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元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女  作者:
1章 新興国のツンデレショタっ子は魔女に懐かない
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28話 苦いの苦手

「治癒が効かないならせめて薬は作ろうかな」


 具合の悪いサクはそのまま私のベッドで過ごしてもらうことにした。枕から顔を覗かせて、視線を逸らして気まずそうにしてくる。なんだろう、あまり見ない所作だ。


「……に、苦いのは嫌だ」

「!」


 苦い薬が嫌。

 私が言葉を失うと、なんだよと赤い顔のまま唇を尖らせた。


「か、可愛い」


 舌打ちの末、だから言いたくなかったと後悔を口にする。


「苦いの苦手……可愛いねえ?」

「もういいっ」


 今度は拗ねた。

 ああもう可愛い。いつもより子供ぽさ割増じゃない?


「ふふふ」

「……」

「サク、大丈夫。苦くないの作るから」

「…………ん」


 でも薬の前になにかお腹にいれておいた方がいいだろう。

 サクを置いて隣の隣、側付きのアルトゥムの戸を叩き事情を話して着替えをもらった。初めて高熱を出した時、なにをしても治らなかったらしい。私の治癒でも治らないことには驚かなかった。ただ他の治療方法を試すことを伝えると深々頭を下げられ、お願いしますと悲痛な声が届く。かつての高熱は周囲も相当気を揉んだということね。


「サク、身体拭いて着替えられる?」

「……ん」


 お湯は用意できる。

 食事をもらってくることを伝えると嫌な顔をしたけど、スープぐらいはと言って扉を閉めた。

 後少しサクに余裕があったら一人で出歩くことを許さなかったはずだ。うまく誤魔化せてよかった。


「ねえドラゴン」

「どうした?」

「サクの特別は大人になったら終わる?」


 少し変質したのなら、再び変質して戻る可能性もあるはずだ。大人になれば繋がることはなくなるか。サクが気にしている他とは違うことを解消できるのか気になった。


「……サクはこのまま大人になる可能性が高い」

「そう」


 初めて顔を合わせた時に味方になってあげたいと思ったのは、外から来た者同士以前にサクが今回のような孤独を持っていたのを感じとれたからかもしれない。


「ひとまずなにか食べてもらおう」

「そうだな」


 寝てれば治るといっても少しでも早く治ってほしい。ので飲みやすいスープをもらって自室に戻った。


「サクお待た、せえ?」

「おう」


 顔も瞳も変わらない。少しふらついた様子で、いつもの余所行きの服に着替え終わったサクと対面した。


「サク出掛ける気?」

「いつもの会議がある」

「いやいやいや休んで?」


 いつものテーブルチェアに座り食事したら出ますぐらいな勢いのサクだけど、朝食のスープは半分も減らなかった。


「ほら、そんなんじゃ外出られないよ」

「あいつに隙を見せたくない」


 薬を渡して飲んでもらうけど、苦くないことが意外なのか目を開いて驚いた。


「苦くないでしょ?」

「おう……」


 あいつって第一皇太子のことだろうな。休むことが隙になるなんてある? 一回だけだよ?


「治癒が効かないから、せめて今日だけでも寝てて?」

「嫌だ」

「んー、一日側で看病させてほしいなあ?」

「ぐっ……」


 お、効いた。風邪を引くと結構皆弱っちゃうから側にいるってパワーワードだと思う。誘惑にぐらつくサクの表情が可愛いくてこちらの口元も緩む。


「今日は私もユツィたちのとこ行かないから」

「……」

「ご飯とってくるぐらいにするから、一緒にここにいよ?」

「ぐ……」

 

 唸る唸る。

 相当魅力的な提案なんだろう。身体も休みたいと言ってるだろうしね。


「ね、サク、だから」


 戸を叩く音に言葉が止まる。


「クラス? サク? いるのかい?」


 シレだった。もしかしてアルトゥムが伝えたのだろうか。


「ちっ……行くか」

「だめだって!」

「あ、いるんだね? アルトゥムから話は聞いた」


 誰にも話していないと言う。

 好都合だとばかりに扉を開けるとシレと側付きの侍女の二人だけだった。二人をいれて戸を閉める。サクのことを知られない為だ。隙がどうこう言ってるから多くの人に知られない方がいい。


「本当だ。調子悪いんだね」

「……」

「あの、今日は一日安静に」

「そうだね。クラスの治癒が効かないんでしょ」

「はい」

「イグニス様も定期的に熱出す人だったからねえ」


 親子だねと苦笑する。そして侍女に目配せすると、侍女の持つバスケットを手渡された。


「食事?」

「外出られないでしょ」

「ありがとうございます」


 今日はいいからとサクに伝える。再び唸りながら、けどと否定の言葉を投げかけようとするのを制した。


「私が風邪ひいたことにして!」

「はい?」

「はあ?」


 私が風邪をひいて寝込んでいる。それをサクが看病すると言ってきかない、自分へ治癒はかけられないので寝ているしかない、よって寝込むしかない、これだ。アルトゥムや厨房のドゥルケに黙ってもらう必要があるけど、サク自身が体調悪いわけじゃないなら弱みならない、はず!


「まあどちらでもいいけど?」

「ま、」

「それでお願いします!」


 再びサクの言葉を遮って情報操作の依頼をした。サクの不機嫌な顔は無視だ。


「分かったよ。多少確認したいことが出ると思うけど、その時は」

「構わない」


 アルトゥムにも伝えてくれるらしい。ヴォックスとユツィには真実を伝えるけど、見舞いはいらないとだけ伝える。サクもそれを望んだ。


「よし」

「別に嘘つく必要ないだろ」

「いやあまあ咄嗟?」

「……ふん」


 シレたちも出て行った。サクの背中をぐいぐい押してベッドに連れて行く。


「あ、着替え」

「自分でするっ」


 手に取った寝巻を奪い取られた。そういうとこは意地っ張りなんだから。最初に預かった室内着に着替えてベッドに潜る。水をもう一杯飲んでもらって横になるとすぐに瞼が落ちてきた。


「いっぱい寝た方がいいから、ね?」

「……ん」


 可愛いなあ。具合悪いからこれ以上喜んでられないけど、素直に応じてくれてる。

 冷えて絞ったタオルを額に乗せると気持ちいいのか瞳を閉じた。


「起きたらご飯食べてみようね?」

「……おう」


 程なくして規則正しい息遣いが聞こえ始める。呼吸の具合を見る限り大丈夫そうだ。薬が効いたのだろう。あとはこまめに様子を見ていくしかない。


「早く良くなってね」

お薬苦いの苦手(´ρ`)お子たまですねえおいしい。看病回が実に美味しい。

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