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元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女  作者:
2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
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56話 サクの為だけのスープ

 顔を洗って着替えて朝食を用意する。昨日サクが収穫した野菜をサラダにして。

 いつもならとっくに起きてきておかしくないのにサクが起きる気配はない。


「……」


 昨日は無理だったけど、今日はその扉を叩けた。反応はない。


「サク? 起きてる?」


 何度かノックして唸る声が聞こえた。はしたないけどやるしかない。


「サク、入るよ?」


 否定の言葉がないから扉を開ける。鍵はかけていなかった。部屋はシンプルで、どこか十年前を彷彿とさせる。違うことは床に沢山本が積まれてテーブルの上に書類が沢山あることだろうか。

 静かに入ると部屋の端にあるベッドがもぞりと動いてぐぐっと唸る声が聞こえた。


「サク?」


 カーテンを開けてから覗き込むと上掛けの中からサクが出てきた。光の入る部屋で顔が良く見える。


「サク、まさか」


 手を額に当てると予想通り熱かった。


「……クラス?」


 掠れた声にぼんやりした瞳、十年前と同じ顔だから間違いない。寝ててと伝えて部屋から出る。急いで冷たい水とタオルを持ってサクの元に戻った。ドラゴンとフェンリルにも手伝ってもらう。


「風邪引いたのね」

「……」

「水飲む?」


 返事はないけど、起き上がって水は飲んでくれた。十年前より重症だわ。


「そろそろ熱を出す頃だったな」

「え、そうなの?」

「無茶をしていたからな」


 川の件はきっかけにすぎず、近い内にこうなってたってこと?

 水を飲んで横になったらすぐまた寝てしまった。汗をふいて冷えたタオルを額に当てる。


「無理してたの?」

「本人は自覚ないだろうがな」


 私の身の回り全部やって、定期的に外に出てお仕事して帰ってくる。明らかにオーバーワークだった。


「……良くなったら話さないと」

「そうするといい」

 

 落ちついたのを見て軽くいつもの作業を済ませる。

 サクの分の朝食をそのまま自分の昼にして、サクに食べてもらうものを考え決めた。


「何にする?」

「食材はこれ」

「おや、珍しいな」

「あまり作ってなかったからね」

「クラス」


 料理の間、様子を見てくれてたフェンリルが戻ってくる。


「どう?」

「落ちついたな。明日には戻るだろう」


 それも十年前と同じね。長引くことはなく、元々そういうものらしい。治癒がきかないからそういうとこは助かるし安心する。

 料理は出来上がったから後はサクに食べてもらえるかどうかかな。食欲が少しでもあればいいのだけど。


「……クラス」

「サク! 身体は?」


 サクが顔を出した。駆け寄ると大丈夫ですと笑うけど、そこに力はあまりない。


「食事とれそう?」

「……クラスが?」

「うん、作ったけど?」


 作れるのが私くらいしかいない。サクは食べますと短く答え、いつもの場所に座る。大丈夫だろうかと思いつつも食事を用意した。


「はい」

「……これ」

「十年前も食べたでしょ?」


 野菜の切れはしを使ったスープだ。あの時はスジ肉だったけど、今回は鶏肉を少しと野菜多め。

 サクが目を細める。嬉しそうに見えた。


「食べれそう?」 

「はい、いただきます」


 ふらついて倒れそうに見えて心配で隣に座る。サクの視線はスープに注がれ、ゆっくりした動作で口に運んだ。風邪でも所作は綺麗なままだった。

 ゆっくり三口食べたところでサクの動きが止まる。やっぱり風邪だと食べられないだろうかと思った矢先、思いがけない姿を目の当たりにした。


「サク」

「ああ、すみません」


 大粒の涙が落ちる。机に一つ、スープに一つと落ちていく。


「美味しくなかった? 食べるのやめていいから、」

「いいえ、美味しいんです」


 とても、と掠れる声で囁く。


「同じものを作っても全然美味しくなかった」

「え?」

「自分でも、何度か作ったんです」

「このスープ?」

「ええ。食材もあの時と同じものを揃えて、教えてもらった通り作って、でも美味しく作れなくて……全然、味気なくて」


 十年間、何度か自分で作ったらしい。ぽつぽつ話すサクが目元を赤くして泣き続ける。


「これは……とても、美味しいんです」


 サクがこちらに顔を向け、涙そのまま微笑む。安心しきって目元が緩んでいる。


「クラスが作ると、とても美味しい」


 サクだ。


「サク」


 やっと、やっと彼がサクだと思えた。

 サクの為だけだと約束したスープを食べてくれる。大事にしてくれている。

 

「ありがとうございます」


 今までの笑顔と違うように見えた。目を細めると涙が伝う。


「サク、涙拭いて」


 ハンカチで目元を拭いてあげると黙ってされるがままだった。なんだか妙にこそばゆくて嬉しくて笑みがこぼれた。十年前と同じような感覚だったし、こうして世話焼いていたのは私の方だったもの。


「食べられる分だけ食べて」

「全部食べます」


 黙々と食べる姿が十年前と被る。その後部屋に戻ってそのまますぐ寝てしまったけど完食は貫いた。


「食べてくれて良かった」


 容態もだいぶ安定した。もう大丈夫だろう。


「我々も食べるか」

「そうだね、ご飯にしよう」

「絆されたか?」

「なに急に」

「僅かに残っていた緊張が消えたからな」

「え?」


 ドラゴン曰く、私はサクの前で緊張していたらしい。今の今までほんの少し残っていたものが今消えたと言う。


「え、待って恥ずかしいんだけど」

「何を恥ずかしがる必要がある?」

「そうだな」


 たとえそれが二人にしか分からなくても、自分の変わったとこが知られるのは恥ずかしい。


「気にするな。サクは逆に喜ぶと思うぞ?」

「僕の事好きになりました? 恋愛的な意味で! などと言いそうだな」

「鼻血も出してな」

「やめてよ二人とも」


 翌日、二人の言う通りサクは妙にぐいぐいしながら鼻血を出した。色々台無しなんだから。

どちらかと言えば親が亡くなってから料理して親の作っていたのと違う…ってなる話ですね。クラスと一緒に食べるから美味しいっていうのもありますけど。一人のご飯は淋しいよね。

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