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元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女  作者:
2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
92/103

92話 格好良いタイミングで出てこれました?

「公国を併合された事を逆恨みした魔女が恐ろしい魔法を使って水路の水を毒に変えた、というところね」


 筋書きとしては上等でしょと笑う。


「そんなこと」


 どう信じろと言うのか。私が水路になにかを撒く姿を帝国民が見るわけでもない。


「気が早いわね。ここからが大事な所よ」


 焦りがあるにも関わらず随分と面白そうに話す。


「お前は毒を撒いたと同時に殺害される。水路にはお前の死体と毒の入った瓶が浮くからすぐに知れるというわけ」


 それは今ここで私を殺すということ?


「イルミナルクスの公爵は魔女を使って水路に毒を撒いていたけど、魔女を殺害し口封じをしようとする。ここで私とレックスがお前たちの罪を暴きすべて明るみに出し、あの子供は裁判にかけられる」

「嘘じゃないですか。仮にそれをでっちあげようとしても確証がない」

「いいえ? お前の髪飾りはイルミナルクス製……あの子供が寄越したものでしょう。それが証拠よ」

「贈り物が殺人の証拠になるはずない」

「なるわよ。させるもの」


 また裏でうまいことやらかす気ね。本当十年経ってもまだおさまらないなんて同情の余地すらない。 


「最後はかろうじて生き残った帝国民を聖女である私が解毒し癒せば完成だわ」


 聖女フィクタを完成させる為、私を亡きものにして治癒の力を知らしめる。サクを断罪して第一皇子が皇帝に登り詰める。これを機にイルミナルクスに宣戦布告し、領土拡大を進めていく。フィクタのシナリオに辟易した。

 なんでこの人たちはほっといてくれないんだろう。旧ステラモリスの家でもイルミナルクスでもウニバーシタスでもどこでもいい、私はサクと一緒に静かに暮らしたくて生きたいと思えた。この人は結婚はなかったことになったとはいえ第一皇子と二人でいられればそれでいいとは思えないのだろうか。


「そんなことやめて下さい」

「でしゃばらなければよかったわね。お前達二人して色気付いて目立った罰よ」


 最高の聖女と最高の皇帝に対して不敬だと言う。第一皇子は皇帝になってないし、本当の聖女もサクだ。


「どうせ後少しで死ぬのだから、いつ死のうと変わらないでしょう」

「呪いなんて知らない」

「強がりを」

「知らない。これから先も私はサクと一緒にいる」

「生意気ね。いいわ、私の力で死ねばいい」


 遊びは終わりだと言ってフィクタが呪いを発動した。


「……痛くない」


 どきりとしたけど、現れた光はすぐに終息する。


「……なんですって?」


 僅かに光っているのを見ると、まだ呪いは生きてる? でも発動しないのならこちらのものだ。


「あと一歩という所か」

「しかしこれなら時間経過で自然に呪いが消えるレベルでもある。すぐにというなら、もう一押しクラスが強く望めばというところか」

「ドラゴン、フェンリル」


 呪いなんぞ元からなかったがなと二人が笑う。時間が経てば自然に呪いがなくなると言った

 そしたら私はこの春から先を過ごすことができる? サクに返事ができる?


「ふん、一度跳ね返した程度で調子に乗るなんて浅はかね」


 フィクタが目配せすると控えていた騎士達が剣を抜いた。逃げられないように囲まれている。じりじり近づいてくる中、フェンリルが威嚇した。


「どう死のうと全てのあの子供に罪を着せるのだから」


 鬱陶しいわとフィクタが眉間に皺を寄せる。


「私が聖女よ。お前じゃない」


 再び呪いを被せようとしてくるのを実感できるぐらいきちんと跳ね返した。呪いの光が霧散していく姿を見て新しい呪いは被らないと悟る。あと一息だとドラゴンが笑った。


「今はクラスが生きる思いを強く持っているから、あの程度の呪いなら跳ね返せる」

「そうなの? これ、私の力?」

「今はクラスの中にある程度力がとどまっているのもあるがね」

「……聖女の力」


 サクの力?


「何をぶつぶつと……飼い犬と話すなんておかしくなったの」


 フィクタが嘲笑う。同時殺せと高らかに叫び、フィクタの護衛騎士たちが剣を振り被った。

 フェンリルが吠え騎士に飛び掛った。腕に咬みつき痛みに剣を落とすと瞬間騎士は炎に包まれる。フェンリルの魔法だ。


「フェンリルは炎と相性がいい。私は水だな」


 水路の大本から水の柱が上がったかと思うと竜の形を伴ってこちらに突っ込んできた。大きな口を開けて私に剣を向けた騎士を数名飲み込んで消える。


「すごい……」

「な、なに?」


 得体の知れないところから魔法と思しきものが出され、フィクタも騎士たちも怯んだ。動きが止まる。


「生意気だわ。お前、そんな力を」

「私じゃないです」

「え?」

「二人の力です。いつも私の側にいて助けてくれる二人の力です」


 二人? と顔を顰めるフィクタに余裕はなかった。肩に乗るドラゴンを撫で、側に戻ったフェンリルを撫でると周囲に緊張感が走る。


「やっぱりお前はおかしいのよ。いい加減さっさと死んで頂戴」

「嫌です。私、サクと一緒にこれから先も生きます」


 怯まない私にフィクタが痺れを切らし、残る騎士たちに殺せと怒声を浴びせた。

 動けずにいた騎士たちがびくりと肩を鳴らした後、互いに目を合わせてから一斉に飛び掛って来る。


「整ったか」


 ドラゴンが嬉しそうに囁くタイミングで、目の前の騎士が振り被った剣が止められる。私の前が影になった。


「どうです? 格好良いタイミングで出てこれました?」

別に好機を待っていたわけではなくて、間に合わないかもしれないと焦った男を見せたくなくて格好つけてるだけの男です(なので実際は滅茶苦茶焦ってる)。やっとヒーローらしいことした気がする(遅すぎる)。

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