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元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女  作者:
2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
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46話 だめだこいつ。早くどうにかしないと

「んー?」


 いつもの朝、自然に目が覚めた中で妙に腰あたりから下に違和感があった。端的に言えば動かない。動きづらいし妙にあたたかい。するりと視線を下げて息を飲んだ。


「ひゅっ」

「……」


 サクの頭が見える。

 私の腰に腕を回して離れない。なんでここにいるの?


「……サク」


 寝ているから返事はない。

 がっちり拘束されてる中をゆっくり上半身起きてみると、端正な顔立ちが瞳を閉じていた。


「サク」


 もぞりと動く。声が届いたのだろうか。片手を彼の肩に乗せ小さく揺すってみる。


「サク、起きて」

「……」


 何度が揺すり、声をかけたら瞼が小刻みに動いてゆっくり瞳が開かれた。ぼやっとしてて隙があるかと思ったらすぐにしっかりした顔つきに戻る。


「クラス」

「離して」


 意外にもすぐに離された。素早く距離をとると、サクは余裕を持ってベッドの上に座り込み満面の笑みで朝の挨拶をしてくる。暢気すぎでしょ。


「いい朝ですね」

「なんで一緒に寝てるの」

「十年前は一緒に寝てました」

「あれはサクが小さかったから許されるのであって今はアウトでしょ」


 やっぱり泊めるのはだめだった。今すぐ帰ってもらうしかない。


「遅かれ早かれ結婚するなら変わりありませんし、同じ屋根の下に住んでいる時点でという話になりますよ」

「そうだけど」


 やっぱりだめでしょ、と嗜めるもサクは笑顔を貫く。


「嫌です。これからは一緒に寝ましょう」


 なんで確定事項と言わんばかりの話になっているの? 昨日はそんなんじゃなかったはずだ。


「ソファで寝るって話だったよね?」

「最初はソファでと思ったんですが、すぐそこに生身のクラスがいると思うと我慢できなくて」

「我慢してよ」

「無理です」

「ええ……」


 するとサクが急にしょんぼりとした。眉を八の字にして悲しそうに俯く。睫毛長い。


「朝起きて誰もいない日々が辛くて仕方なかったんです。今日の朝がどれだけ幸せに満ちた朝だったか」


 そう言われると良心が痛む。

 サクはイルミナルクスでよくしてもらっていたけど孤独だった。ウニバーシタスで少しでもサクの孤独が和らぐようにしてたけど、あんなことになったと思うと逆に再び孤独を増長させてしまったかもしれない。

 私にはドラゴンもフェンリルもいたから淋しくなかった。サクにだって叔父家族がいたけど、それがサクが望むものだったかは分からない。

 だからこうして孤独から抜け出せたような話をされると怒るに怒れなかった。でもだめだ。再教育だと思って厳しくいかないと、心を鬼にしないといけない。


「やっぱりだめだよ」

「久しぶりによく眠れたんです。夜一人が辛くてイルミナルクスでもベッドに入ってからは眠れない日が多かった」

「う……」

「十年前も今も同じです。クラスと一緒だとよく眠れるんです。クラスがいるから眠れるんです」

「うう、でも……」


 紫の瞳が歪む。ああサクが泣いてしまう。


「決して疚しい事はしませんし思いもしません。だから一緒に寝て下さい」

「嘘だな」

「疚しさしかあるまい」


 ドラゴンとフェンリルが口を挟んだ。少し冷静になる。泣き落としに許しちゃうところだったわ。


「駄目ですか?」

「ぐっ……」


 しゅんとして再び視線を落とす。ああ良心が痛む。十年前、どうして私はきちんと一人で寝るを教えなかったの。あの時ぎゅっとしあって寝ることを教えてしまったのは私だ。後悔しかない。


「……クラス」

「はひっ」


 もうこれ以上はやめて。心が痛むよ。


「毎日とは言いません。それなら週に三度でどうですか?」

「え?」


 サクが私の両手を包んだ。


「少しずつ一人で寝る事を教えて下さい。それまでは最低でも週三、いや週四週五で一緒に寝てくれれば」

「増えたな」

「全く抜け目ない」


 握られた手をぎゅっとされる。そもそもこの十年一人で寝られてただろうとドラゴンが指摘する。


「この十年寝た気がしなかった。けど今朝は全然違ったんです。心地良くて、起きるのが苦痛じゃなかった。僕は……きちんと寝られるようになりたい」


 睡眠がどれだけ大切かはよく知っているし、睡眠がないと病にかかる可能性だって出る。サクが倒れるのは嫌だった。彼が教えてくれというのなら、医療を知る身として付き合うべきではと思ってしまう。十年前のことも考えると尚更だった。


「……分かった」

「クラス!」

「週に三度で、お願いします」

「ええ! ありがとうございます!」

「あざとくなったな」

「ああ」


 サクが一緒に寝たいからと理由で甘えてきてるのは分かってる。けど私も人肌で目覚められたことが懐かしくて、その過ごし方がいいななんて思ってしまった。きっとその気持ちを見透かされて足元見られてる。でもサクはそれを指摘しない。私を甘やかしているを有言実行している。


「では朝御飯を用意しましょう。その前に洗面台ですね」

「いいよ。自分でやる」


 サクってば全部用意すると言い出した。お湯はドラゴンとフェンリルがいれば用意なしでいけるのに。

 どうしようかな。サクにどうお願いすれば叶うだろうか。


「サク、お願いがあるの」

「何ですか?」


 朝からテンション高めに笑顔を振り撒いてくる。


「朝は一緒に準備しよう?」


 笑顔が少し強張った。


「僕がやると言いました」

「一人で待ってるのは嫌だから、朝だけでも一緒にやりたい」


 一緒にを強調すると戸惑う。これも十年前の成果だ。いつも一緒にやってたから。


「けどクラス」

「じゃあ洗面台で一緒に顔洗うだけ。だめ?」


 一緒に顔洗いにいこ? と誘うと唸る。やっぱり一緒にという言葉に弱いのね。

 ドラゴンとフェンリルがお湯用意してくれるし、タオルだけあればいいんだしと加えて再びお願いしたらサクが折れた。


「分かりました。顔を洗うだけですよ?」

「うん、ありがと」


 起きる時間が同じなら顔ぐらい一緒に洗ってもいいと思う。これからこの人早く起きそうだけど、この際気にしない。タオルも二人分持ってるけど少しずつ変えてもらえばいいかな。

 子育て再教育かあ。できる限り頑張ろ。

 サクの横顔を見上げるとすっかり大人の顔だった。すぐに私の視線に気づいてこちらを向く。


「どうかしました?」

「ううん」


 途端ぼたっと垂れる赤色。

 こんな軽々しく鼻血出すのってどうなの。


「失礼、すぐに拭きます。起き抜けのクラスが想像以上に可愛かったのでつい」


 だめだこいつ。早くどうにかしないと。

当然ながら同じベッドで寝る問題は導入します(いい笑顔/一章12話)。十年前を引きずっているので今は十年前のサクが寝ていたポジションに収まります(胸から腰にかけてが頭の定位置でぎゅっとする)。こういうとこが拗らせてる所ですよねえ。あざとさだけレベル大幅アップで成長しているのに(笑)。そんな拗らせサクもオールオッケー。

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