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元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女  作者:
2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
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47話 朝の風景

「朝御飯です」

「ありがとう」


 てきぱきと手早く朝食を用意してくれた。今日ばかりは一緒に食べてくれるらしく自分の分を持って対面に座る。


「簡単なものですが」

「十分だよ……朝は軽くでいいし」


 十年前もあまり食べてなかったですもんねと笑う。よく覚えてるのね。確かにあの頃から食べる量は少なめだ。六歳のサクから見れば少なく見えないけど、今のサクから見たら足りないのだろう。


「パンは置いてあったのを使いました」

「いいよ好きに使って」


 とはいってもパサッパサになってるからサクに食べてもらうのが申し訳ないレベルだ。


「クラスは相変わらず時間を置いたパンを食べてますか」


 ふむふむといった具合でパンを囓るサクにいたたまれなくなる。イルミナルクスでは公爵として宰相としてこんな食事してないだろうし、料理は自分でしてたとか言うけど趣味の範囲だろう。


「んー、今度ちゃんとしたパン買わないとね?」

「パンは出来立てがいいですか?」


 ほかほかサクサクふっくらなパンの方が美味しいに決まってるじゃない。とは思いつつもこれで充分だよと返しておく。城にいた時よりも状態はいいから文句はない。


「ん、これおいし」

「良かったです」


 それにしてもきれいに食べるわね。六歳の時から食べ方は綺麗だったけど、今はさらに品が良くなった。住む世界違いそう。

 と、彼の視線が上がりばっちり目が合った。


「どうかしました?」

「綺麗に食べるなって」


 少し眦を上げる。

 次に余裕の笑みをたたえて感謝の言葉が返ってくる。十年前なら赤くなってツンツンしたのに、その片鱗すらない。


「クラスは美味しそうに食べてくれるので可愛いですよ」

「そう?」

「ええ、少し目を見張った後に口角が上がります。頬も血色が良くなりますし、癖でしょうか噛み締める具合が深くなりますね。可愛いです」


 すごく観察されてた。恥ずかしい。自分の食べる姿を見られて、観察されてるなんて思わないでしょ。


「ふふふふ、作った身としては感無量ですね。昨日も今日もそんな可愛い顔を見られるのかと思うと、おっと」


 ぼたっと血が机に垂れた。この人本当鼻の粘膜大丈夫なの? すぐにハンカチで押さえて事無きを得ているけど、そもそも鼻血回数異常じゃない?


「朝から気持ち悪いな」

「仕様のない奴め」


 鼻を押さえながら笑い続けるサクは確かに引く。


「ああクラスは甘いもの好きでしょう? フルーツは甘いものをきちんと選んで持って来ましたから、そのままでもヨーグルトにいれても美味しいですよ?」


 明日の朝はドルチェを出しましょうねと言ってくる。私甘いもの好きって話したことあったっけ?


「服には割と頓着ないですよね。普段ローブを羽織っていたせいでしょうか? 色は華やかなものより大人しめで、フィット感はかっちりしたものよりゆったりしたものが好み」

「はい?」

「早寝早起きも昔から得意そうでしたけど、今は外の畑の事もあり十年前より早く起きるようになりましたね。ただソファでうっかり寝てしまう癖はあまり良くないですから、昼寝でもきちんとベッドで寝てほしいです」

「え?」


 なんで知ってるの? 十年前に話したことないしあまつさえここでの生活をどこで知るの? シレが話したとか? でもソファで昼寝の癖は誰にも言ってないはず。


「な、なんで知って……」

「ふふふふ」


 笑うだけで返事がない。


「気持ち悪いな」

「同意だ」


 朝御飯を完食したドラゴンとフェンリルが目を細めてサクを見ている。サクはどこ吹く風だ。

 私はと言うと、気持ち悪いを通り越して怖くなってきた。ドラゴンとフェンリルの口元に着いたパン屑をとりつつサクの様子を窺う。


「今日は昼過ぎから用事があるので午前中畑作業と家畜の世話してから出ますね」

「え、いいよ」


 自分でやるし、というと譲らない。仕方ないので引き継ぎ的な意味で外に一緒に出ることにした。


「……ねえシレとかユツィから聞いてたと思う?」


 食後のお茶を飲みつつ片付けしてるサクを眺めながらドラゴンとフェンリルに問いかける。二人は首を横に振った。


「あの三人はそう話していない」

「あやつ、繋がりをいいように使うようになったな」


 繋がるという単語に十年前が思い浮かぶ。サクは精霊の世界かなにかに繋がってるから風邪を治癒できなかった。


「私のことを把握できる手段なの」

「そういう使い方をしたのはサクだけだ」


 見境ないなと溜め息をつくフェンリル。


「クラス、終わりました」

「あ、うん、いこっか」


 終わったことだから仕方ない。ここは大人のスルー力で自分を誤魔化そう。


「サク」

「はい」

「私のことは私に聞いて」

「と言いますと?」

「勝手に覗き見しないで直接本人に聞いてってこと」

「……」


 なぜか笑顔で黙った。またやる気ね。


「またやったらもう話さない」

「そんな!」


 でも怒ったクラスも可愛いと鼻をおさえる。だめだこの人なに言っても効き目なさそう。


「はあ……畑いこうか」

「はい」


 身の回りはなんでもやると言った通り、畑仕事も家畜の世話もサクはこなした。挙げ句、鶏と山羊が妙にサクに懐いている。なんで?


「確かに人見知りするような子じゃないけど」

「はい?」


 山羊なんてサクの側ずっと歩いてるし、鶏も言うこと聞いてる。


「サクって動物好かれる方?」

「そうですね、割と」


 懐く程動物と触れ合うようなことしてたの? 公爵様々で宰相もしてるのに、どうして農業畜産が板についているんだろう。


「これだけできちゃうと、引き継ぎもなにもない……」

「任せて下さい」

「さすがに運動ないと身体によくないし」

「けど」

「これも一緒にやるじゃだめなの?」


 私になにもしてほしくないと言うけど、適度な運動がなくなると身体が弱る。せめて家の外には出たかった。


「じゃあサクが仕事出てる間はやらせて」


 宰相という立場なのだから当然仕事でイルミナルクスに行くはずだ。公爵として社交の場にも立つだろう。個人的な用事だってあるはずだ。そういう時ぐらいはやらせてほしい。


「うーん……分かりました」

「うん」


 そのかわりとサクが笑顔で続けた。

話してるはずもない事を把握している…生活ですら把握されている(ぞわあ)。あ、こいつストーカーだわ。

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