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元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女  作者:
1章 新興国のツンデレショタっ子は魔女に懐かない
32/103

32話 帝都警備騎士巡回、市場調査

 帝都は賑やかな場所だった。

 城の中とは比べ物にならない。元々帝国が始まった中心都市だったのもあり、街は整備され物も充分揃っていた。

 公国は人口が少なかったし長閑だったから、帝都がこんな場所とは想像できない。ここに来た時馬車の外なんて見なかったしな。


「さっさと用事を済ませるぞ」

「うん」


 機嫌が直ったサクとユツィと一緒に警備騎士の拠点へ訪問した。あらかじめ連絡はいれていたし、ユツィも一緒だからすんなり通される。


「そちらと比べれば大したものではありませんが」


 一時的に重傷者を匿う部屋があったのか、そこに通された。ベッドは三つあって一人が寝ている。足をぐるぐる巻きにしているけど、こちらに挨拶するぐらいの余裕があった。そこに軽傷と思われる騎士が三人、怪我はしてない騎士が二人、以前治癒した騎士が二人が待つ。


「魔女様」

「お久しぶりです。あれから傷はいかがですか?」

「すっかり何もないです! 怪我したのが嘘のようでした!」


 何事もなく過ごせているらしい。治癒をして傷口が開くなんて聞いたことないけど、経過観察は重要だ。いずれも異常がないようでよかった。これが身体の中身だと再発は有り得るから気を付けないといけない。


「始めましょうか?」

「お願いします!」


 始終サクが側にいる不思議な状況で、たまに患者である騎士を睨み付けたりして、もう少し態度をどうにかしてほしかったけど、どうにもならなくてそのまま続けた。幸い騎士の面々はスルーしてくれる人が多くて助かる。


「あれが副団長」

「プレケスの英雄か」


 野次馬が増えて扉の前で聞こえるひそひそ話をしていた。ユツィは騎士として有名で実力もヴォックスに引けを取らない、戦場では戦女神として一部で熱狂的に慕われている。実際今ユツィ見たさにギャラリーができているのだからすごいことだ。


「なんだ、君達は怪我人か?」

「い、いいえっ!」

「ふむ? まあいい。入って日頃の体調の相談でもしておきなさい」


 無理矢理患者に仕立て上げた。そこまですることないのに。

 魔女のネームバリューは騎士の間では広まっていたけど、帝都の警備騎士たちもそこまで拒絶の色は見えない。訝しんでいる節はあったけど、治癒したり処方したら意外だという顔をして去っていった。


「最近夜勤が辛いです」

「体調が追い付かないということですか?」

「いえ、仕事が増えまして……酔っぱらいが最近増えてきてるんですよ」


 確か城に手当てを求めてきた騎士も酔っぱらいの仲裁で負傷していた。


「まあ夏場は増えますから、いつものことなんですけど」

「でも大変なことには変わりないですし……滋養にいい薬草をお渡ししますね。食後のお茶にして飲んでください」

「ありがとうございます」

「胃もたれにも効きますので」


 ふと横を見るとサクが顎に手を添えて騎士をガン見していた。考えつつも睨むの? よくわからない行動をとるのね。


「クラス、この後視察場所増やす」

「ん、いいよ?」


 ユツィの効果で患者が倍になったけど、ちょこちょこ調子の悪い騎士に処方できてよかった。また定期的に来ることを伝え一部の騎士が喜んでいた。ユツィの人気がすごい。


「シレから頼まれたこともしないとね?」

「すぐ終わらせる」


 サクがやたら早く終わらせようとしてる気がする。


「そういえば今日はあまり不機嫌じゃなかったね?」

「俺が毎日機嫌悪くしてるみたいじゃねえか」


 事実ツンとしてるじゃない。騎士の治癒は特に機嫌悪くなるのに、今日はそんな感じしなかったから少しは私の治癒作業を見るの慣れたのかと思ってたけど違うようだった。


「警備騎士は距離を置いてましたからね」

「ユツィ?」

「城の騎士はクラスを慕う者が増えましたが、帝都の騎士は様子を窺うものが多かった。その距離ならアチェンディーテ公爵も許容範囲なのでしょう」

「そうなの?」


 黙った。

 皇子二人と比べるとユツィにはあまり言い返さない。サクってこういうとこ紳士よね。


「そんな事はどうでもいい。さっさと行くぞ」

「あ」

「逃げましたね」

「もう……はぐれたら危ないから私たちも行こ?」

「ええ」


 すぐにサクに追いつくと、場所は警備騎士拠点から近い市場に出た。露店が並び、人通りもより多く活気づいている。お店側も客側も笑顔だ。いい市場だというのがすぐに分かる。

 はぐれるとよくないなと思ったらサクの方から手を繋いできた。赤くなる頬を見て和む。


「はぐれるだろ」

「うん、しっかり握ってて」

「おう」


 可愛いなあ。俺に任せろ感が半端ない。

 しばらく歩き市場についてサクはよく調べていた。子供のふりというのも語弊があるけど、ただの子供を演じては店の人間から話を聞き出す。恐ろしい手腕だった。


「あ」

「どうした」


 目に止まった野菜を見てサクがすぐに察する。


「ステラモリスのか」


 店主がよくご存知でと笑顔で説明するのを聞く。ステラモリスの野菜は色が違うけど味は確かで市場でも人気があるらしい。

 くいっと服の裾を引っ張られ、屈んで顔を寄せるとサクが耳打ちしてきた。


「売る時いくらで売ってたか覚えてるか?」


 当時のものだと物価違うけど答えておく。サクのことだから、そこから計算して今の物価価格を弾き出してるだろう。


「……高いな」


 サクは子供らしくしつつも、あっちより高いと指差して無邪気に言ってみせる。店主はステラモリスのだからと理由をつけた。ブランド化してるの?

 帝都の市場ではここともう一つの店舗でしか扱ってないから価値が高くなるらしい。


「買う?」

「うーん?」


 サクがきくものだから悩んでしまった。確かに市場の野菜の中では高いし、そもそも私お金をもっていない。

 悩む私を見て店主が姉ちゃん弟のために買ってやりなと笑うとサクの機嫌が一気に悪くなった。


「ユツィ」


 サクが低い声で名を呼ぶとユツィがいくらかの野菜を買う。心得ていると言わんばかりの顔つきだった。そのまま店を後にする。

 サクがぶすっとしてしまった。


「ねえサク、機嫌直して?」

姉弟は絶対嫌なサク。けど子供であることを利用するサク。今回のツンデレヒーローには色々盛っています(笑)。

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