


 「先生から結構聞いてるんだよ。2人のお陰で神城先輩と別れられたし、先輩が練習にも来なくなったから、これから安心して練習できるよ。ほんと、ありがとう」


 そう言うと、花音は頭を下げた。


 花音は頭を下げる必要なんかない。


 俺はなるべく優しく聞こえるように、口調を選んで言った。


 「やめてくれよ、花音。俺たち友達だろ? 友達が笑顔になってくれたなら、俺はそれでいいんだよ。だから、頭なんか下げないでくれよ」


 「慎一の言うとおりだ。腹減ってるし、はやくジャイファル行こうぜ」


 「うん!」


 花音は少しだけ涙模様の目をこすって、笑った。


 俺たちは自転車を飛ばしてみんなが待っている花中ジャイファルに急いだ。





 ジャイファルには既に彼方、夢乃、愛瑠が集合していた。


 「おそ~い。何してたの~?」


 「わりぃわりぃ、ちょっと話してたら遅くなってさ」


 颯人はおどけながらそう言った。みんな、颯人が気を遣ってそう言ってるのを分かっている。


 「なあ、慎一、何食べるの? やっぱり」


 「チーズチキンステーキ一択だろ」


 ハハハ、と笑いが起きる。


 何で笑うんだ? チーズチキンステーキめっちゃうまいだろ。


 「じゃあ俺は、ペッパーサイコロステーキで!」


 「結構高いの頼んだな、颯人。俺は普通にハンバーグだけど」


 「彼方はいつ来てもハンバーグだよな」


 俺たちのやりとりを、女子は微笑ましそうに見ている。


 「何か~、かわいいね~男子って」


 「ふふっ。私たちも頼もっか。花音は何がいい?」


 「私は、サラダうどんにしようかな」


 「じゃあ、私も同じのにするね」


 「あたしは~、グラタンかな~」


 注文が終わった後、颯人が全員に向かって今日起こったことを話し出した。


 「最初はさ、神城をおだてろって慎一が言うから冗談だろ? って思ってたんだよ。でもさ、慎一の言ってたとおりの展開になってさ。慎一マジすげーな。で、神城がぼろを出した瞬間に慎一が現れたんだよ。『録音してますよ。花音と別れてください』って。いやー、あの時マジでかっこよかったわ。さすがは慎一、俺たちのリーダーだよな」


 「そんなことをしたのか。思い切ったね。でも、やっぱりお前はすごいよ、慎一」


 彼方が俺の方を向いて爽やかに笑いながら言う。


 みんなから褒められた俺は、何だかすごくむずがゆい。そんなんじゃないんだけどな。


 「言い過ぎだって。俺はただ、花音がほっとけなかったってだけで。ちょっと強引な方法だったかもだけどな」


 「ちょっと見たかったな、その時の慎一の姿」


 「ほんと~。今度私のためにもやってみてよ~」


 夢乃と愛瑠まで、俺を褒めてくれた。


 「ありがとう。でも愛瑠、同じことをやれって言われても、無理だからな」


 「なんでよ~。私のこと大事じゃないの~」


 愛瑠の口からこれでもかってくらいの甘~いアニメ声が出てくる。聞き方によっては、俺の誘惑しているようにも感じる。


 俺はここぞとばかり、自分を友人Aだと自覚する。勘違いしちゃダメだぞ、って。


 「愛瑠のことも、夢乃もことも、もちろん彼方も颯人も大事だよ。同じようなことがあったら、俺は絶対、みんなのためにやれることやるから。でも、1人じゃ何もできない。その時は、他のみんなに遠慮なく頼るから」


 ちょっと、調子乗りすぎだろうか。でも、偽りのない気持ちだった。


 少しの間、みんなが静かになった。あれ、何で?


 「やっぱさ、お前友人Aなんかじゃないだろ。お前はみんなの頼れるリーダー、だよ」


 彼方がみんなを代表するかのようにそう言った。


 みんな、うんと頷いている。


 「ていうか~、まだ友人Aとか言ってんの~。あたしにとっては~、超お気に入りなんだけど~」


 愛瑠が熱い視線を俺に投げかけてくる。まるで、冗談じゃなくて、本当のことを言ってるみたいに。


 「え? いや、ちょっと待って」


 俺は、それ以上何も言わなかった。みんなの信頼が嬉しいのと、よくわからない戸惑いがあったからだ。

 


 

 みんなが花音のことを心配したのか、しばらくして臨時の会は解散になった。


 次は6月末、期末テストの勉強会だ。その前には文化祭もある。楽しみだった。


 帰りはいつもどおり、夢乃と花音と俺で花岡南駅まで帰った。帰りながら、いつもどおり2人が楽しく話しているのを見ていた。


 花音の表情には元の明るさが戻っていた。それを見られただけでよかった。


 帰りの電車でも、2人は楽しそうに話していた。いつもどおり、他愛のない話だった。俺は2人の話に相づちを打ちながら、2人が楽しそうにしているのを穏やかな気持ちで見ていた。


 ほらな、やっぱり俺は美少女達の友人Aだろ。こんなかわいい子達と一緒にいても、愛瑠にあんなこと言われても、俺は踏みとどまっている。勘違いなんかしちゃいない。


 俺は中2の、あの時から誓ってるんだ。あの時のことを、俺は1度も忘れたことがない。


 俺は、ずっと好きだったあいつに言われたことを今でも覚えている。


 その言葉が俺に言うんだ、お前はどこまでいっても美少女達の友人Aに過ぎないって。


 だから、俺は絶対に大丈夫だ。そう、思っていた。





 日向市駅で花音と別れ、西園寺駅までの3分間を夢乃と二人きりになった。


 その時、あるはずのないことが起こってしまった。


 「かっこよかったよ、慎一」


 「え?」


 俺は、一瞬夢乃が何て言ったのか分からなかった。


 俺は夢乃の顔を見た。夢乃は、俺の目を真っ直ぐに見ている。


 「友達のために、花音のために、自分を犠牲にして頑張った。今の慎一は、誰よりかっこいいよ」


 夢乃の口調は不思議なほど優しい熱がこもっていた。


 俺は、その熱をどう受け止めていいのか、よくわからなかった。


 夢乃の言葉の前に、いつもの友人Aが通用しなかったからだ。


 電車の中に西日が差していた。夢乃の表情は、まぶしくてよく見えない。


 でも、夢乃が俺のことを「かっこいい」なんて言ったのは、中学から始まった夢乃との友達付き合いの中で、初めてのことだった。


 何も言えないでいると、あっという間に3分が過ぎて西園寺駅に着き、途中まで自転車で一緒に行って別れた。


 夢乃が手を振りながら離れていく。


 思えば、この日から、だったんじゃないかな。


 俺が、固く固く信じ込んでいた、俺は美少女達の友人Aじゃなきゃっていう、自分を守っていたものが、少しずつ崩れていく音がしだしたのは。


 それは、今日の夜すぐにやってきたんだ。

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