57話 風邪、完治
ドラゴンとフェンリルが言った通りサクはご機嫌で、態度が軟化した私に「好きになりました?」としきりにきいてきた。予想通り過ぎて困る。
「すっかり治ったのね」
「はい」
「よかった」
「もう大丈夫です」
「それでね」
風邪が完治してからきちんと話し合おうと思ってリビングのテーブル、向かい合ってお茶を片手に切り出した。
なんでもやってくれるじゃなくて、二人でやっていきたい。任せ合ったり一緒にやったりがいいと。
「ですが……」
「なにもやらないのは手持ち無沙汰すぎて嫌なの」
もう充分甘やかしてもらった。それにニートは性に合わない。
案の定サクは微妙な顔をする。嫌だけど、あからさまに嫌な顔をしない。
「今までの事を考えれば、何もしない日々を過ごして当然でしょう?」
「またイライラしてサクに八つ当たりするのは嫌」
「それは僕がいけなくて」
「違う。一緒に暮らすなら一緒にやっていきたいの」
この際、同じ家で暮らす暮らさないは置いておこう。たぶんここはどんなことがあってもサクは譲らない。彼が私のお願いを聞いてくれそうなとこを攻めていかないと。
「本来クラスは下働きがするような事をしなくていいんです」
「それならサクだって公爵なんだからしなくていいよね?」
「僕は」
「十年前は一緒にご飯作ったりしたじゃない」
「うっ……」
気まずそうにあれはクラスがメインで僕は手伝い程度でしたと狼狽える。
十年前と同じことをそのままするわけじゃないけど、サクが十年前の恩を私に返したいなら多少は融通がきくはずだ。
「なら私もサクのお手伝いできるよね?」
「それは、」
「サクは私の作るご飯食べたくない?」
「うっ……」
食べたいんだ。即答で断れないぐらいに。
「サクが作ったり私が作ったりする日があってもいいと思うの」
「クラスの作るご飯」
「そう。朝の外作業だって一緒にやればすぐ終わるでしょ? 余った時間、サクは仕事だってできる」
「仕事はどうでもいいです」
妙にはっきりしてるわね。うーん、そしたら……。
「なら余った時間は二人でお茶したり、ソファで寛いだりできるよ?」
「それは……魅力的ですね」
ごくりと喉を鳴らす。そんなに真剣に悩むこと? 休む時間の提案だよ?
「サク、私の作ったスープ美味しいって食べてくれたじゃない。すごく嬉しかったのに」
今のサクなら私の気持ちが分かるはずだ。美味しいって言って食べてもらえるのは作り手にとってとても嬉しいことだって。予想通り、図星だと言わんばかりの焦った表情を見せた。
「くっ……」
「隣に立って一緒にご飯作るの」
「隣……」
クラスの匂いを嗅ぎながら作業、とかぶつぶつ妙なことを言い始めたけど無視しよう。今は家庭内役割分担の見直しが先だ。
「一緒に畑作業したり」
「成程」
汗滴るクラスを間近で、とぶつぶつ言ってる。方向が変わってきてる気がしたけど無視した。
「掃除とか洗濯もね?」
「そしてふとした時、手と手が触れあうとか」
「それはないでしょ」
「触れあうか……」
だめだ私のツッコミを聞いちゃいない。サクにとって起こりうるシチュエーションを妄想して楽しんでいる。戻ってきて。建設的な話をしたい。
「クラスの手作りご飯を食べたら、その度に泣いてしまうかもしれません」
「そんなに?!」
「ええ。格好悪い姿を晒したくありませんが泣きます」
仮定の話が断言になった。あのスープ、相当気に入ってるのね。
「べ、別に泣いてもいいよ? 美味しいってことでしょ?」
「ええ。ですが僕だけが嬉しくて幸せになってしまう」
「いいよ。サクが幸せだと私も嬉しくて幸せなんだよ?」
「え?」
「え?」
心底驚いたように目を開く。私おかしなこと言った?
「それはもう結婚してくれるって事ですか?」
「どうしてそうなるの」
違う。このままじゃ話逸らされて終わっちゃうから戻さないとだめだ。
「違うの、私は家のことをサクと一緒にやりたいって言ってるの!」
「しかし」
「な、なら、毎日同じベッドで寝るのよしにするから」
「乗った」
早っ。
即決じゃん。というか、結局なし崩しで毎日一緒に寝てるのに、今更な話題振りな気がする。
「クラスと毎日寝られる」
ふふふといつも通り一人の世界で笑って楽しんでいる。ハンカチを鼻にあてるとこまでいつも通りね。
と、なにかに気づいたのか。満面の笑みでこちらを見る。
「ちなみに一緒にお風呂は」
「入りません!」
なんだあと笑いながら残念がってる。昨日見たサクは偽物だったんじゃと思えてきた。
いつも一緒に寝てるじゃんというツッコミは関係ない。本人から言質とれたのが大事。
昨日のサクが貴重でした(遠い目)。




