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元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女  作者:
2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
40/103

40話 一緒に暮らせばいいですね

「結婚して下さい!」

「はい?」

「結婚してくれるって言ってたでしょう?」


 思い出されるのは十年前、大人になってもその気だったらという言葉だ。


「本当は十六歳になってすぐにでも来たかったんですが遅れてしまって……」


 と謝る。


「え、ちょ、待って? あれって有効?」

「僕は約束を違えるような薄情者ではありませんよ?」

「そうじゃなくてね?」


 あれを真に受けて来たの? デビュタントを越えたのだから公爵としても引く手あまたのはずだし、若いお嬢さんとの結婚を勧められるはずだ。適齢期をすぎた十歳も年上の私と結婚するなんて周囲は反対するしかない。

 戸惑いと、ある種の心配で彼を見上げると、心底陶酔したような笑顔を見せて目を細める。話通じるだろうか。

 と考えていた矢先、赤い液体がサクから滴り落ちた。


「え?」

「おっと」

「は、鼻血?」

「いけない」


 失礼をと片手でおさえる。

 文字通り、ぼたぼた言って鼻血が滴った。心配になるのに、サクは笑顔のままだ。


「クラスと再会できて、結婚できると思うとつい」

「はい?」

「見つめられたら我慢が」


 私、結婚するなんて言ってないけど?

 確定事項なの?


「ふふふ、結婚……」


 あ、だめだこの人。

 にやついた顔して鼻血垂らして、顔だけいい男が残念すぎる。


「き、気持ち悪い」

「そうだな」

「キモいな」


 私の言葉にドラゴンとフェンリルが同意してくれた。端から見ても気持ち悪いのだろう。

 出会った瞬間に結婚を申し込まれ、挙句見つめただけで鼻血を出す人間を好意的に見れる? 私はちょっと無理だった。


「安心して下さい。クラスの事、大切にします」

「きんもっ」


 耐えられなかったドラゴンが吐き捨てる。気持ち悪いという言葉を通りすぎてるよね。

 昔はきちんと会話できたのに今は全然聞く耳持たなそうだ。文字通り途方に暮れる。

 ツンツンしつつも顔を赤くして私のことを心配してくれたサクはどこにいってしまったのだろう?


「結婚、無理……」

「何故です?」

「む、無理なものは無理」

「何か気に病む事でも?」

「ええと……」

「年齢差なら気にしてませんよ? 身分もクラスが望めばステラモリス公爵の姓を取り戻せますし、僕の奥さんになっても女主人としての役割は求めません。というよりもクラスのとこに婿入りでもいいです。イルミナルクスに来てもいいですし、ここで二人で生活しても構いません。子供なら授かり物なのでいようがいまいが気にしないですし求められてもいない事です」


 ええと、他にはと悩むものだから、思わず言ってしまった。


「貴方、サクには見えないし、サクだったとしても急に結婚って言われて、はいそうですかっていうのはできないよ……」

「クラスがメルから借りていたロマンス小説では急な結婚の話もあったと思いましたが」

「それは話が別……ってなんで知ってるの?!」


 食料持って来てくれたユツィ経由で文通してるメルが沢山本を貸してくれたけど中身なんで知ってるのよ。私とメルとの間でしか分からない話だ。袋詰めしてくるからユツィだって本としか分かっていない。

 なのに目の前の笑顔満面の男性は直近読んだ中身まで詳しく知っている。恐怖しか抱けなくなるから、これ以上語らないで。


「これは気持ち悪い」

「寒気すらする」


 ドラゴンとフェンリルの言う通りだ。

 ここは一度帰ってもらって、シレに確認をとろう。いくら十六歳で成人したとはいえ、後見人がここまで野放しにするはずがない。


「クラスは僕との約束を忘れたんですか?」


 にっこにこだった顔が急に眉を八の字にして目尻を下げる。瞳は少し潤んで悲しさが滲み出ていた。


「そういうわけじゃなくて」

「ひどいっ! 信じて十六歳になるまで待っていたのにっ」

「うっ……」


 今にも泣きそうな顔をすると幼さが出て強く言えない。ここは帰れと言いたいところなのに。


「僕の話は一度も信じてもらえないし……あんな別れ方したから、生きていると聞いて凄く安心したんです。けどクラスからは一度も手紙が来ないし」

「それは……」


 罪を被った魔女とやり取りしていたら足元掬われるんじゃと思って敢えて手紙は書かなかった。私のことを忘れて幸せになった方がいいと思ったのもある。ヴォックスたちは監視だという名目で私の遠慮を突破して来るようになったけど、本来ならウニバーシタスの皇族も来るべきではなかった。


「心配だったんです……本当はすぐにでも会いたかった」


 全体的にぺしょんとしょげているとこれ以上強く言えない。なんだか可哀想になってくる。


「その、手紙書けなくてごめんね?」

「いいえ、分かっているんです。僕の立場を考えてくれてたんでしょう? それでもクラスの事が気になって」


 どうしよう。

 十年前のサクはこんな風に落ち込むことはなかったけど、あまりに悲しそうでいたたまれなくなってくる。


「僕にとってクラスとの約束だけが明日を迎える為の糧でした。でもそうですね、約束を大事にしてたのは僕だけだった」

「ええとあの」


 力なく膝から折れて両手を地につける。絶望しすぎでしょ。


「キモいな」

「ああキモい」


 ドラゴンとフェンリルが冷静だった。私はなんだかこう守ってあげなきゃな思いしか出てこない。十年前サクの面倒を見てた時によく沸いた気持ちだった。

 全然サクっぽくないけど守りたい気持ちになるってことは、目の前の人物はやっぱりサクなのかな?


「そうだ!」

「え?」


 顔を上げたサクはもう笑顔だった。


「一緒に暮らせばいいですね!」

「は?」

ちなみに18話で結婚のお約束をしました。たまたま同じ小説読んでて~ならまだしも、自分が読んだ本を全て把握されてたらなんで?って思いますよね~気持ち悪いですわ~。なんだこいつ結構キモくなってきたな。

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