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元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女  作者:
2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
78/103

78話 デート最終日

 テーブル会計をすませる。

 作法は正直ぎりぎりというところだろう。人目の触れない席で良かったけど、きちんと勉強し直さないといけない。恥ずかしさと反省を抱えながら店内を通るとサクに声がかかった。


「アチェンディーテ公爵」

「マーオン侯爵」


 ここは各国から派遣されたサクと同じ立場の人御用達だろうから、サクの知ってる人がいてもおかしくない。

 声をかけてきたのはシレたちよりも年上の落ち着いた夫婦だった。


「君がここを利用するなんて珍しいね」

「今日は大事な日でしたので」

「ああ、彼女が君の言ってた」

「はい」


 なにを言っていたのと思いつつも挨拶をする。サクの叔父に会った時と一緒でどぎまぎしてしまう。人に会わなさすぎて、知らない人だと勝手が分からない。


「彼が小さい頃から話していたから初めてな気がしませんね」


 国家連合成立に携わった人物で、十年前からサクのことを知っていた。縁談を片っ端から断っていた話や、暇があれば私のよさを語る話、同棲やら結婚に向けての計画と、色々話していたことを教えてもらう。

 ここでも結婚が確定しているの? というか十年前、別れた直後からひどかった。同じ年頃の友達でもとご令嬢を紹介をしようとしたら、将来を決めた人がいるから女性とは二人きりで会わないと断られたエピソードを聞いて頭を抱えたかった。どう反応したらいいの。


「アチェンディーテ公爵」


 別の所からも声がかかる。いつの間にかサクの回りに人が集まり始めた。お店としても問題ないのはいいとして、私は挨拶だけで精一杯だった。


「クラス」


 離れないよう腰を抱かれる。人前はやめてほしかったけど、知らない人ばかりに囲まれて慌てていたのが少し落ち着いた。すごい効果だ。

 一言いれてサクが程よいところで話を切ってくれた。そのまま店をでる。


「時間をかけてしまってすみません」

「大丈夫。サクの知り合いたくさんいるんだし、ご飯美味しかったし」

「クラス」


 充分だと言おうとする私にサクが本当にと問う。

 言っていいんですとも。私が言い淀んでいるのをきちんと言えるまで待ってくれた。


「……本当はもっと静かなのがいい、かな」

「気を付けます」

「でもサクが人気者なのは嬉しい」

「そう、ですか」


 サクはたくさんの人に囲まれて幸せに過ごしてほしいと思った。十年前から変わらない。


「楽しかったのは本当だから」

「ありがとうございます」


 サクも心なしかご機嫌に見えた。瞳の奥が輝いているから当たりだろう。


「サクも楽しかった?」

「ええとても」


 満足そうなサクを見てると私もつい笑ってしまう。


「いちゃいちゃできたので!」


 そこなの。

 肩が落ちて呆れてしまった。



* * *



「今日は邪魔が入りません!」


 うっはうはのサクがベッドで待っていた。メルの見張りのおかげで一緒に寝られなかったのを根に持っていたらしい。溜息を吐きながら広いベッドに入り込むとサクが手に取って引き寄せてくる。


「サクっ」

「まだ緊張してる?」

「え?」

「なるたけ負担を減らしたつもりだったけど」


 さっきの夕飯のことを言っていたらしい。ベッドでいつもの寝方、ようは抱きしめられたまま、頭の上からサクの言葉が降りてくる。


「ご飯、美味しかったよ。ありがと」

「良かった」

「席も配慮してくれたから助かったし」

「今度はソファ席で横に並んで食べる」


 そしたらもっといちゃいちゃできる、とサクがぼそりと言った。この距離だと丸聞こえだけど。


「今度、きちんとテーブルマナー勉強し直すね」

「ん?」

「だって辛うじて基本をこなせた程度だったし、サクの知ってる人が来ても大したことも言えなかったから愛想とか話す技術も必要だよね」

「え?」

「そんなにマナーなってなかった?」

「いえ、そうじゃなくて……」


 サクの戸惑いが分かって、少し離れてサクの顔を見た。瞠目して言葉を失っている。


「サク?」

「次も一緒に行ってくれるって事?」

「……え。あ、ちが」

「服の数だけデート」

「またそんなこと言って」


 からかってくるんだから。

 むすっとしていると、ちょっと驚きました、とサクが改めて言った。でもサクはいつも私の発言をやたらポジティブに捉えるんだから、これも日常じゃないの?


「クラスが僕の立場に合わせてくれるって事でしょう?」

「ん?」

「いえ、側にいてくれるだけで充分なんですけど、社交マナーを身に着けようとしてるから」

「!」


 かっと頬に熱が集まった。普段の生活ならどこにもテーブルマナーを学ぶ必要がない。なのに私ったらサクと一緒にきちんとコース料理食べれるようにならなきゃって考えてた。挙句、サクの知ってる人に会ったらもっときちんと話さないとって愛想どうこうまで言っている。


「クラス」

「っ」


 期待に瞳を輝かせるサクを見ていられなくて、サクの胸に顔を押し付けて隠れることにした。その様子にくっと笑って腕の力を強めてぎゅっと抱きしめてくる。

 今日は気持ちががたがただ。本当早く寝ないと。


「……帰りたい」

「ん?」

「帰って、いつも通りを過ごしたい」

「クラス?」


 いつも通りなら、きっと心穏やかでいられる。恥ずかしくて顔が熱いなんて思いをしなくて済むはずだもの。


「サクの作る焼きたてのパンを食べて、一緒に畑の様子を見て、余った時間は本読んだりして、お風呂入って狭いベッドで一緒に寝るのがいい」

「それ……」


 僕がいる、と短く囁かれる。

 その言葉の意味を考えて暫く、自分の発言に気づいてびくっと身体を揺らしてしまう。

 私の生活にサクがいるのを当たり前のように話していた。本当今日はぼろぼろだわ。さっきから失言ばっかり。


「も、もう寝る」

「ふふふふ、明日には帰りましょう」

「うん」

「クラス」

「なに?」


 蕩ける様な声だった。


「十年前も今もきちんとクラスが好きだから」


 やたら心臓の音がうるさかった。

 もう顔だけじゃなくて全身熱くて、目の前がぐるぐるするのを力を入れて目を瞑って誤魔化す。

 サクの腕に力が入った。


「サク」

「一緒にいたいって気持ちは同じだから」


 だめ。死の呪いのせいで先のない私が応えるべきものではないという思いが、一緒にいたいという思いに食いつぶされそう。


「……サク」


 結局。

 なにも応えられないまま、眠りについてしまった。

 本当、甘やかされてるし、絆されてる。

今日ならつけいる隙がある!と思ったかもしれないサク(笑)。デートのしすぎで刺激も多く、終わり際に格好良い話を受けてクラスはぼろぼろでしたしね!デート12話お付き合い頂きましてありがとうございました。

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