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魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される  作者: 青空一夏


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46/50

45 俯瞰視点

星祭り当日。 帝都の中心――皇城からまっすぐ伸びた大通りの先にある、アルシオン帝国で最も広い《星灯広場》は、一年に一度の星祭りを祝う人々で埋め尽くされていた。


広場の頭上には、いく筋もの縄が渡され、吊るされた灯籠が淡い光をこぼしていた。揺らめく灯りは、夜空に降りた小さな星のようだ。屋台からは焼き串の香ばしい匂いが漂い、 蜂蜜菓子の甘い香りが風と混ざる。子どもたちは星形のランプを振りながら走り回り、大人たちは杯を手にその賑わいを眺めている。


広場中央では旅芸人が火の輪を跳び、吟遊詩人の奏でる竪琴の音が夜気に溶けていく。遠くではフルートとバイオリンが軽やかな舞曲を響かせ、若い恋人たちは灯籠の下で微笑み合っていた。星の光と灯火、音楽と笑い声。帝都最大の広場は、祝福に満ちた夜に包まれていた。


「さあ、星祭りを楽しむ皆さーん!今年もやってきました。ロマンスが芽生える《マスカレード・ライク》のお時間です!」

司会役の男が朗々と声を張り上げる。


「参加方法はとても簡単!仮面をつけた女性の皆様には一列に並んでいただきます。男性は“直感で”気になったお嬢さんの前へ。そして告白の際は『お嬢さん、一曲踊ってくださいませんか?』と誘ってください!」


軽快な説明に合わせ、広場から歓声が上がる。


「女性がその手を取ればカップル成立!踊りながら親交を深め、星祭りを一緒に楽しんでください。ここで出会って結婚した者も大勢います。声をかける勇気が出ない男性には、ぴったりの催しですよ!」


盛り上がる広場から、ひゅう、と口笛が上がり、高揚した空気が波のように広がった。


「それでは、参加希望の女性の皆さま、こちらへ!仮面をつけたまま、一列にお並びくださーい!」


司会の呼びかけに応じ、広場のあちらこちらから娘たちが集まってくる。普段は質素な身なりの平民たちも、この夜ばかりは思い思いの装いで華やいでいた。


淡いリボンで髪をまとめた娘。

借り物のワンピースを大切そうに身にまとった娘。

刺繍入りのエプロンドレスで、精一杯のおしゃれをしてきた娘。

色とりどりの仮面がその素顔を隠していた。


列は瞬く間に三十名、四十名へと膨れあがり、申し込む側の男たちは女性たちをひとり一人真剣に見つめる。


「……今年こそ恋人を作りたいけど、断られたらショックだなぁ……」

「どの娘も綺麗に見えるな……迷うー」

などと、期待と緊張の入り混じったざわめきが広がった。


その列の中には、アウレリアの姿もあった。

ありふれた仮面をつけ、淡い藤色のワンピース姿。

髪はダークブラウンのカツラを、ゆるく一本に三つ編みにしている。


光を帯びた金髪、その艶やかな色は、ひと目で貴族とわかってしまう。

だからこそ彼女は、その輝きを慎重に隠していた。


ちなみにアルシオン帝国の民の多くは、髪も瞳もダークブラウンだ。身分が高くなるほど色が淡くなる傾向があり、皇帝シルヴァンの髪が白銀なのは、その象徴でもあった。


フルートの音がひときわ明るく跳ねた瞬間、司会者が大きく手を掲げる。

「さあ、男性の皆さま!直感のままに、気になったお嬢さんの前へ! 仮面をつけたままで構いません、紳士らしく胸を張って。どうぞー!」


合図と同時に、人の波が一斉に動き、無数の足音が石畳をざっと鳴らした。並んだ女性はおよそ四十名。人数は圧倒的に男性の方が多く、そのぶん、どの女性の前にも数人ずつが自然と集まっていく。


そのとき、場の空気がふっと変わった。灯籠の明かりを受けて、白銀の髪とアメジストの瞳がひときわ輝く。美貌の皇帝シルヴァンが颯爽と姿を現したのだ 。

「やぁ、アルシオン帝国の民たちよ!祭りを楽しんでいるか?実は、この女性たちの中に俺の皇妃がいる」


その瞬間、広場は大きく揺れた。 驚きの声、喜びの叫び、熱狂の波。皇妃の悪い噂が流れていたとしても、 善政と誠実さで国を治めてきた皇帝への信頼は揺るがない。民たちの視線は皆、憧れと敬意でシルヴァンに注がれていた。


「ここで皆に問いたい」

シルヴァンの静かな声が、ざわついた広場をすっと鎮めた。

「女性たちの前に並んだ人数を見てくれ。今年は誰か一人に偏ることなく、見事に散っているだろう?本当に魅了魔法が我が民に通じるなら、男たちは皇妃の前に群がっていたはずだ。つまり、アルシオン帝国の民は精神を操る類の魔法を跳ね返す“誇り高い血”を受け継いでいる。それが今ここで証明されたというわけだ」


人々が一斉に声をあげた。

「おおー! 確かに陛下のおっしゃる通りだ!」

「そうだねぇ、納得だわ。あたしたち帝国民は優秀なんだねぇ!」

誇らしげな相槌が広場を満たす中、シルヴァンは静かにアウレリアへ歩み寄り、「仮面を外してくれ」と、そっと囁いた。


アウレリアが仮面を外した瞬間、広場にどよめきが走る。その端正な美しさ、気品、柔らかな微笑みに圧倒され、彼女の前に並んでいた若者たちは一歩後ずさりし、恐縮して別の列へと移動していった。


「さぁ、若者たちよ。気に入ったお嬢さんをダンスに誘い、良い返事をもらえ。 俺も皇妃と、ここで踊りを楽しもう」

シルヴァンの宣言に、広場は歓声に包まれた。


ドラマチックなバイオリンの旋律に包まれ、若者たちは次々と意中の女性へ歩み寄り、手を差し出した。女性がそれを受け入れた瞬間、二人は仮面を外して微笑み合い、広場の中央では新たなカップルたちが軽やかに踊り始める。星祭りは最高潮の熱気に包まれた。


その渦の中心で、シルヴァンが人々に向かって声を張り上げる。

「皆に伝えたいことがある。皇妃は祖国グラディス王国で十歳の頃、強力な魅了魔法を持つと鑑定され、それを理由に北の塔へ幽閉されていた。だが今日、皆は見ただろう?我々アルシオン帝国民には、精神を侵す魔法は一切通じない。ならば問う。本当に皇妃に“邪悪な魔力”などあるのか、今ここで確かめよう!」


意外な宣言に、広場は一瞬で静まり返った。

興味と緊張が入り混じった視線が、アウレリアへと注がれたのだった。

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