29話 水のかけあい
サクの熱は一日でひき、翌日からいつもの生活に戻る。そこから一週間経って、ついに水路が完成し城に水が運ばれた。
「実験的に城に引いて、問題を確認してから市井に提供開始だね」
「すごい」
「……」
熱を出してからサクが落ち込んでいるように見えた。相変わらずツンツンしてるし、第一皇太子との仲も良くならず変わらない日々だけど、少しだけ違う気がする。
シレが担当と水路プランの確認をしている間に、私とサクは二人で上流からここまで流れて汲み上げた仮でためる貯水地の水を確認する。桶で掬って状態確認をするサクを眺めてたら、一つ閃いてしまった。やるしかない。
「えい」
「わぶっ」
油断してたから顔面ど真ん中に水がかかった。やっぱり心ここにあらずね? 普段ならこれぐらい避けられるでしょ。
「な、なにすんだよ!」
「サクってば、ここ最近ぼんやりしすぎ」
「っ……」
「かまってくれなきゃ~えい!」
「っ、こらクラス!」
水をかけようとして今度は避けられる。夏真っ盛りだもの、多少濡れたって平気だ。
「ツンツンしてるのはこの際いいから」
「な、なんだよツンツンなんて」
自覚ないの? いつもツンとしてるくせに? その分赤くなって本音が見えると可愛いけどね。
「サクが落ち込んでるのは嫌」
すくって桶にいれた水がなくなった。急いで水を補給してまたかけようとするとサクが呆れた顔をして肩を落としている。
「まだやんのかよ」
「サクが落ち込むのやめるまで」
「そんな、」
「熱出したから?」
ぐっと言葉に詰まった。そこからだよねと言うと視線を逸らすから存分に水をかける。油断したからまた水を被った。
「クラス!」
「私はサクのこと好きだし味方だよ?」
「っ」
サクが近場の桶をとって水をかけてきた。やっとやる気だしたみたい。望むところだ。
「だって」
「ん?」
サクが少し泣きそうに見えたのは水で濡れていたからだろうか。
「……だ、って、格好悪いだろ」
「え?」
「くそ!」
水撒いて誤魔化そうとしている。頬が赤いから本音が駄々漏れだよ? 恥ずかしいのね。
「熱出して看病されるなんて格好悪い!」
「そんなことないのに」
「それに……俺が、普通の人間じゃないって、分かっただろ」
「そんなことない」
周囲は私たちの会話まで聞こえていないようだった。最初こそ生温かい視線があったけど、ここまでくると皆スルーしている。なら話してしまおう。
「あの時も言ったじゃない。サクはサクだって」
「けど」
「けどもだってもいらない。それがサクと一緒にいられない理由にはならないもの」
言葉を詰まらせたサクに素早く水をすくって最後のドカ水をかけた。抵抗は一切なし、呆然としていた。
「嫌いな人を付きっきりで看病する程お人好しじゃないよ」
「あれは、熱出してる俺に同情したんじゃ……」
妙に弱気でネガティブだ。サクが気にしてることだと分かる。そこは払拭しないとだめだ。
「そんなわけないでしょ! サクが私のこと嫌なら話は別だけど?」
「違う!」
「なにが違うの?」
「クラスと一緒にいたい!」
言った途端、目を開いて肩を鳴らした。言うつもりはなかったみたい。
私は本音を聞けて嬉しくて口元が緩む。久しぶりの素直な言葉だ。隠れた本音を見分けられても嬉しいけど、はっきりした言葉を聞けるのもすごく嬉しい。
「ふふふ」
「……くそっ」
顔中真っ赤にしている。可愛いすぎて悶えるわ。
「ふふふ」
「いい加減にしろよ」
「えー? だってサクと私同じなんだよ? 私もサクと一緒にいたいから同じで嬉しい」
「…………全然違うだろ」
拗ねた。可愛いが連続している。やっとサクらしくなってきた。
「ね、私もサクが好きなんだから落ち込まなくていいでしょ?」
「………………分かった」
随分な間があったけど纏う空気が全然違うから、もう大丈夫ね。
「仕方ないな」
クラスの為だと言う。
意地っ張りめ。
水かけるのはやめて、タオルを渡す。本当はばふっと被せて拭いてあげたいんだけど、見ていなくてもギャラリーがいるからやめておくにこしたことはない。確実にツンツンする案件になるもの。
「ふふふ」
「……」
圧倒的に私の方が機嫌良くすごしてるけどいいよね。暗い感じなくなったし、ツンツンも赤くなるのも帰ってきた。夏場に水の掛け合いするのもいいものね。
キャッキャウフフ回(´ρ`)普段のサクなら絶対避けきって濡れないけど、この状態ないける!と思って看病回とセットにしました。実に美味しい。




