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元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女  作者:
2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
86/103

86話 皇帝陛下謁見ならず

 城の様子が違う。

 妙にざわついていて緊張感がある。

 サクは難しい顔をして周囲の様子を見てるだけだった。


「サク」

「ええ、大丈夫です。謁見許可は得ているので奥へ進みましょう」


 けど、それは叶わなかった。謁見の間ではなく、執務用の応接室で対面する予定だったが、部屋の前の護衛が先に進ませてくれなかったからだ。


「皇帝陛下は体調を崩されている。謁見は辞退願おう」

「体調を? ならお見舞いを」

「全ての謁見が禁じられている」


 扉の護衛には見覚えがなかった。王陛下の護衛は専属で温厚な騎士ばかりだったから覚えていたけど、目の前の騎士に記憶はない。


「何故第一皇子専属護衛がここに?」


 私の意図を汲んだサクが静かに扉の前の護衛に声をかける。やっぱりいつもの護衛と違っていた。


「皇帝陛下の不測の事態に第一皇子自ら対応しているまでのこと」

「それは陛下自身が望んだことですか?」

「貴公に話すべき内容ではない」

「皇帝陛下が国政を運営できない時の対処は法に定められている。立太子した継承候補か、それがいなければ宰相と議会員の中から選別、もしくは議会の議決が優先される。余程の緊急性があるものに限り皇帝陛下に任命権があり任命された者が行使できるが」

「なにを」

「法の上では第一皇子では条件不足かと。皇帝陛下が任命されたものですか?」

「……貴公にお答えする範疇をこえています。お帰り下さい」


 突っ返された。仕方なしに来た道を戻って角を曲がるとサクの顔が不機嫌に歪んだ。


「あいつ、勝手しやがって」

「第一皇子?」

「ええ。こうなると状況があまり良くない」

「皇帝陛下が?」


 サクが黙ってしまった。まさかとは思うけど、サク曰く命までは奪われてない。


「おやおやおや、こんなところにいていいのか?」


 護衛を伴った第一皇子が向かいからやって来る。愉快そうに笑みを刻み、サクの目の前に立った。


「敵国イルミナルクスの人間がウニバーシタスの城にいるとはな」

「敵?」

「その様子では何も知らないようだな」


 楽しそうに笑う第一皇子の姿は十年前ですら見たことがなかった。対してサクの機嫌は急激に悪くなってきている。第一皇子の護衛に緊張が走った。そんな中、変わらず愉快だと笑いながら第一皇子が口を開く。


「開戦だ」

「は?」

「イルミナルクスが我が帝国騎士に危害を及ぼしただろう。先に仕掛けてきたのはそっちだ。先程帝国の威信をかけて戦うと決定した」

「臨時議会を開いたのか?」


 途端廊下に笑い声がよく響いた。片手を額に当てて、お前は馬鹿かと嘲笑う。


「そんなもの必要ないだろう! 帝国の長である俺が決める事が絶対だ」

「法に背くと?」

「皇帝が動けない今、俺が継承権第一位であり、最も皇帝に近い。俺が決めてなにも問題はない」


 大ありだろうがとサクが聞こえるか聞こえない声で囁く。相当我慢してる。


「なんだ、ぐうの音も出ないか」


 と、第一皇子の視線が私に移るとすぐにサクの後ろに誘導された。


「魔女が何故ここに」


 この人めかし込んでる私が分かるんだ。自分でもちょっと別人とか思ってたのに。


「ああそうだ」


 第一皇子は再び楽しそうに顔を歪めた。


「開戦に先駆けて一般兵も投入予定だが、最前線は旧ステラモリス公国民にするか」

「え?」

「罪滅ぼしだ。生活を保障してやっているのにも関わらず図に乗る公国民がいるからな?」


 私の事を指しているのは嫌でも分かる。でもそれと公国民が徴兵されることは関係ない。


「雪崩を意図的に起こし帝国民を危機に陥れた魔女の罪は公国民がすべからく償うということだ」

「雪崩は人為的に起こせない」

「そこの魔女がやったことだろうが」

「二十年前からあの地は火山性地震が起きていたし、一帯を調べればその前からあの地で火山活動がある事が証明できている。そこから揺れの大きさや頻度、地盤沈下や軽度の崖崩れ、地割れ等周辺の異常を統計とり、集計・算出すれば近い内にサラマンドラ山が噴火する事は明白だった。丁度季節が冬であの山に多くの雪が堆積していたから雪崩になっただけだろうが」


 難しい話はいまいち響かないのか、第一皇子が少し引いた。割と噛み砕いて話してくれていると思うけど。


「は、お前がどう言いがかりをつけようと、そこの魔女は帝国の人間。帝国がどのように罪を償わせようと他国の人間が介入できる話じゃないんだよ。十年前はうまくいったようだが、今回の開戦にあたってはそこの魔女も前線に出してやる。いい的だな」


 冤罪を晴らしたことを根に持っている。十年前も今も第一皇子にとってサクは敵だ。


「ステラモリス公はウニバーシタスの人間ではない」

「屁理屈を」

「所在抹消した」

「あ?」


 サクってばまだ手続き終えてないのに鎌をかけてきた。当然醜悪に第一皇子の顔が歪む。


「彼女はウニバーシタス帝国民から所在抹消し、イルミナルクス王国民となった」

「そんなことができるはずが」

「皇帝直々に許しを得たから問題ない」

「なにを」


 第一皇子の不機嫌が増した。いい加減この場から離れた方がいい気がする。怒りが一定を超えると何をしでかすか分からない。


「あの、」


 声をかけると、二人の不機嫌がこちらを見る。サクはだいぶ抑えてくれているけど、この不機嫌は早く距離を取らないとだめなやつ。

 そしたら驚かせて、論をぶつけ合うこと自体から離れさせよう。


「私、ウニバーシタス帝国民やめるんです」

「そう簡単に許されるはずがない」

「け、結婚するんです!」

「は?」

「え?」

いくらはったりきかせてても、は?ってなりますよ。だって結婚だもの!(笑)

クラスのこういうちょっと抜けてるというかサクにとって予想だにしなとこが好きです。なんでも繋がりで分かっちゃうサクにとって分かりにくい存在だから癖になるだろうなと思います。

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