表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される  作者: 青空一夏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/50

13

あれから数ヶ月が過ぎ、気づけば年がひとつ、またひとつと重なっていった。 北の塔での暮らしは不自由で、自由も未来も奪われていた。けれど……それでも“地獄”ではなかった。

 

ダリアは相変わらず朝から晩まで私のそばにいてくれたし、クラリス先生も週に三回、授業のために塔を訪れてくれた。先生はヴァルステラ帝国の高位貴族のご令嬢で、とても優秀だったために、お祖母様に呼び寄せられた方だ。


実家が没落しかかっていたことは知らなかったけれど、先生は「王太后様に助けられ、とても感謝しております」と、私に改めて教えてくれた。


先生から古いバイオリンを譲っていただき、以前と同じように練習を続けることもできた。月に一度だけ許されている王宮の図書館も、私は最大限に活用した。


読みたい本や、身につけるべき分野のテキストを事前にクラリス先生と相談してリストアップし、ダリアと二人で何度も往復して、何十冊もの本を部屋へ運び込んだ。借りられる冊数に制限がないのは、本好きの私にとって何よりの救いだった。


そうして私は毎日、小さな目標を立て、やるべきことに没頭した。退屈する暇など、どこにもなかった。


食事の質は少しずつ落ちていったけれど、飢えるほどではない。夜にメインディッシュがない日があっても、朝の卵料理が消える日があっても、クラリス先生が授業のたびに、栄養価の高い手作り料理や、日持ちするお菓子を持ってきてくださった。三人で先生の美味しいお料理を囲む時間は、私にとって小さな“幸福”だった。

 

そうして私は、閉ざされた塔の中でも、学び、考え、少しずつ成長していった。泣く夜もあったし、悔しくて眠れない日もあった。それでも、私には“味方が二人”いた。その存在が、折れそうになる心をいつも支えてくれた。


気がつけば、 塔に来た頃の幼い私ではなくなっていた。手足は伸び、鏡に映る輪郭もすっかり変わり、十歳の頃に着ていたドレスはとうに身体に合わなくなっていた。お母様から渡されたのは、飾り気のない簡素なワンピースが数枚だけだった。けれど、クラリス先生は節目ごとに可愛らしいワンピースを贈ってくださり、髪に使う香油や、年頃の少女が身だしなみを整えるための化粧品まで用意してくださった。塔の暮らしは窮屈で、色のない日々だったからこそ、先生が持ってきてくださる小さな贈り物は、私に“外の世界の息吹”を思い出させ、何よりの宝物になった。少女から、ひとりの「淑女」へ。北の塔の中で静かに、けれど確かに、私は成長していた。


そして迎えた建国記念祭の日。

塔の外からは、人々の笑い声や乾杯する音が絶え間なく響いていた。

塔の一階にいる騎士たちからも、酔いの回った明るい笑い声が聞こえてくる。


「今日は無礼講ですからね。使用人たちも皆、昼間からお酒を呑んで浮かれています。多少羽目を外しても許される日ですが、どこへ行っても酔っ払いで溢れていますよ」

ダリアは苦笑しながらそう言った。実際、私の昼食にもワインが添えられていた。


その日の昼下がり、ダリアとクラリス先生が音色に耳を傾けるなか、私はバイオリンを奏でていた。すると、ドタドタと塔の階段を駆け上がってくる足音がし、続いて扉を開けようとする気配のあと、ドンドンと乱暴なノックが響いた。


北の塔には外鍵こそなかったが、一階の詰所には騎士が常に詰めており、塔から自由に私が出ることは事実上できなかった。

部屋の扉だけは内側から施錠でき、授業中や就寝時には、私自身が鍵をかけていた。今日も例外ではなく、今は内側から鍵をかけている。


「おーい、お姫様ー!ここを開けて、一緒に飲みませんかー?」


「すっごく綺麗なバイオリンの音色がしたんだよ! 俺たちにも聞かせてくれよー!できれば、酒もついでほしいなぁー!」


「お美しい王女様ー!顔だけでも!拝ませてくださーい!隊長が言ってたんですよ、すごい美人だって……ちらっと……ほんの少し見られたら……それだけでいいんですってばぁー」


呂律の回らない、完全に酔った下級騎士たちの声だった。かつて王太女だった私を守ってくれていた近衛騎士とは違う。幽閉されてからひと月も経たないうちに、この塔の警備は下級騎士に置き換えられていた。


「無礼なっ! アウレリア様に向かって『酒をつげ』などと言うとはっ!……言語道断です!」


ダリアが怒りで頬を真っ赤にしながら叫んだ。その横でクラリス先生は、授業で使う長い木製の定規をしっかり握りしめ、扉が破られたときに備えて前へと一歩踏み出す。ダリアも負けておらず、手近にあった金属製のトレイを盾のように構え、私を庇うようにして立ちはだかった。


二人とも、万が一侵入されても私だけは守るつもりなのだ。

その真剣さが、ひしひしと伝わってきたのだった。






 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ