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魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される  作者: 青空一夏


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「叔母上。俺の嫁は素晴らしいだろう?美しくて、聡明で、性格まで良い。欠点は……可愛すぎるところだな。清らかな心で可愛いことばかり考えるから、そばにいると抱きしめたくなって困る」


「シ、シルヴァン!恥ずかしいのでおやめくださいませ……。心が清らかなんて、褒めすぎです。それにシルヴァンの方こそ、とても察しがよくて……私の気持ちをすぐ理解してくださいます。

そんなところが、とっても大好きで――はっ……ロブレード公爵夫人の前で……恥ずかしいですわ……」


ロブレード公爵夫人は、ころころと楽しげに笑った。

「まぁ、なんてお似合いのご夫婦でしょう。お互いに愛し合っていて、本当に見ているこちらが幸せになりますわ。若いって、いいものねぇ。羨ましいくらいです。これでアルシオン帝国も安泰ですわね。私はもう“アウレリア皇妃派”ですわよ。女性嫌いだった甥っ子を、よくぞここまで夢中にさせましたこと」

私はとても感謝されて、それから優しく抱きしめられた。 私を見つめてくださるその優しい眼差しは、どこまでも温かい。


シルヴァンと昼食を一緒に食べながら、先ほどロブレード公爵夫人から伺った孤児院の件について、私は思い切って申し出た。

「皇后殿下が亡くなられてから、ずっと視察が行われていないと聞いておりますわ。それに……シルヴァンは女性ばかりの場所へ行くのはお疲れになるのでしょう?どうか、この務めは私にお任せくださいませ!」


シルヴァンは蕩けるような笑顔で、私の頭をそっと撫でる。

「……俺の皇妃が健気すぎて可愛い!ずっと気にはしていたんだが、あそこはシスターばかりだろう?女性ばかりの場所は、どうにも落ち着かん。行けば途端に頭が痛くなってしまうからな」

シルヴァンは少しだけ肩をすくめて、話し続けた。

「アウレリアと一緒にいる時だけは、不思議とそうならないのだがな。だが、孤児たちには明るい未来を与えてやりたいと思っている。だから皇室からの寄付は、毎年かなりの額を出しているんだ」


他の女性には一切近づこうとしないのに、私には誰よりも優しく、とろけるほど甘い。その落差が、くすぐったくて嬉しくて、つい頬が緩んでしまった。


◆◇◆


午後からの授業は 帝国大学教授のダニエル・トジン伯爵が担当した。

帝国史と政治学の第一人者であり、皇族の教育にも携わる名高い学者だそうだ。政治学の権威らしく、落ち着いた声で講義が始まる。


「皇妃殿下。まずは“皇室財政の基礎”をご理解いただく必要があります。皇妃は国母として、時に財務の報告を受け、意見を求められることもございますので」

「はい。ぜひ教えてくださいませ」


伯爵は、黒板に簡単な図を描くと話し始めた。

「アルシオン皇室は、民の税には一切頼りません。皇領農地、直轄陶工房、そして馬の繁殖牧場……これら“皇領”から得られる収入が、皇室の運営費の全てです」


(……あっ。これは、宝飾店でシルヴァンが教えてくれたことだわ)


伯爵は一つずつ説明していく。

「皇領農地は帝都近郊に広がる広大な土地でして、主に小麦・葡萄・薬草を生産しています。 品質が高く、帝国最上級品として高値で取引されます」


「薬草もですの?知らなかったわ」


「ええ。皇領薬草園の品質は特に高く、帝国中の宮廷医師が“皇室の薬草は別格”と太鼓判を押すほどです。この収入が、皇室財政の要ですね」


伯爵は次に陶工房の絵を描く。

「そして帝国直轄の陶工房。皇帝陛下の御成婚祝いに納められる食器なども、このアルシオン工房で作られます。帝国貴族のあいだでは、アルシオン工房の陶器は“家宝級”として扱われております」


(まぁ……アルシオン帝国ってすごいわね……)


伯爵はさらに続ける。

「最後に、皇室の馬の繁殖牧場。帝国で“最速”と評される軍馬の多くはここから生まれます。競りに出すだけでも莫大な金額が動きますし、軍への供給も皇室の大きな役割のひとつです」


私は思わず前のめりになる。

「つまり……皇妃が宝石やドレスを買っても、その費用は民の税とは無関係、ということなのですね? 陛下がそうおっしゃいましたわ」


伯爵は満足げに微笑んだ。

「まさにその通りでございます、皇妃殿下。皇妃が美しくあることは、帝国にとって“文化的外交”そのもの。民の負担を気にする必要はありません」


(シルヴァンがそう言ってくれた理由が、よくわかったわ……)


講義は続き、私は夢中でメモを取った。

どの話も興味深くて、もっと知りたくなる。

伯爵は最後に、私のノートを見て小さく息を呑んだ。


「……皇妃殿下の理解力、吸収の速さ……ここまでとは思いませんでした」

「 ありがとうございます。伯爵の講義が楽しくて時間が経つのも忘れました」

「学びを喜ぶその姿勢こそ、皇妃の器です。陛下が殿下を選ばれたのは、運命と言っても差し支えないでしょう」

 

伯爵の講義が終わる頃には、窓の外が黄金色に染まり始めていた。午後の授業は密度が高くて、頭は少し疲れているのに、胸の中は不思議なほど満たされている。


(今日も本当に、いっぱい学べたわ……)

 

ノートを閉じて立ち上がったその時、扉が静かにノックされ、シルヴァンがそっと入ってきた。


「アウレリア、迎えに来たよ」


私の顔はきっと喜びで輝いているわ。

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