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おそろい――1

 昼食をとったあと、俺たちは先ほどの大型複合商業施設に戻ってきて、予定通りウィンドウショッピングをはじめた。


 だが、いくら店を回っても、俺も月花もちっとも集中できなかった。隣にいる存在を意識しすぎているためだ。


「……」

「……」


 無言のまま、俺と月花はチラチラと互いをうかがい、目が合ってはパッと逸らしてを繰り返している。あーんと間接キスをし合ったのだから、互いに相手が気になるのも無理はない。


 それでも、俺は月花と手を繋いでいた。放そうとはしなかった。気恥ずかしさよりも、触れ合っていたいという思いが勝っているからだ。


 ……月花も同じことを考えてたら、嬉しいな。


 ふとそんな願いが頭に浮かび、なんとも言えない気分になる。月花が俺のことを好きなんじゃないかと思いついたときから、思考回路がピンク色になってしまったらしい。


 むず痒さを覚えながら月花のほうをうかがうと、向こうもこちらに目をやっていた。何回目かもわからない視線の交差。即座に俺と月花は目を逸らし、互いに真正面を向く。


 俺たちが目を逸らした先には雑貨屋があった。その店頭に陳列された、ある商品に目がとまる。オレンジと水色のマグカップ。どうやらペアカップのようだ。


「「ステキなマグカップ……」」


 独り言のつもりで口にした感想が、隣から聞こえた声と重なる。目を丸くしてそちらを向くと、俺と同じように月花が目を丸くしていた。互いに同じ商品を見て、同じ感想を抱いていたらしい。


「……ぷっ」

「ふふっ」


 それがなんだかおかしくて、俺と月花はふたりで笑みをこぼす。おかげで緊張が幾分(いくぶん)か和らいだ。


 平常心を取り戻した俺は、月花に提案する。


「気に入ったなら、買ってく?」

「けど、奢ってもらってばっかりじゃ悪いよ」


 月花が眉を寝かせた。


 今回、映画のチケット代と昼食代は、俺が作家業で得た印税から払っている。デートしてくれたお礼におもてなししたかったからなのだが、月花はそのことを申し訳なく感じてしまったらしい。


 いつも俺のほうがもらってばかりなんだし、遠慮する必要なんてないのになあ……月花は本当に律儀だ。


 俺は苦笑を浮かべ、「だったらさ?」と新たに提案する。


「互いに相手のマグカップを買って、贈り合わない?」

「贈り合う? プレゼントするってこと?」


 キョトンとする月花に、俺は照れくさい気持ちになりながら、頷く。


「そうすれば、一方的に奢られることにはならないし、それって、なんていうか……こ、恋人っぽくないかな?」


 頬をポリポリと掻きながら言うと、月花の頬に朱が差した。


 月花がうつむき、恥ずかしそうに指先をモジモジとさせて、それでもはにかみ笑顔を見せる。


「うん……わたしも、そう思う」


 よく考えれば、俺が提案した方法より、それぞれが自分のマグカップを買ったほうが手っ取り早い。俺はもちろん、月花もわかっているだろう。


 けれど、どちらもそのことを口にしなかった。当然だ。その指摘は無粋というものなのだから。

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