28 俯瞰視点
一方、その頃、グラディス王国では……ミリアが平凡すぎるレオニスに、不満を抱え始めていた。
(文官にはもっと美形がいたり、頭のいい男性もいる。騎士団には背も高くて鍛え抜かれた素敵な人もいるのに……。レオニス様って、本当に“平均的”よね。どうして私、こんな人と婚約したんだっけ?)
アウレリアが嫁いでしばらく経ってから、ミリアはようやく気づいた。自分はただ、“優秀で美しい姉が、かつての婚約者を奪われて、悔しがる顔を見たかっただけなのだ”と。それに気づいてしまえば、レオニスへの胸の高鳴りなど跡形もなく消えた。いや、元からなかったとも言える。
今や、ミリアのレオニスに対する印象は、マイナスしかない。つまらない、華がない、刺激がない、一緒にいてもときめきどころか、あくび混じりのため息ばかりが漏れた。話しかけても適当な相づちばかり。明らかにミリアの話に興味がないことがまるわかりなのだ。
(ああ、退屈な婚約者だわ。もっと素敵な恋がしてみたいのに……)
一方のレオニスも同じだった。彼が欲しかったのはミリアそのものではなく、女王の夫という地位。会話があまりにも浅いミリアとは、話しもまったく弾まない。流行のドレスの形。ルージュの色。星占いや手相にタロット。こんなものにどうやって興味を持てと?
「レオニス様、今日のラッキーカラーはピンクですわ。それから悪縁を避けるためにローズクォーツのブレスレットを――」
(……またか。未来の王配である僕が、こんなくだらない話を延々聞かされるなんて、聞いてない。恋愛運?開運アイテム?ミリアは“僕の婚約者”なんだよな?他に恋愛でもするつもりなのか?誰と恋愛する気で占ってるんだ……まったく、時間の無駄にもほどがある……割に合わなすぎる……)
とはいえ、王配の座のためには我慢するしかないと、渋々聞いてやっていた。
しかし最近では調子に乗り始めたのか、近衛騎士団長や顔のいい文官を“じっ”と眺めたあとに、
「レオニス様、髪型はそちらより、もっと華やかにした方がよろしいのでは?それと、少しは筋肉をつけて……王配になる方が貧相では国のイメージが……」
などと言い放ってくる。
(……つまり、僕の体つきや顔が物足りなくて、“鍛えるなりアクセントをつけて、もっとましな風貌になれ”とでも言いたいのか? いやいや、どの口が言うんだ?自分だってアウレリア王女殿下と比べれば、月とスッポンのくせに……解せぬ……)
レオニスはミリアが近衛隊長をうっとりと眺め、顔のいい文官に馴れ馴れしく話しかける様子を見ながら、心の中で悪態をつくのだった。




