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魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される  作者: 青空一夏


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「アルシオン帝国では『皇妃は国母として政治へ意見する権利』があります。そして、外交の場では皇妃が我が国の文化・芸術の“代表”になります。つまり、この国の歩く広告塔と言いましょうか……」


今、私が受けているのは皇妃としての権利と義務に関する講義だ。

先生はシルヴァンの叔母様で、先帝の妹にあたるガーネット・ロブレード公爵夫人。宮廷礼儀にかけては、帝国で右に出る者はいない“作法の第一人者” で、社交界の誰もが一目置く存在だ。


どんなことを教えていただけるのだろうと期待していたけれど、アルシオン帝国の法律は、祖国グラディス王国とはまるで違っていた。皇妃の権限は広く、国を代表して私が主催する行事も驚くほど多い。


(まぁ……なんてやりがいのあるお仕事かしら。“発言権”まで与えられるなんて……しっかりと自分の考えを表明する義務があるというのに近いですわね。本当に素晴らしいわ。しっかり学ばなくてはいけませんわね)


神殿儀式で“皇妃だけが行う特別な作法”があったり、帝国式の宮廷ダンスはグラディス王国のステップとは大きく違っていたりと、知らないことばかりで興味が尽きない。国が違えば、文化も役割も変わるもの。そんな当たり前の事実に、小さな驚きを覚えつつ……新しい知識が自分の中に積み重なっていく感覚が、ひどく心地よかった。


「帝都の中央孤児院は国内最大規模です。皇室のご寄付はもちろん、社交界での名誉を得たい貴族方や、名声を求める大商人たちからの寄付も集まります。その莫大な資金が中央孤児院に集中し、そこから地方の小さな孤児院へ分配される仕組みなのですよ」


ロブレード公爵夫人によれば、孤児院は神殿の管轄で、そこで働くのはほとんどが女性の聖職者――シスターたちなのだという。子供たちの食事の世話、教育の補助、衣服の縫い直し…… 繊細で根気のいる仕事が多いため、自然と女性中心の職場になるらしい。


「ですから、皇帝陛下は孤児院には滅多に足を運ばれませんの。女性が多い場所は、どうしても気疲れなさるのです。……いずれ孤児院の視察は、皇妃殿下のお務めとしてお任せすることになりますわ」


(孤児院が女性の職場なら、シルヴァン様が訪れにくいのも当然ですわね。身の回りのことだって、女官ではなく“男性侍従”だけで固めているくらいですし……。孤児院を視察していないのも、むしろ当然かもしれないわ。それに、あんなに美しい旦那様が職場に来たら――シスターたちだって、お仕事にならないでしょうし)


「皇妃殿下が訪れれば、子供たちもきっと大喜びいたしますわ。シスターたちも多くの責任ある仕事を任されていますから、皇妃殿下の訪問は大変心強いはずです」


「でしたら、すぐにシルヴァンに相談してみますわ。近いうちにぜひ伺いたいと思います。私、妹以外の小さな子供と触れ合ったことがほとんどありませんでしたから……楽しみですわ。妹も、幼い頃はとても可愛らしくて……あんなに私に懐いてくれていましたのに」

思わず、遠い記憶が胸を締めつける。今はすっかり変わってしまったミリアの面影を思い出し、少しだけ表情が曇ってしまう。

 

それに気づいたロブレード公爵夫人が、そっと私の肩に手を添えた。

「人間関係は、時と共に変わっていくものですわ。けれど――皇妃殿下はもうアルシオン帝国の方。いずれ帝国民の母として、多くの子供たちの支えとなるお立場なのです。皇妃殿下の愛を待っている子供たちは、この国にたくさんいますわよ」


(……そうね。過去に囚われている場合じゃないわ。ミリアのことは――もう、忘れてしまいましょう)


講義のあと、ちょっとした小テストが用意されていた。私は迷うことなくスラスラと解き進める。

ロブレード公爵夫人の授業は本当に楽しくて、新しい知識が増えるたびに胸が弾んだ。


(もっと学びたい……。今日の授業が終わってしまうのが惜しいくらいだわ)


答案を提出しながら、私は丁寧にカーテシーをした。

「とても楽しかったですわ。もっとお話を伺っていたいくらいで……ここで今日の講義が終わるのが残念なほどです。どうか、これからもよろしくお願いいたしますね」


夫人は満足げに頷き、私の提出した答案へ視線を落とした。しかし次の瞬間――目を大きく見開き、驚嘆の声を漏らす。

「……これほど高貴な気品と教養をお持ちで、しかも教えれば即座に吸収なさるとは……本当に感服いたしました。アウレリア皇妃殿下のお祖母様は、ヴァルステラ帝国のエレオノーラ皇女様でいらしたわね?」


夫人は嬉しそうに話し続けた。若いころ短期間だったがヴァルステラ帝国へ留学しており、その際お祖母様とお茶をする機会があったことを教えてくれた。そして、私がお祖母様にそっくりで、びっくりしたことも。


「はい。大好きなお祖母様に似ていると言っていただけて……とても嬉しいです」


夫人は満ち足りたように頷き、なんと私へ深くカーテシーを返してくださった。

「アウレリア殿下をアルシオン帝国の皇妃にお迎えできるとは……これほど光栄なことはございません。

私でお力になれることがあれば、どうぞ何なりとお申し付けくださいませ」

その言葉と、亡きお祖母様を思い出させるような優しい眼差しに、胸がじんわり温かく満たされるのだった。


ちょうどそのとき、扉が静かに開き、シルヴァンが様子を見に現れた。


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