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魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される  作者: 青空一夏


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47/50

46 俯瞰視点

魔力鑑定に用いる大水晶が運び込まれた。アウレリアは静かに前へ進み、澄んだ水晶へそっと手をかざす。しかし、水晶は微動だにせず、光は揺らぎもしない。まるで“何も存在しない”かのように。広場はざわり、と大きく揺れた。


「え……?どうしてでしょうか。十歳の頃に“強力な魅了魔法属性がある”と診断されたはずですのに……」


「思った通りだな。俺はすでに――グラディス王家とヴァルステラ皇族、その双方の系譜を何代にもわたって洗い直した。だがな……そのどこにも、魅了の魔法を持つ者など一人として存在しなかった。突然変異で、精神干渉の魔法をいきなり使える者が生まれる?そんな前例は歴史上ただの一度もない」

シルヴァンは静かにため息をついたが、 次に続く声は怒りに震えていた。

「つまりだ。俺の皇妃は、存在しない罪を仕立て上げられ、十歳の頃からずっとこの帝国に嫁入りするまでの長い歳月を、グラディス王国で不当に幽閉されてきたのだ。この場に集った帝国民よ!こんな理不尽があっていいと思うか!?」


人々はどよめき、そしてアウレリアに深い同情を寄せた。民たちは口々に言い始める。

「だったら、誰がそんなことを仕組んだんだろうね?」

「皇妃様があまりにもお気の毒だよ……。十歳の頃から閉じ込められていたなんてさぁ」

「グラディス王国って怖い国だな。こんな綺麗な王女様に罪を着せるなんてさ」


人々の怒りは収まらず、「そもそも、あんな噂を最初に流したのは誰だ」という話へと発展していく。集まった民たちは、噂の出所を突き止めようと、誰がどこで聞いたのかを次々と報告し合った。そして、奇妙な一致が浮かび上がる。


どの場所でも――グラディス王国の商人一行が宿泊していた施設の近くで、その噂が広まっていたのだ。それに最初に気づいたのは、宿屋を営む宿泊業ギルドの者たちだった。数人が顔を見合わせ、ひときわ大きな声で人々に向かって叫んだ。

「グラディス王国が怪しいと思うぞ!皇妃様を幼い頃から幽閉していたというなら、今でも皇妃様を快く思っていないはずだ。十歳の子どもを閉じ込めるような連中だ。腹の黒い連中に決まってる!」


別の宿屋主も続く。

「……確かにねぇ。皇妃様のことをよく思ってない者といえば、追放されたシスターたちも怪しいよ。そういえば、シスター長に似た女を最近見た気がするね」


さらにもう一人、老舗宿の主が手を挙げた。

「わしの宿に泊まった中にもおったぞ。孤児院で見たことのあるシスターだった。他人の空似だと思っておったが……。こう見えて、宿屋を何軒か経営しておっての。孤児院へは毎年寄付もしておるから、顔ぐらいは覚えとる」


宿屋主たちの証言が重なり、点と点が線になっていく。

シルヴァンは、民たちがいま口にしている結論には、すでにずっと前から辿り着いていた。

この帝国にくだらない噂を流した黒幕は、グラディス王国の王族――アウレリアの両親と妹。

そして、その実行役は、おそらく追放されたシスターたちだ、と。


シルヴァンは、怒気を抑えきれぬまま、低く呟いた。

「……舐めた真似をしてくれたものだ。 さて、どうやってお仕置きしてやろうかな?悪意ある噂を流し、俺の最愛を幼い頃から長きにわたり幽閉しやがった……。その分の“礼”は、帝国としてきっちり返させてもらう。もちろん、正攻法でな」

その声音には、大国皇帝の威厳と底知れぬ怒りが滲んでいた。


民衆は息を呑み、沈黙のまま彼の次の言葉を待つ。シルヴァンは一歩前へ進み、胸を張って宣言した。

「これより、アルシオン帝国はグラディス王国に制裁を下す!」

響き渡る声に、民衆がざわめく。しかし皇帝はさらなる言葉で、その場を一気に掌握した。

「だが、戦争ではない。もっと頭を使う方法だ。帝国を敵に回すということが、どれほどの痛みをもたらすのか…… あの国に骨の髄まで思い知らせてやるぞ!」

怒気を帯びた宣言が、広場を震わせた。民衆は一斉に賛同の意を示す。拳を高く上に掲げ声を張り上げる者、深く頷く者、皆が皇帝の怒りを共有していった。



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