25.四次元巾着は、愛ではなく金の匂いがする
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
遠征出発の前日。
公爵邸の庭には、山のような荷物が積み上げられていた。
「ぐぬぬ……」
ジークフリートが腕組みをして、荷物の山を睨みつけている。
防寒具、食料、テント、そして先日リリアナが作った『布コンロ』五十枚。
これらは極寒の地への遠征に不可欠な物資だが、物理的な質量はどうしようもない。
「荷物が多すぎる……。これでは馬車の積載限界を超えるし、行軍速度も落ちるな」
離れの窓からその様子を見ていたリリアナは、不満げに舌打ちをした。
(あれで一人分とか……。多過ぎでしょ荷物。まあ、寒いところに行くんだから、色々と物が必要になるか)
しかし、とリリアナは続ける。
(あんな大荷物でトロトロ歩いてたら、私が期待している『お土産』を買う時間がなくなるじゃない)
リリアナの目的は、北方の珍しい宝石や魔導素材、そしてカニなどの海産物とかである。
夫の安全も……まあ気にはなる。なるが、それよりも、物流の効率化の方が彼女にとっては重要課題だった。
「荷物が重いなら、重さを消せばいいじゃない。ついでに高値で売りつければ、遠征費も回収できるわね」
リリアナは手近にあった、飴玉を入れていた小さな巾着袋を手に取った。
中身を出し、指先に魔力を灯す。
「これにしよう」
彼女は巾着の裏地に、素早く文字を刻み込んだ。
『異空間』
『収納』
『軽量化』
袋が一瞬、ぼんやりと歪んで見えた。
空間魔法の付与完了だ。
所要時間、三秒。
リリアナは窓を開け、夫に向かって声をかけた。
「ねえ。困ってるなら、いいものあるわよ」
言いながら、巾着を投げる。
「おっと」
ジークフリートはそれを見事にキャッチした。
「なんだこれは? 小銭入れか?」
「『無限収納巾着』よ。見てて」
リリアナは庭に降りると、積み上げられた『布コンロ』の山に近づいた。
そして、小さな巾着の口を広げ、山にかざす。
「入れ」
シュンッ!
瞬間、五十枚のコンロの山が、掃除機に吸い込まれるように巾着の中へと消えた。
巾着は膨らむこともなく、ペラペラのままだ。
「なっ……!?」
ジークフリートが目を剥いた。
「荷物が……消えた!? いや、飲み込まれたのか!?」
「中は亜空間だから、容量はほぼ無限よ。重さもゼロになるわ。これにテントも食料も全部入れなさい」
リリアナはドヤ顔で言い放った。
「一個、金貨十枚(十万円)ね。騎士団の経費で落としていいから、買って」
国宝級の魔道具としては破格、というか捨て値である。
だが、リリアナにとっては「端切れで作ったゴミ袋」程度の認識だ。
ジークフリートは震える手で巾着を握りしめた。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、涙で潤んでいた。
「リリー……!」
「はい、お買い上げ毎度あり」
「君は、私が重い荷物で苦しまないように……私の背中を案じて、こんな国宝級の魔道具を……!?」
「……は? 違うけど」
リリアナは真顔で否定した。
「あんたが楽をするためじゃなくて、行軍速度を上げて、お土産を買う時間を確保するためよ。あと単純に金儲け」
「またまた……! 照れるな! 金の話をするのは、君の照れ隠しだろう!」
ジークフリートは巾着を胸に抱きしめ、天を仰いだ。
「愛だ! これは君からの『私の負担を軽くしてあげたい』という愛の結晶だ! 君の愛は、羽毛より軽いが、世界よりも重い……!」
「……は、キショぉ……」
リリアナの顔が歪んだ。
本気で引いていた。
「自意識過剰だから。マジでないから。きっしょぉおおおお……」
リリアナは鳥肌が立った腕をさすった。
しかし、ジークフリートには届かない。彼は『妻の愛』を懐にしまい、輝く笑顔を向けた。
「行ってくる! 必ず生きて戻るよ! 君の愛と共に!」
彼は颯爽と馬に跨り、部下たちに号令をかけた。
その背中は、来る時よりも数倍大きく、そしてウザかった。
「あー、キモかった……」
リリアナはげっそりとして息を吐いた。
ふと気配を感じて横を見ると、ルナがじーっとこちらを見ていた。
「……な、なによ」
「……本当に、金とお土産のためだけですか?」
ルナの目は、すべてを見透かすような色をしていた。
「ほんとに! 違うからマジで! 心配なんて1ミリもしてないから!」
リリアナはムキになって否定した。
「左様ですか」
ルナは小さく口元を緩めた。
(あの巾着の紐に、小さく『守護』の文字が刺繍されていたことは、黙っておきましょう)
主人のツンデレは今に始まったことではない。
それに指摘すれば、また「キショい」と騒ぎ立てるに決まっている。
「……早くお土産持って帰ってくればいいのに」
リリアナはボソリと呟くと、北の空を見上げることなく、さっさと離れの中へ戻っていった。
その耳が少しだけ赤かったことに、気づいたのはポチだけだった。
【おしらせ】
※2/11(水)
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