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私はシルヴァンと皇城の庭園をゆっくりと歩いている。昼食のあとや夕方には、こうして二人で庭園を散歩するのが、いつの間にか私たちの日課になっていた。
柔らかな陽光が、楽園のように降り注いでいる。庭園のあちらこちらで、小さく澄んだ鳥のさえずりが聞こえていた。
風に乗って届くその音色は、まるで鈴が鳴るように軽やかだ。
花の上にとまった小鳥が、陽を浴びながら喉を震わせて歌っている。
その姿があまりに自由で、美しくて、可愛い。
(……鳥の声をこんなに近くで聞けるのが嬉しいわ……太陽の下をこんなふうに歩くのも、本当に気持ちがいいし、隣には大好きな旦那様もいる……)
シルヴァンと腕を組んで、頬に触れる光の暖かさに目を細めながら、にっこり微笑んだ。ふわりと頬を撫でる風さえ、まるで祝福のように感じる。
十歳の頃から、私は太陽を浴びて外を歩くことなど許されなかった。常に北の塔へ閉じ込められ、花の香りを胸いっぱい吸い込むことや、こうして爽やかな風を感じることすらできなかった。
「アウレリア、眩しいだろう?日傘を持って来させよう」
シルヴァンは歩調を合わせ、わずかな段差にも注意を払ってくれている。
その優しさに胸がほっこりと温まり、嬉しさが募る。
「大丈夫ですわ……。とても気持ちいいです。こんなふうに歩けるのが……ありがたくて……幸せです」
声が震えそう。嬉しくて泣きそうになるけれど、慌てて笑顔を取り繕う。
(泣いたりしたら、優しいシルヴァンが困ってしまうものね)
「そうか……」
ふと横顔を見ると、穏やかに微笑んでいた。
まるで私が光の中で笑っている姿を見ることが、彼自身の幸せであるかのように。
「……アウレリアが太陽の下で、こんなに楽しそうにしていると、俺まで嬉しくなる。ずっと……よく耐えてきたな。窮屈な思いをしてきただろうに、どうしてこんなに清らかで、気高いまま育ったんだ。俺は神に感謝したいよ」
シルヴァンの優しい声と労るような口調に、涙が込み上げた。
胸の奥で、何かがほどけていくような気がした。
(……そんなふうに言ってもらえるなんて……夢みたい……)
シルヴァンはそっと私の手を握る。
温かく、力強く、けれど驚くほど優しい。
「これからは、好きなだけ太陽の下を歩けるぞ。この帝国では、花も風も光も……全部アウレリアのものだ。俺が自分の持てる力のすべてを使ってでも、君を守るから」
もう涙をこらえられなくて、花の香りが漂う風の中で、子どものように泣きじゃくってしまった。
「……はい。ありがとうございます、シルヴァン……」
光を浴びながら大好きな旦那様に抱きしめられて、まるで世界でいちばん幸福な女性になったみたいだった。
ダリアは少し離れた場所で私たちを見守っていて、時々ハンカチで目元を拭う。きっと、私の幸せな様子に感激して泣いてくれているのだと思う。だって、いつもそうだから。
カミラは周囲に目を鋭く配って、不審者がいないかと目を光らせていた。マーサたちが庭園に近づこうとすると、手で追い払い、威嚇していた。
「せっかくの美しく清らかな純愛の世界に、どす黒い根性のマーサたちはいりません。さぁ、さっさと床磨きに戻りなさい!しっしっ!」
カミラの迫力にはマーサたちも、一言も反論できないのだった。




