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魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される  作者: 青空一夏


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「夕食までゆっくりしているといい。必要な物があれば、侍女長か……それか、俺に言え。俺は執務室にいるぞ。いつでも来ていい」

少し言いよどんでから、彼は後ろに控えているニコニコと微笑む男性を、顎で示した。

「こいつは俺の側近――参謀のアンドレだ。俺の乳母の息子なんだ。アウレリアの味方でもある。困ったら何でも言え」


「はい。アンドレ様、グラディス王国の第一王女、アウレリアでございます。よろしくお願いいたします」


「ご丁寧に、どうも。私はいつでもシルヴァン様とアウレリア様の味方ですからね。どうぞなんでもお申し付けください。好きなようにお寛ぎくださいよ。もう、この城はアウレリア様の家ですからね」


私は夕食の時間まで、部屋で休むように皇帝――シルヴァン様に優しく言われた。不器用ながらも最大限に私を大事にしたい、という気持ちが伝わってきて……今までの緊張が嘘みたいに霧散した。紹介されたアンドレ様も、とても礼儀正しくて優しい。


だから、少し行儀が悪いと思いつつも、豪奢な皇妃の部屋のベッドにゴロンと仰向けに転がった。ふかふかの感触に、思わず頬がゆるむ。両腕をぐっと伸ばせば、長旅の疲れがゆっくりと溶けていくようだった。


(嫁いだその日に、こんなふうに寛げるなんて……)


午後の日差しがレース越しに柔らかく差し込み、クリーム色のソファーまで淡く照らしている。

光はあたたかく、この部屋全体が私を抱きしめてくれているみたいに優しい。

ふわりと漂ったベルガモットの香りに、胸の奥がゆるりとほどけた。


(……天国みたい……)


王太女だった頃の部屋よりはるかに広くて、しかも、こんなにも落ち着ける部屋が自分のものになるなんて、ほんの数時間前までは想像もしていなかった。自分でも驚くほど自然に、肩の力が抜けた。


皇帝がかけてくれた言葉のひとつひとつと、あの穏やかな眼差しを思い出すだけで胸が温かくなる。“もう心配しなくていい”と、側にいるだけで伝えてくれるようで——私はそっと目を閉じた。


そこへ、コンコンッ、と忙しげなノックの後すぐに、扉が勢いよく押し開けられた。私の返事も待たずに。

「アウレリア様! こんなことは、おかしいと思います!ダリアが私たちに『メイド服を着ろ』なんて言うのです!私たちは高位貴族の娘ですし、王妃様付の侍女でしたのよ? 高貴な方のお世話しかしないのが当然なのです!」

ズカズカと足音高く、マーサたち三人が私の部屋へなだれ込んできたのだ。


(……勝手に入ってくるなんて。せっかく寛げていたのに、どうしてこう空気を読めないのかしら)

 

私はベッドの上で身を起こし、そっと息を整えた。できるだけ穏やかに。けれど、甘やかす気は一切ない。

「あら、 ダリアがそう申しつけたのなら、その通りにしなさい。あなたたちの直接の上司は、今はダリアですもの」


私が穏やかに諭していると、コンコン、と今度は礼儀正しいノックが響いた。

「 ダリアです。アウレリア様、 マーサたちがお邪魔していませんか?」


「 こちらにいますわ。 お入りなさい」


「 アウレリア様、お寛ぎのところ申し訳ございません。……ちょっとあなたたち! 何を恐れ多くも皇妃様のお部屋に勝手に侵入しているのですか! 早くメイド服に着替えなさい。あなたたちはアウレリア様を敬愛する気持ちが足りませんし、心根も汚れ切っていますから、この帝国でメイドとして、いちからやり直すべきなのです!」


マーサたちは眉をピクリと動かし、思いっきりまくしたてる。

「はぁ?私たちを誰だと思ってるの!私たち三人は侯爵家の令嬢だったのよ」


ダリアは一歩も引かず、ぴしりと言い放った。

「だからどうだと言うのです? ここはアルシオン帝国ですよ。 先ほど皇帝陛下もおっしゃったではありませんか。グラディス王国での身分や立場は関係ないと。あなた達の部屋は屋根裏部屋です。新入りメイドはそこが基本だと、メイド長から聞きましたので」


「屋、屋根裏……!? そんなところ、一日も耐えられないわッ!」


 私はにっこり笑って、マーサたちを見つめた。

「嫌ならグラディス王国に帰りなさい。私はあなたたちを連れてきた覚えはありませんわ。 あなたたちが勝手についてきたのでしょう? 勝手についてきて、勝手に文句を言われても困りますわ」


「……っ! か、帰れませんわ!」

 マーサが噛み付くように私に声を荒げた。


(本当に礼儀がなっていないわ…… 自分が私よりも身分が上だとでも思ってるのかしら?)


「王妃様から……『何があっても戻るな。逐一報告せよ』と命じられているのです……!」

「そうです!勝手に戻ったら、どんな罰が待ってるか……!」


 ダリアは冷ややかに鼻で笑った。

「つまりあなたたちは、王妃様の使い走りにすぎないのですね?」


「ち、違っ……!」










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