22.冷たくしたから、ホットココア
風呂から上がり、ほかほかの体で脱衣所に出ると、そこにはうら寂しい光景が広がっていた。
脱衣所の隅で、バスタオル一枚のジークフリートが体育座りをしていたのだ。
唇が少し青い。
「……何してんのよ」
「リリーが出てくるのを待っていた……」
ジークフリートは捨てられた子犬のような目で見上げてきた。
「バカなの? 死ぬわよ?」
「リリーに拒絶されたショックで、寒さなど感じない……」
「ガタガタ震えてるじゃない」
リリアナは呆れて溜息をついた。
過去の所業とはいえ、この真冬の空の下、裸同然で放置したのは少しやりすぎたかもしれない。
ほんの少し、罪悪感がチクリと胸を刺した。
(ほんの少しね、ほんの少し)
「ほら、お湯はまだ温かいから。さっさと入ってきなさい」
「……いいのか?」
「許可するわよ。温まってきなさい」
「リリー!」
ジークフリートはパァッと顔を輝かせ、浴室へと飛び込んでいった。
◇
リリアナはリビングへ戻ると、キッチンに立った。
冷蔵庫(魔道具)から牛乳を取り出し、棚からカカオ豆(取り寄せた)を取り出す。
「ちょっと悪いことしたしね。埋め合わせくらいは」
リリアナは指先で空中に文字を描く。
『粉砕』
カカオ豆が一瞬で微細なパウダー状になる。
それを鍋に入れた牛乳に混ぜ、再び文字を描く。
『加熱』
『混合』
『甘味』
ふわりと甘く濃厚な香りが立ち上った。
特製ホットココアの完成だ。
マグカップに注ぎ終えた、ちょうどその時。
バーン!!
リビングの扉が開き、ジークフリートが戻ってきた。
湯気が立っているが、あまりにも早すぎる。
「ただいま!」
「……早っ!?」
リリアナは目を丸くした。
入ってから一分も経っていない気がする。
「烏の行水かよ。ちゃんと洗ったの?」
「洗った! だが、リリーがいない広い風呂は、ただ寂しいだけだった……! だから速攻で上がってきた!」
「……あっそ」
どこまでもめんどくさい男だ。
リリアナは呆れつつも、手に持ったマグカップを差し出した。
「はい」
「ん? なんだこれは」
「ココア」
ジークフリートは不思議そうに茶色の液体を受け取った。
温かい湯気が、彼の冷えた顔を撫でる。
「……なぜ?」
「あんたが外で冷えてたから。温まると思って」
リリアナはプイと顔を背け、ボソッと言い足した。
「あと、私がちょっと『冷たく』しすぎたから。……そのお詫び」
「え?」
「だから! 体が『冷たい』からココア! 私が『冷たくした』からココア! ……って、なんかダジャレみたいになったけど! 違うし! 深い意味はないし!」
リリアナは一人で顔を赤くして早口でまくし立てた。
ジークフリートは数秒ぽかんとした後、愛おしそうに目を細めた。
「……ありがとう、リリー」
彼はマグカップに口をつけ、ゆっくりとココアを飲んだ。
「うん……甘い。すごく温かいよ」
「ならよかったわね」
リリアナはコタツに戻り、ごろんと横になった。
ジークフリートもその隣に座り、幸せそうにココアを啜っている。
「ワフン(やれやれ)」
その様子を見ていたポチが、呆れたように一つ鳴き、コタツの中に潜り込んだ。
外は寒いが、離れの中は甘い香りと温もりに満ちていた。
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