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元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女  作者:
2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
55/103

55話 サクのいないベッド

 いけない。タオルを持ってきたといえ、下まで濡れているのにそのままだった。


「サク、戻ってお風呂入らないと」

「ああ……」

「ほら早く」


 手をとると少し目を開く。ゆっくり引いたら素直についてきた。少しだけ昔を思い出す。


「もう夏だけどステラモリスの夜は冷えるの」

「知ってます」

「なら尚更早くお風呂に入って? きちんと温めてね」


 部屋に入ってからは早かった。

 タオルをとりに戻ったフェンリルがすぐに入れるとこまでお風呂の準備をしてくれていた。そのままサクの背中を押してお風呂場に突っ込む。

 お風呂に入った気配がしてから、リビングに戻って野菜をしまったりサクの服を持ってくる。脱衣所に静かに入るとお風呂場の方が静か過ぎて思わず声をかけた。


「サク、大丈夫?」


 少しの間の後すぐに返事がくる。いつも通りの明るい口調だった。


「はい、お陰様で」

「あの……ごめんね」

「何がです?」


 元々最初の方は私がなにもしない生活にイライラして八つ当たりしたことから始まっている。もう少し落ち着いていたら、サクが話してなかった水の話も隠していたと思わずにすんだかもしれない。そう伝えると、また少し間があった。


「……なら一緒にお風呂に入ってくれます?」

「どうしてそうなるの」

「仲直りのアクションは二人でお風呂に入るのがいいなあと思いまして」

「断固反対する」


 扉越しに笑う。わざとからかってきたわね。


「サクってば」

「ええ、僕は大丈夫です。けどすみません。当面出られないので夕飯は三人で食べてもらっていいですか?」

「ん?」

「あと申し訳ないんですが、今日一緒に寝るのも控えさせて下さい」


 その言葉に心配になった。やっぱりどこか痛めたのだろうか。


「大丈夫なの? 怪我してない?」

「ええ問題ありません。ただこの状況って結構我慢しないときつくて」

「んん?」


 首を傾げる。ドラゴンが口を挟んだ。


「年頃というやつだな」

「だろうな」

「どういうこと?」

「好きな相手が脱衣所にいるというのは、サクのような妄想癖激しいタイプには酷という事だ」

「早く出てけってこと?」

「いえ」


 クラスがいるのは嬉しくて仕方ないんです、とサクが扉越しに主張する。お風呂の時間が長くなるのは冷えた身体の為に必要だけど、その先が良く分からない。話してくれているけど曖昧だ。


「もっとはっきり言ってくれてもいいのに」

「クラス、男には男の事情がある。川の水のことは伝えてもいい案件だが、今この瞬間の話はそっとそのままにしてやった方がいい」

「その事情でご飯も寝るのもなしになるの?」

「そうだ」


 詳しい事は食べながら話そうとフェンリルに誘われる。仕方なしにリビングに戻ることにした。


「体調悪くなったら言ってね?」

「はい」


 にこやかな返事だから大丈夫なのかな? 

 夕飯はサクがとっくに作ってくれていたから温めるだけだった。そしてドラゴンもフェンリルも詳しく教えてくれない。さすがに冷静になったから、さっきのように癇癪は起こさないけど納得はいかなかった。


「怪我してなかったよね?」

「ああ、私もフェンリルもそこは注視していた。問題ないよ」

「うん、よかった」


 今のサクだと怪我しても隠しそうだもの。あ、十年前でも隠しそうか。


「……」


 お風呂から出たサクは自室に籠っていた。声をかけようか部屋の前で悩んで結局やめる。

 私もお風呂に入って、お茶を飲んで三人で寝る。つい最近までこれで寝ていたのにどこか物足りない。


「……毒されてる」

「クラス?」

「なんでもない」


 寝返りうって身体を少し丸くして上掛けを引き込む。ベッドが広い。

 しっかり瞳を閉じて、深呼吸をすればきちんと眠気がやってくる。

 ああ本当毒されてる。三ヶ月も経ってないのに、サクがいない方が足りないなんて思う時点でおかしい。



* * *



「……サク」

「すみません、起こしちゃいました?」


 夜中だと思う。するりと意識が上がった時、サクが近くにいた。ベッド際に座ったところで、ゆっくりと見下ろされている。


「一緒に、寝る?」

「いえ、戻ります」

「……そう」


 少し横に顔を傾けた。頬にかかる髪をサクが避けてくれる。困ったように笑った。


「すみません。明日にはいつも通りに戻りますから」

「……無理、してるの?」

「格好つけたいだけです」

「だから一緒に寝れないの?」


 それは別ですねと、いやにはっきり言った。ならなんだろうと半分寝ているところにサクの顔が近づく。

 頬に柔らかい感触。


「ん?」

「こういう事です」


 もう寝て下さい、とサクの掌が私の視界を覆う。片手で覆えるぐらい大きな手だった。

 違う、誤魔化してる。決め手はないけど、隠してるわけじゃないけど、さっきの所作はサクの答えのようで答えじゃなかった。


「今、気持ちががたついてるんで嫌なんですよ」


 耳元で囁かれ僅かに震える。気づいたのだろうサクが小さく笑う気配が見えた。


「また明日」


 意識が深いところへ落ちていく。引き留めなきゃいけない気がしたのに抗えなかった。


「……サク?」


 朝日と共に起きる習慣はなにも変わらない。

 けど今日は昨日と明らかに違う。サクが一緒に寝ていないから温もりがどこにもないのもだけど、先に起きて準備している音がどこにもなかった。


「……」


 静かなリビング、洗面台にもサクはいない。

 昨日の夜のことは夢だろうか。なんだかうすらぼんやりしてよく分からない。サクが遠い気がする。


「クラス、大丈夫だ。部屋にいる」

「……うん」


 寝ているだけだと言われ、胸を撫で下ろす。一瞬いなくなったと思った。それをドラゴンもフェンリルも良く分かっている。


「朝の準備しようか?」

「ああ」

完璧主義は一つ崩れるとグズグズいじいじします@サク。情緒大丈夫かなと思う次第。けど結果的にクラスには効果的っぽいのが面白いですよね(笑)。そんなモジモジくん。

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