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魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される  作者: 青空一夏


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(……お母様にそっくり。幼稚な真似をして、私を怒らせようとしているのね。でも……今は我慢しなくては……。 このような場で、この三人と言い争うわけにはいかないわ……)


そう思いながら唇を噛んでいると、皇帝が氷の刃のように冷ややかな眼差しで三人を睨んだ。

「……貴様ら。アウレリア王女の侍女なのだろう?それでいて主に向かって、その口の利き方は何だ?アウレリア王女は俺の皇妃になる女性だ。その皇妃に向かって『みっともない』だと? 『男に取り入るのが上手』だと?貴様ら、自分の立場を理解していないのか。いや、理解すらできないほど愚か者なのだろうな」


「ひっ、も、申し訳ございません!ですが、アウレリア様は、確か十一番目の側妃になると……祖国で、そのように……聞かされておりました!」

マーサは途端に青ざめ、小刻みに体を震わせた。


「あぁ、あのいかにもずる賢そうな宰相から吹き込まれたのだろう?あんなものは真っ赤な嘘だ。俺には側妃など一人もいないし、これから先も作るつもりはない。そんな面倒くさい真似、誰がするか。妻は、皇妃が一人いれば、それで十分だろう」


「「えっ!」」

この時ばかりは、お母様の侍女たちと仲の悪いはずのダリアでさえ、マーサたちと同時に間の抜けた声を漏らした。四人の侍女が揃って硬直している。


もちろん、私も心の中で驚きの声をあげていた。

(宰相の話は……嘘……だったの? 私はずっと“十一番目の側妃”になるのだと信じ込んでいたのに。“丁重には扱わない”――そう、聞かされていたのに……)


考え事をしながら歩いていたせいか、長い馬車移動で弱った脚のせいか、あるいは、北の塔での暮らしで落ちた筋力のせいか。今度はマーサたちのせいではなくて、私はまたしてもふらりと足元をよろめかせた。 その瞬間、逞しい腕が私の身体をすくい上げた。


「っ……!」


気づけば、皇帝の腕の中。とっさに抱きとめられ、そのまましっかりと胸元に引き寄せられていた。

「色々な疲れが一度に出たんだろう。もう歩かなくていい。アウレリアの部屋まで、俺が連れて行く」

低い声が、耳のすぐ傍で穏やかに響いた。


次の瞬間――

(えっ……ちょ、ちょっと待って……!?)

私はいつの間にか、完全に“お姫様抱っこ”されていた。


皇帝は迷いなく歩き出す。その歩幅は大きく、安定していて……私の身体を容易く運んでいく。後ろからはダリアと三人の侍女たちが慌ててついてきた。けれど、マーサたちの牽制で、ダリアは後ろに押しやられていた。


ところが次の瞬間、皇帝が突然、私を抱き上げたまま後ろを振り返った。鋭いアメジストの瞳が、まっすぐマーサ たちを捉える。その視線だけで空気が震え、三人の侍女たちが小さく身をすくめる。

「……貴様たち、よく聞け」

冷えた声が、石畳の上に落ちる。

「たった今から、お前たち三人は、この侍女の部下となる」

ダリアの方を顎で軽く差し示した。


「えっ……!? 私がマーサさんたちの上司でございますか?」

ダリアが戸惑いながらも、丁寧に皇帝に尋ねた。


「そうだ。この者たちを管理監督するのに適任だと思ったからな」

皇帝がニヤリと笑った。


「「は、はいっ!? わ、私どもがこの小娘の部下になるんですか!?」」

マーサ、ハンナ、ジーンが同時に叫んだ。


皇帝は構わず、ダリアに視線を落とす。

「君、名前は?」


「ダ、ダリアでございます……皇帝陛下」


「うむ。ではダリア、これよりこの三人の教育係を命じる。こいつらは主を敬う忠義心も礼節も足りていない。まずはそこから叩き込め」


「かしこまりました!」

ダリアの元気な明るい声が響いた。


「そ、そんな……! 私どもの方がダリアよりも、家柄は上です!……」

マーサたちが青ざめながらも不平を述べようとすると、皇帝は淡々と続けた。


「ここはアルシオン帝国だ。グラディス王国での身分や立場など関係ない。ダリアの指示に従わないようなら、俺が直接罰を与える。……分かったな?」

皇帝の声は低く静かだった。なのに、石畳の空気ごと震えるほどの威圧が走った。


私は、その皇帝の腕の中で、胸がぎゅっと縮こまる。怒鳴っていないのに、ここまで怖いなんて。お父様のように声を荒げたり、物に当たったりする安っぽい怒りじゃない。底冷えのするような “本物の怒り”だった。


マーサたちはガックリと肩を落とし、その横でダリアは目を輝かせていた。“ずっと嫌がらせをされてきた仇を取ってやる” とでも言いたげな、嬉しさが隠しきれていない表情で。


(皇帝陛下……私を、守って……くださったのね……これ以上、 マーサ たちに私がひどいことをされないように……この方が本気で怒れば、誰も逆らえない。これが強大な帝国の皇帝の怖さ……なのね)


嬉しく思うと同時に、少しだけ恐ろしくなった。そんな私の思いをまるで宥めるように、私を抱きかかえたまま、皇帝が、視線を向けた。さっきまで鋭かったアメジストの瞳が、氷が解けるように柔らかくなっていく。そして、 私にだけ向けて、甘くて反則めいた微笑みを浮かべた。


(そんなに甘い微笑みを、いきなり向けないで……私、……どう受け止めればいいのか、まだ分からない……)


その綺麗な笑顔に胸が跳ね、顔が熱くなるのを止められなかった。


……会ったばかりなのに……




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