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魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される  作者: 青空一夏


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21/50

20 俯瞰視点

グラディス王城──謁見の間。

   

宰相は長旅の疲れも忘れ、誇らしげな顔で頭を下げた。

「国王陛下。アルシオン帝国への使節、無事に果たして参りました」


玉座に座る国王は腕を組み、唇をゆがめる。

「ふん……で、皇帝の反応はどうだった? まさか“いらぬ”などと言い出したわけではあるまいな?」


「ご安心を。皇帝シルヴァン陛下は、アウレリア王女を『側妃の一人として迎える』と明言されました。しかも、なんと十一人目の側妃だそうです。『敵対してきた国の王女を丁重に扱うつもりはない』とも仰せられました」


「まぁっ……! 側妃の一人? 丁重にも扱われないですって? ふふ……あの子にはお似合いの縁談ですわ。」

王妃の声は、喜びを隠そうともしない。

 

ミリアも宝石の揺れる耳飾りを揺らせながら笑った。

「ふふっ。よかったわ……! お姉様が帝国で大事にされるなんて絶対に嫌でしたもの。向こうでも幽閉されるか、放っておかれるに違いないわね。最高だわ!」


そのあからさまな残酷さに、ほんの少しだけ宰相は呆れたが、内心ではうまく機嫌がとれたことにほくそ笑む。

(……王妃殿下にもミリア様にも喜んでいただけて何よりだ。これで私の息子も王配の座が確実になる……)


宰相は満面の笑みを浮かべたまま、国王の次の質問に備えた。国王がだらしなく玉座によりかかるようにして尋ねた。

「皇帝は怒っていなかったのか?若いから血気盛んだったのでは?」


「もちろん、お怒りでした。しかし、“詫びとして王女を献上する”というご提案が効きました。さすが陛下、実に見事な解決策でございました。もっとも、側妃としてもアウレリア王女殿下を大事にする気持ちは、さらさらないようでしたがね」


「そうか……! ははは! 若き皇帝にさえ、大した価値なしと見られたか。なんと哀れな……」

宰相の返答に、国王の口元が汚らしく歪む。


「ならばお義母様の亡霊も、やっと完全に消えるわねぇ。あの子がいなくなれば、王宮は本当に平和になるわ」

王妃は機嫌よく扇子をぱたぱたさせた。


「ねぇ、宰相。アルシオン帝国の皇帝って、どんなお顔なの?レオニス様と比べて……どちらの方が素敵かしら?」

ミリアがニヤニヤと笑いながら宰相に尋ねた。

 

宰相は一瞬、目を瞬かせた。

(……また面倒な質問を。本当のことを言えば不興を買うし、「息子よりも、はるかに美しい男だった」などと言えるはずもない)

少し考えるふりをしてから、宰相はわざとらしく鼻にシワを寄せ、渋い声で言った。

「皇帝は……そうですねぇ……正直申し上げて醜男でございましたな。もちろん、レオニスの方が何倍も美しいと思いますよ」

それは真っ赤な嘘だった。宰相は、シルヴァンほど整った容貌の男を見たことがないのだから。


「素敵!」

ミリアは両手を打って喜んだ。

「これで私はお姉様よりもずっと幸せになれたわ。うふふ……お姉様って つくづく、かわいそうね」


「あやつは同情される価値もない。向こうでどう扱われようが知ったことではない。戻って来なければそれでいいのだ」

国王は鼻で笑った。


「すべて陛下のご采配の賜物にございます。アウレリア様は、もはや“帝国の片隅に押しやられる運命”でしょう」

宰相は深く頭を下げ、王妃とミリアは顔を見合わせ、同時に笑った。


「そこで、陛下。お約束通り、わが息子レオニスとミリア様の婚約パーティーを、盛大に開いていただきたく存じます。」

宰相の言葉に、国王は満足げにうなずいた。


「おぉ、そうであったな……。ならばアウレリアもその場に引きずり出そう。そしてアルシオン帝国皇帝――未来のあいつの夫について、いろいろと教えてやるのだ」

国王は唇を吊り上げ、乾いた笑い声を漏らした。

「ふっ……あいつがどんな顔をするか楽しみだ。どれだけ生意気に育とうと、今回ばかりは泣き崩れるだろう」

実の娘への言葉とは思えぬほどの憎悪が、国王の声には露骨に滲んでいた。


王妃もまた、薄気味悪いほど優雅に微笑む。

「涙ぐらい、流させればよろしいのよ。あの子は北の塔に閉じ込められている今でさえ、たまに様子を見に行くと、いつも澄ました顔をしていますもの」


ミリアに至っては、鼻歌を歌いながらスカートの裾をつまみ、くるりと一回転してみせるほどの上機嫌だった。

「お姉様が真っ青になるところ、早く見たいわ!」

グラディス王家の誰一人として、アウレリアの幸せを願う者はいなかった。


◆◇◆


そして、ミリアとレオニスの婚約式当日。

貴族たちが宝石とドレスで飾り立て、大広間がまるで色とりどりの花畑のように輝いていた。


アウレリアは、ただ一人、簡素な白いワンピース姿で出席した。王妃とミリアは、これでもかとばかりに豪奢な衣装をまとい、きらびやかな宝石を身につけていた。二人はアウレリアを見つけるや否や、笑いものにしてやろうと口を開こうとする。だが、すぐには声にならない。飾り気のない一枚布のワンピース。 にもかかわらず、いや、それゆえに、アウレリアの美しさはむしろ一層、際立っていたのだ。


王太后譲りの気高い面差し。すっと伸びた背筋。

揺るぎない意志と誇りを宿したサファイアブルーの瞳。

黄金に輝く真っ直ぐな金髪。

そして一つ一つの仕草に滲む、淑女としての気高い矜持。

そこにいるのは、どんな宝石よりも人目を奪う、まぎれもない第一王女の風格だった。


王妃は慌てて取り巻きたちに視線を送るが、 誰もアウレリアを貶す言葉を言おうとしない。むしろ「自分が悪口を口にするなんて恐れ多い」とでも言いたげに黙り込んでいた。


しびれを切らした王妃が、仕方なく自分で声を張り上げる。

「まあ、なんてみすぼらしいワンピースかしら!このような晴れの場に、そんな格好で来るなんて……。まったく、教育を受けていないから、状況にふさわしい服装も分からないのですわね!」

王妃はホホホと扇子で口元を隠して笑う。


アウレリアはその姿を、冷たいほど静かな目で見つめた。王妃の戯言を一度受け止め、穏やかにではあるが、はっきりと言葉を返す。

「お言葉ですが、これはお母様がくださったワンピースでございます。

半袖と長袖を、それぞれ二着ずつ。私が持つ衣服は、その四枚だけです」

 

会場の空気がわずかに揺れた。

「いくら 何でも ひどい扱いではありませんか?」「孤児院の子供たちのほうがよほど衣装持ちなのでは?」

心ある貴婦人たちは、アウレリアの言葉に同情を寄せた。


しかし、アウレリアは淡々とその先を続ける。

「ですから、この場にふさわしいドレスなど、そもそも私の手元には一着もございません。そして『教育が行き届いていない』と仰いましたが、それはお父様が、私への教育を打ち切られたからですよね?私を貶めるのは筋違いではありませんか?」

その声音には怒りも嘆きもなく、ただ凛とした真実だけがあった。


王妃は言葉を失った。扇子を握る手がみるみる白くなり、薄く貼りつけた笑みが引きつっていく。完璧な正論を突きつけられ、反論する余地を完全に失った王妃は、ただ扇子の陰で歯を食いしばることしかできなかった。




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