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おそろい――2

 時刻が四時を過ぎた頃、俺たちは電車に乗って帰路についていた。車窓から見える街並みは茜色に染まっている。


 俺と月花はロングシートに隣り合って座っている。左隣にいる月花は、俺が贈ったマグカップの包みを大事そうに抱え、嬉しそうに唇をほころばせていた。


 おそろいのマグカップを持っていることに喜ぶ月花の姿に、俺の胸がキュウッとなった。最後の最後まで、俺の心臓は休ませてもらえないらしい。


 今日一日でどれだけドキドキしたかわからない。もしかしたら、恋愛というものは意外と大変なのかもしれない。


 こんな感想、月花が恋人役になってくれなかったら得られなかったんだろうなあ。


 頬を緩めながら俺は振り返る。


 月花がお隣さんになってから、俺の面倒を見はじめてから、人生で一番心が動いている気がする。月花の言動に一喜一憂したり、逆に月花が俺の言動で一喜一憂したり――楽しいことばかりではないけれど、こんなにも充実した日々を送ったことは、いままでになかった。


 青春って、こういう日々のことを指すのかもしれないなあ。


 遠い目をしながらそんなことを考えていると、不意に左肩に重みを感じた。


 なんだろうと思って目をやると、月花が俺の肩に頭を乗せている。


「つ、月花!?」


 アタフタとしながら声をかけるも、月花からの返事はなかった。聞こえるのは静かな呼吸音だけ。どうやら眠ってしまったらしい。


 パチパチとまばたきをして、俺は苦笑した。


「今日はいっぱい歩いたもんなあ。それに、いつも俺の面倒を見てくれているし……疲れちゃうよな、そりゃ」


 なら、起こすのはかわいそうだ。照れくさいし、周りの視線も気になるけど、俺の肩でよければ貸してあげよう。


 穏やかな寝息を聞きながら、心地よい重みを感じながら、起こさないようにそっと、月花の頭を撫でる。


「いつもありがとう、月花。月花がお隣さんになってくれて、本当によかったよ」


 鏡を見なくてもわかる。いまの俺はきっと、我が子を見守る父親みたいに、優しい表情を浮かべていることだろう。

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