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魅了魔法持ち王女は、女嫌いの皇帝に一途に溺愛される  作者: 青空一夏


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10/50

( お祖母様がいらっしゃった頃はとても優しかったお父様。あの頃は愛されていると思っていた。でも それは違ったようね……)


私は罪人のように騎士たちに挟まれて、城の敷地の隅にある隔離用の北の塔まで移動した。真っ白な塔は中に入ると石造りでひんやりと冷たい。窓が小さいのは逃亡を許さないためで、換気とほんの少しの光を入れるためのものにすぎない。


華やかな壁紙はもちろん貼られていない。ただむき出しの壁が白く塗られているだけだった。家具は机と椅子、そして簡素なベッドだけ。


「……アウレリア様。ここはとても寒いですね。暖炉にすぐ火をつけますね。あら、薪が足りません。燃料庫に行って、もっとたくさんもらってきます。すぐ戻りますから、どうかここでお待ちくださいませ」


しばらくして帰ってきたダリアは、がっかりして肩を落としていた。


「 燃料庫を守っている役人が、『アウレリア王女殿下が使う薪は制限されてる』と言うんです。 だからこれ以上は渡せないと言われました。 そんなことってあるでしょうか?あんまりです」


「そう。だったら大事に薪を使うしかないわね。 まだ昼間のうちはそれほど寒くないから、 夜に使うことにしましょう。体を動かしていれば寒くないわよ。ちょっとこの辺のお掃除でもしましょうか」


「王女様がお掃除ですか? おやめください、私がしますから。と言っても、ざっと見渡す限り、それほど汚れたところはありませんね。家具が最低限しかないこともありますけれど、床をモップで拭いてしまったら、もうおしまいなんじゃありませんか?あっ、今のうちにアウレリア様の部屋から、できるだけ物を運んでこなければ。ちょっと、行ってきますね」


そう言ってダリアは、私の身の回りの下着類やドレスを数着と読みかけの本、お祖母様の形見の宝石箱を持ってきてくれた。そして2回目に荷物を取りに行った時には、手ぶらで戻ってきた。


「ミリア様が、あのお部屋に移るそうです。それで、あそこにあるものは全てミリア様のものになるんだと言われて、これ以上持ち出すことはできませんでした。それにしてもミリア様ってあんな方だったんですね。私はすっかり見損ないましたわ」


「何か言われたの?」


「えぇっと、まぁ、はい。ですが、 アウレリア様にお伝えするようなことではありません。

申し訳ありません……アウレリア様には、妹姫に当たる方の悪口を言ってしまって」


「いいのよ。 私もあんな子だとは思わなかったし……それにしても何を言われたのか、とても気になるわ。きっと意地悪なことを言われたのでしょうね。かわいそうに」


「いいえ、私が意地悪をされたわけではないんです。 何と言うか、ミリア様から 自分の専属侍女にならないかと誘われたんです。『 お姉様 の侍女でいると、ダリアが損するのよ。だから私の専属侍女になりなさい。もうお姉様は誰にも尊敬されないし愛されることもないの。厄介者になったのよ』などと、おっしゃったのです。厄介者なんて言葉、どこから出てきたのでしょうか!本当に腹立たしいばかりです」


「そう……きっと お父様 やお母様がおっしゃったのかもしれないわ。でも、いいのよ。あちらが私を捨てたのだから、私もあの人達を捨てるわ。もう家族とは思わないから……私の家族はダリアだけよ。……側にいてくれて……本当にありがとう」


「 アウレリア様、もったいないお言葉にございます。私はどんなことになってもアウレリア様についてまいりますからね!大事な大事な私の王女様ですから」


「……ありがとう。……ダリアがいてくれて本当に良かった」


その日の夕食は、驚くほどいつもと同じだった。ダリアがトレイを抱えて部屋へ入り、ほっと息をついたように微笑む。


「食事の方は以前と変わりませんね。前菜、サラダ、スープ、メイン、パン……それに、ちゃんとデザートまであります。よかった……食事まで粗末にされたら、本当に耐えられませんから」


安心したようにニコニコしながら給仕してくれるダリアを見て、私はふと気になって声をかける。


「ダリアの食事は大丈夫なの? あなたの部屋はどこ?」

「ご心配なく。私は今まで通り侍女控え室で食事がいただけますし、部屋はこの塔の下の階です。何かあればいつでもお呼びくださいね」


下の階にダリアがいてくれると思うと、それだけで心が強くなる。食欲はあまりなかったけれど、私は一生懸命フォークを動かした。こんなことでへこたれていられない。まずは食べて、体力を落とさないようにしなくちゃ。


その夜。

灯りの落ちた薄暗い部屋のなかで、私はひとり、静かに身を横たえていた。

ダリアの前では「もう家族とは思わない」と言い切った。

お父様も、お母様も、ミリアも。

私を侮辱し切り捨て、踏みにじったあの人たちは、確かにもう“家族”ではない。そう思ったはずなのに。


ベッドに身を沈め目を閉じた途端、じわりと涙が湧き上がった。


(どうして……?どうしてあんなにひどいことを言えるの……?どうして、今まで努力してきたことを全部“まやかし”だと決めつけるの……?私が何をしたというの……?)


攻撃され、蔑まれ、裏切られたあの光景が頭の中を巡る。堪えようとしたのに、まぶたの端からそっと涙がこぼれ落ちた。

枕に染み込んでいく湿り気だけが、自分が泣いているという事実を静かに告げる。

叫ぶこともできず、誰にも見つからないように顔をうずめて、私はただ息を殺した。


十歳になったばかりの私の心には、あまりにも深い傷だった。







 

 


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