14話 なんだ、今のは?
「お前のような卑しい人間が歩いていい場所ではないわよ?」
「……」
「お前は喋れもしないの。学がないのも問題ね」
「……失礼します」
言って場を離れようとすると、妃は目配せして護衛が素早く動く。私を止めるどころか、胸ぐらを掴んで投げ捨てた。急なことで受け身がとれない。
「いっ……」
「いずれ帝国の皇妃となるわたくしに失礼ではなくて?」
場を離れることが? 前は道を譲ったら急かせるとは何事だと叩いてきたのに?
「……申し訳ありません」
「お前のような厄災を連れてくる魔女をここに住まわせてあげているだけ有難いことなのよ?」
「……」
「少しばかり治癒が出来るだけで図に乗って」
いつも通りだ。連れてきたのはそっちのくせに、私がいたらいけないのか。ならさっさと城から追い出せばいいのに。
「最近はイルミナルクスの子供を懐柔しようとしてるそうじゃない? 色気でも出したの?」
子供には有効みたいだけど、とせせら笑う。
だめだ、サクの立場がある。感情的になっちゃいけない。
「ああ魔女の呪いかしら? この城にいるものは心得ているけど外から来た子は知らないものね」
「呪い?」
「おぞましい公国の魔女がイルミナルクスの子供には呪いをかけ操り人形にした……そうねえ、帝国を内から滅ぼすのが目的、とか?」
まさか、ないことでっち上げる気?
そんな嘘が出回ったら第一皇太子と対立しているサクの立場が危うくなる。
「そんな、嘘を……」
「あら、この城で誰の言う事を信じるかが重要なのよ? 気味の悪い魔女の言う事なんて誰が信じるというの」
十中八九第一皇太子妃の言い分が正義として通るだろう。けど今の嘘を考えればサクは被害者だ。罪には問われない。問われるのは私だけになる。そしたらこのままの方がいい。
「なにその顔」
皇太子妃の顔が心底不快だと言わんばかりに醜く歪んだ。
「いつものように青くしてればいいものを……痛めつけないと分からないのね」
可哀想に、学の足りないものに教えを施して差し上げてよと仰々しく言ってくる。
途端痛みに倒れた。
「!」
「私の縛りはきちんときいているわね?」
全身を裂かれるような痛みに声が出ない。息がきれ、涙が滲む。
「死なない程度なのだから感謝なさい? お前の治癒はまだ使ってやるわ。少しは帝国に尽くしなさい」
呪いが解ける。
まともに息が吸えて、大きくむせた。
魔女はどっちだ。いつでも私を殺せる呪いをかけて、少しずついたぶって楽しんでいる。
足取り軽く靴の音を立てながら去っていくのを見届けた。
「……行った?」
「おい」
「ひっ」
後ろから急に話しかけられて大袈裟に飛び上がってしまった。
振り向くと最近の癒しが恐ろしいオーラを纏って側にいた。
「さ、サク……いつから」
「なんだ、今のは?」
瞳孔すごい開いて無表情、淡々と喋る割に声は一つ低く、皇太子妃が去った先を凝視している。不穏な色のオーラが見える気がした。
「な、なんでもな」
「ないわけないだろうが!」
さっきの呪いに地面に座り込んだ今の私はサクに見下ろされている。迫力が割り増しになってる気がした。
「呪いだかなんだか知んねえけど、ふざけんなよ!」
「さ、サク、落ち着いて」
「くそっ、今すぐ止めて」
「だめ!」
「ああ?」
サクの手をとった。
やっとこちらを見たサクは怒っていたけど悲しそうだ。
「いいから!」
「お前、まさか誰にも言ってないのか」
「……」
そうでなければシレもヴォックスも動いている。サクの考えは当たりだ。呪いを知っているのはドラゴンとフェンリルだけ。皇太子妃フィクタからの暴力については知られて改善したけど、かけられた呪いは現存している。
「お前命握られてんだぞ?」
「……その」
サクの瞳が鋭さを増した。
「あいつの嫌みも暴力もほぼ日常的にあるな?」
「そ、そんなことは……」
事実シレとヴォックスのおかげで減ったから毎日ってほどじゃないし、会わなければなにも起きない。日常的とは言えないと思うけど、サクにそれを言っても屁理屈と言われるだけだろう。
言い淀む私に、サクは盛大に溜息を吐いた。
「……話は後で聞く。ひとまず戻るぞ」
「う、うん」
「立てるか?」
「大丈夫」
立ち上がるとするりとサクが手を握った。見下ろすと目が合い、気まずそうにそらされる。少し顔が赤いぞ。
「ふ、ふらついてるだろ」
「……」
か、可愛い。心配してくれている。これはシレの言う通り懐いてきてくれてる?
「仕方ないだろ、転んだら危ないし」
「うん、部屋まで手繋いでて?」
「お、おう」
結果オーライというやつね。このサクが見れただけで今日は幸せな日だ。
痛めつけられるのはなるたけ短く、最後にツンデレ持ってきたから許されるはず…!本気で怒って瞳孔開いたショタっ子。




