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翌日、 私の部屋にお父様とお母様が訪れた。
けれど、その表情はこれまで私を慈しんでくれた両親のものではなかった。
まるで他人を見るような、冷たい眼差しと口調。
今までとはまるで違う。
「お前の処分が決まった。
北の塔に無期限で幽閉する。
これは貴族会議の満場一致の決定だ」
あらかじめダリアから聞いていたので、 取り乱すことはなかった。
けれど、“大臣たちを諫めようともしなかった両親” に、愚かさを感じ深い失望が胸に満ちていく。
それと同時に信じてもらえない悔しさが喉をつく。
泣きそうになったけれど、私は強く唇を噛んだ。
(泣くものか……! 絶対にこの人たちの前では泣かない。私は何も悪いことなど……していないのだから)
私はソファから立ち上がり、お父様の前へ歩み出る。
「……お祖母様が生きていたら、何とおっしゃったでしょう?お父様は、お祖母様が健在でも……同じご判断を?」
お父様の目を、真っ直ぐ見つめて問いかけた。
その瞬間。
パンッ!
頬に鋭い痛みが走った。
叩かれたのだと理解するまで、数秒かかった。
生まれて初めての暴力だった。
お父様が怒鳴る。
「う、うるさい!母上はもういない!今は私がこの国の王なのだ!誰も逆らうことは許さん!お前も身の程をわきまえよ!以前のお前は“王位第一継承権者”として期待されていた。しかしもう違うのだ。お前は継承権を剥奪された。……王女という地位すら危ういのだぞ」
その目は、怒りと……何かドロッとした、私にはよく分からない感情で濁っているように見えた。
お母様も続く。
「そうですとも。アウレリアは私の娘でしたが……もう違います。あなたを娘とは認めません。私の娘はミリアだけですわ。この子が次期女王です」
そのとき、お母様の背後で立っていたミリアと目が合った。妹はとても嬉しそうに微笑んでいた。
「お姉様。私、立派に“お姉様の代わり”を務めますね。お姉様と違って魅了の魔法は使えませんから……お姉様ほど優秀には見えないと思いますが。ズルをしていない証拠ですわ」
意地の悪い笑顔。
挑発するような視線。
(……あぁ。こんなことを言う子だったんだ……)
つい昨日まで 「お姉様、お姉様」と、笑顔で抱きついてきた可愛い妹は、もうどこにもいなかった。目の前に立つのは、私を“踏みつけて自分が上に立ちたい”だけの、見知らぬ誰か。
胸の奥が、ひどく冷たくなった。
以前は私を命をかけて守ってくれていた近衛騎士。
それが今では、私の両手首を縄で結びつけ、北の塔へと連行しようとしている。 まさに罪人の扱いだった。
「なっ! なんと無礼な!アウレリア様に何ということを……陛下、 酷すぎます!アウレリア様がいったい何をしたというのですか!」
「 うるさい!侍女ごときが 私に盾をつくというのかっ!お前など、私の一存で、どうとでもできるのだぞ」
お父様の 恐ろしいほどの冷たい眼差し。
この人は本当に何でもやりかねない。
私はぞくりと背筋を震わせた。
「申し訳ありません。ダリアには後で私から叱っておきますので、どうぞお許しください。
彼女は私の大切な侍女なのです」
「ふん!お前の侍女は もうこのダリアしかいない。禁忌の魔法を使うものなどに仕えたいという者はいないのだ。アウレリアに仕えていた侍女は、昨日のうちに全て配置換えを要求してきた。あれだけ人気者だった王太女が哀れなものよな」
お父様の口からは、よくもまあ、これほどひどいことが言えると感心するほどの、私を貶める言葉がすらすらと出てきたのだった。




