66話 皆でご飯
「そういえば第二皇子夫妻がいらしてました。あ、今は皇子ではないのでしたね」
「ヴォックスとユツィ?」
「個人的な訪問だと仰ってましたかね」
その話を聞き、市場を抜けて進むとヴォックスとユツィを見つけた。こちらに気づいて驚く。私が外に出るなんて考えてもいないだろうしね。
「クラス」
「ユツィ」
真っ先に駆け寄ってくるユツィに後をゆっくり続くヴォックス。
「二人が出てくるなら分かるが、クラスも出てきたのか」
「うん」
「素晴らしい事です。次は是非我が家へ遊びに来て下さい」
二人の家は帝都に構えていたはず。けど仮家で近い内に引っ越しを検討していると言っていたはずだ。
「クラスには近い内に話そうと思っていたのですが、私たちはステラモリスに居を構えようと考えています」
「え?」
ヴォックスも頷く。
「自然も多くいい場所だ。子供たちものびのび暮らせる」
「兄上、僕の事は気にしなくても」
「シレ、お前の為じゃないさ。私たち家族がどう生活して生きたいかを考えているだけだ」
王族を脱し爵位を得たとはいえヴォックスが王位を継ぐことは難しくない。けどそのつもりがないのか、シレが王位を継ぐのが一番有力になっているらしい。
「次から次へと……邪魔ばっかり」
隣で誰にも聞こえないぐらいで囁かれた言葉に顔を向けると、サクが嫌な顔をしてヴォックス達を見ていた。
「サク」
「はい」
呼ばれると心底嬉しそうにこちらを向く。ツンツンした感じを向けてくれることは今のとこないなあ。
「皆でご飯食べない?」
「え」
「それはいいですね!」
サクじゃなくてユツィが反応した。嬉しそう。そこからトントン拍子に決まって、旧ステラモリスを出てすぐのところにある食事屋さんへ行くことになった。
「……」
ちょっと不服そうなので、サクの袖を引っ張ってこちらを向かせる。耳をと言えば身体を傾けて寄せてくれる。十年前は私がよく屈んだりしゃがんだりしてたのに。
「二人で出掛ける時も美味しいご飯食べようね?」
その言葉に一気に顔を変える。正直に喜んでもらえるのは嬉しいから、こういう変化はいいかな。営業用の笑顔で喜ばれても嬉しくないし。
「おっと」
前言撤回。鼻血垂らす癖はどうにかしてほしい。
* * *
「兄上にはまだ帝都にいてもらいたいんだけど」
「そろそろ頃合いだろう」
「レックス兄上が帰って来たばかりだからさー」
ステラモリスの特産品を使った料理を食べながら三人が第一皇子の話を始めた。
サクがクラスの前で止めて下さいって言うのをいいからと制す。私も気になってはいた。
「もう罪滅ぼしみたいなのは終わったの?」
「一時的な帰国だよ」
少し前に現皇帝の調子が少し良くなかったらしい。今はもう回復して元気のようだけど、それもあって一度帰って来たとか。
「さっさと追い出せよ」
見舞いはすんだろとサクが辛辣に言う。冤罪を晴らした時に第一皇子に科した罰はまだ完全に履行していない。今回は皇帝の体調不良を見舞う名目で一時的に戻って来ただけだから、用が済んだらまた他国に出る。
「やっぱりもっと厳しくやればよかった」
サクってば言うことが不穏すぎる。本当十年前から相性良くないんだから。
「今もサクが城にいたから、レックス兄上随分荒れたけどねえ」
第一皇子から見た諸悪の根源が帰って来た城にいたら荒れもするだろう。まあ偽りの罪を着せた第一皇子が悪いところでもあるけど。
「おい、あの女と接触させんなよ」
「あの女ってフィクタ嬢?」
その話だが、とヴォックスが真剣な顔をして切り出した。
「彼女付きの護衛を通じてだが接触している可能性がある」
「なんだと」
サクがあからさまに機嫌を悪くした。
戻って来るって分かってんなら事前に防げるだろうがと言う。確かにその通りだけど、どうやら元妃の魔術を使われたらしい。
「書簡でやり取りをしていたようです。今はもうその手段を潰しましたし、接触している可能性はほぼありません」
ユツィがご安心をと私に微笑む。
「後手になりすぎだろ」
「その通りだ」
ヴォックスが面目ないと視線を下げる。
「今、会ってないならいいじゃない」
「クラス、甘いです。今はあいつは王太子でもないし、シレの方が権力あるんですから、このぐらいどうにかできないと」
「サク、私美味しくご飯食べたい」
うぐ、とサクが詰まった。結構効いたようだ。
「だからあんまり責めないで」
「だって」
「サク」
じっと見つめる。再び唸ったサクは暫しの睨み合いの後、がっくり肩を落として「分かりました」と了承の意を示した。
「なら今すぐデート行きましょう」
「は?」
「二人でお出掛け」
「それは日を改めてよ」
「えー」
結局サクのご機嫌とりの為、一週間後に二人でお出掛けすることになった。がっつきすぎでしょ。
なんだか望んでいた流れと全然違うんだけど。
明日からデート回です。私の書くデート回の中でも最長を予定しております(笑)。




