表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/21

第17話(改稿前 前後に矛盾があります)

 朝、ベッドで目が覚めた。今日は土曜日、いよいよだ。


 昨日の夜も、「しんいち会」のメンバーと連絡を取り合った。


 夢乃の話だと、帰り道の花音は少しおびえていたらしい。


 無理もない、今日神城が来るからな。


 心配いらない、と俺は言った。今日で決着を着けるから、と。


 昨日と同じく、西園寺駅で夢乃と一緒になった。夢乃は昨日と同じく、俺に手を振ってくる。


 昨日と違うのは、夢乃が制服じゃなくて学校指定の灰色のジャージ姿ってことだ。でも、本当に学校のジャージかってぐらい似合っている。


 俺も同じジャージを着ているけど、全然違う素材みたいに輝いて見えるんですが。


 俺は昨日と同じく、決して勘違いしないように心がける。


 夢乃は今日も、花音と一緒に行くつもりらしい。


 「いよいよ今日だね。大変だろうけど、頑張ってね」


 電車の中で、隣の夢乃が心配そうに見てくる。


 「ああ。はっきりしなくちゃな」


 ひなた市駅で花音が電車に乗ってきた。


 昨日と同じく、3人で楽しく他愛もない話をする。花音に神城のことを意識させないためだ。


 できれば、神城が花音に会う前、朝の段階で決着をつけたい。俺はそう考えていた。


 自転車置き場に行くと、既に颯人が到着していた。


 「おはよ。今日は頼んだぞ」


 「ああ、俺に任せとけば絶対に大丈夫だぞ」


 軽口を言いつつも、2人の表情には緊張が走る。


 「じゃあ、行こうか颯人」


 「ああ」


 俺たちは部室に向かった。


 恐らく、神城も既に来ているはずだ。





 部室には、先に颯人に入ってもらった。俺は入り口付近で待機する。


 陸上部男子の部室では、男子部員たちが着替えながら話をしている。男子が集まった時の話なんて、大抵女子の話に決まっている。今日も、そういう話が好きな林先輩を中心に、女子の話で盛り上がっていた。


 「で、こないだデートに行ったんだけど、相手が途中で帰っちゃってさ」


 「それお前がうまくやらないからだろ。どうせ、下心見せすぎたんだろ」


 「そういうお前は彼女とどうなんだよ」


 「どうって、まあ……。最近、家に来てくれないんだよ」


 「それって、お前も下心見え見えだからだろ」


 うーん、良くも悪くも、男子の会話だ。もちろん、勉強の話をしている人達もいるけど。


 神城は、他とはあまり話さず、1人で準備していた。そこに、颯人が近づく。


 「ちわっす! 神城先輩、今日はご指導よろしくお願いします!」


 颯人が挨拶したことが嬉しかったらしい、神城は笑いながら颯人を見た。


 「速水。お前が俺に挨拶なんでめずらしいじゃねーか。なんかいいことあったのか?」


 「いや全くっすよ。彼女に振られたばっかりなんで。先輩は、どうなんすか、彼女とか」


 いいぞ颯人。自然な感じだ。


 「彼女? ああ、最近できたな」


 神城は彼女が誰、とは言わなかった。


 「そうなんすね! おめでとうございます。相手、誰なんすか。どこまで行ってるんですか?」


 颯人、言いづらい質問をよく言ってくれた! 今度、ジュースおごるからな。


 「ん? 高山だよ、短距離の。どこまでって、まだキスしただけだ。今はまだ、な」


 分かってはいたけど、神城から「花音とキスをした」という言葉を聞くと、頭に血が上るのが分かった。


 まだだ。俺は奥歯を噛み、ぐっとこらえる。


 「へえ、高山すか! かわいいですよねあいつ。めっちゃうらやましいですよ、先輩。で、これからどうするつもりなんですか? 俺、色々聞いてますよ、先輩のこと」


 颯人は、本当は言いたくもないだろうけど、あえて踏み込む。神城に決定的な言葉を言わせるために。本当にすまない、颯人。


 「お前、そういうの興味あるのかよ。ま、いーぜ。お前もイケメンだから、よく覚えとけよ」


 その時、颯人がチラリと入り口付近にいる俺に目をやった気がした。「今だ!」と目が訴えている。分かっているよ、颯人。


 「俺はな、まだ男を知らなそうな女が大好きなんだよ。俺、イケメンだからな。ちょっと声をかければそういうウブな女は落ちるってわけだ。現に、高山も難なく俺の告白にOK出したからな。今日、部活終わりにあいつを俺の家に連れ込むぜ。で、さっさとやることをやるってわけだ。あー楽しみだぜ。あいつ、LANEをブロックしやがったから、ゆっくり懲らしめてやんねぇとな。まあ、気持ちよすぎて、俺の以外じゃ感じなくなっちまうんじゃないか。ハハハッ」


 颯人は顔は笑った風に一生懸命作っているが、首から下は怒りで真っ赤になっていた。


 よくやった、颯人。よく、我慢したな。


 俺も気がついたら、右手から血が出るくらい拳を握りしめていた。


 「先輩、何言ってんすか。それ、レイプと一緒ですよ。先輩、花音にそんな最低なことしようとしたんすか。許せねぇ!」


 颯人の突然の豹変に、部室にいた全員が颯人の方を向く。


 神城は颯人の変化に驚いていたが、すぐに余裕の表情に変化する。


 「おいおい、何人聞き悪いこと言ってんだ、お前。俺がレイプなんかする訳ないだろ。俺と高山は付き合ってるんだ。付き合ってたら、いろいろあるだろ。なあ、お前ら」


 神城は、話を聞いていなかった全員を味方に引き込もうとしている。


 周りの先輩や同級生達は戸惑った表情だ。どっちの話が本当か分からない、といった顔をしている。

 

「ほら、こいつらも黙ったろ。速水、お前いい加減なこと言いやがったら、どうなるか分かってんだろうな!」


 神城は颯人にすごむ。颯人は、一歩も引く気配はない。


 ここだな。


 「そこまでにしてください、神城先輩」


 俺は部室の中に入っていく。部室内の全員が、そして神城も俺の方を向く。


 「園山……。いい加減にしろって、何をだ? 俺は何もやってなんかないぞ」


 「そうですか、神城先輩。じゃあ、みんなこれを聞いてくれませんか」


 そう言って、俺はスマホの録音機能から最新のデータを再生した。


 『俺はな、まだ男を知らなそうな女が大好きなんだよ。俺、イケメンだからな。ちょっと声をかければそういうウブな女は落ちるってわけだ。現に、高山も難なく俺の告白にOK出したからな。今日、部活終わりにあいつを俺の家に連れ込むぜ。で、さっさとやることをやるってわけだ。あーたの……』


 「ちょっと待て。何勝手に録音してんだよ! 盗撮だろそれ。犯罪者かお前は! な、なあ、お前達もそう思うだろ?」


 神城は焦った表情で、何とか矛先を自分から外そうとしている。


 だが、周りの部員の目は明らかに神城を見て引いていた。軽蔑のまなざし、だ。


 いくら男女の話が好きな男子部員達でも、神城の話したことは明らかに行き過ぎだったからだ。


 しかも、相手は陸上部の新入部員で、特にかわいくていい子な高山花音。誰も、神城の味方をするやつなんていなかった。


 「神城先輩、これ、クラウドにアップしてますから、いつでもデータ渡せちゃうんですよね。もしそうなったら、先輩の推薦、なくなっちゃうんじゃないですか?」


 神城は、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。しかし、反論はできないようだ。


 俺は続けた。


 「先輩。俺も先輩を破滅させたいわけじゃないんですよ。先輩なんて正直どうでもいいんで。でも、花音は俺の大事な友達で、花音が傷つくのだけは許せません。花音別れたがってますよね。だから、このまま別れてもらって、これ以上花音につきまとわないでください。ついでに、今後陸上部にも顔を出さないでくださいね。この条件が飲めるなら、俺はこのデータをどこにも出さないと約束します。どうします?」


 俺は脅しだと分かっていたけど、リスクを承知で神城に告げた。


 神城は、両手をわなわな震わせている。背が高く筋肉質な神城がそれをすると、かなりの怖さがあった。でも、この状況で俺に手は出せないはずだ。


 「てめぇ、こんなことしてどうなるか分かってんだろうな!」


 颯人が俺の前に出て、俺をかばおうとした。


 その時だった。


 ガラッ。


 「おい、お前達何やってんだ。何なんだこれは? 早く出て練習しろよ」


 中谷先生が部室の中に入ってきた。話は聞いていない、はずだ。


 中谷先生の一言で固まっていた部員達は外へ出て行った。俺たちと神城は固まったままだったが、やがて神城も外に出ようとした。


 「おい神城。話がある。ちょっと職員室に来い」


 「えっ、あ、はい」


 中谷先生が神城を呼び止めた。神城も中谷先生には逆らえない。そのまま、2人は体育教官室に行った。


 その後ろ姿を見送って、俺は部室の壁にへたり込んだ。


 そこに、颯人が覆い被さって両肩をつかんでくる。


 「やったな、慎一! さすが俺たちのリーダーだ、お前は!」


 「重いって颯人。分かったから」


 いつもはやらない芝居がかった立ち回りをしたせいか、神城と相対した緊張感からか、それともうまくいった安心感からか。


 急速に、体の力が抜けていくのを感じた。


 でも、俺はいいんだ。これで、花音に元の笑顔が戻ってくれたら、それより嬉しいことはない、と思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ