21.過去の失言は、ブーメランとなって刺さる
職人たちの超速仕事により、離れの裏庭には見事な露天風呂が完成していた。
だが、リリアナの欲望は底なしだ。
ハード(建物)ができたら、次はソフト(機能)の充実である。
「ルナ、ポチ。見てなさい」
リリアナは湯が張られた浴槽の縁に立ち、指先に魔力を灯した。
水面に向かって、素早く漢字を刻み込む。
『泡』
『流』
『癒』
文字が水面に溶けた瞬間、ボコボコボコッ! と豪快な音が響いた。
浴槽の底からきめ細やかな気泡が噴き出し、水流が渦を巻く。
ただの露天風呂が、最新鋭の「ジャグジーバス」へと進化した瞬間だった。
「おおお……!」
ルナが感嘆の声を漏らす。
「すごいです主様! お湯が生きているようです!」
「ワンッ!(すげぇ!)」
ポチも目を輝かせ、早速お湯に飛び込んだ。
ボコボコと湧き出る泡が、ポチの毛並みを優しくマッサージする。
あまりの気持ちよさに、ポチは「く~ん……」と情けない声を出して脱力した。
「ふふん、これぞ『魔導ジャグジー』よ。血行促進、疲労回復、そして毛並みのツヤ出しに効果てきめんよ」
リリアナもタオル一枚の姿になり、湯船へと足を入れた。
肌に吸い付くような泡の感触。
適度な水圧が、凝り固まった肩を揉みほぐしてくれる。
「はぁ~……極楽……」
リリアナが縁に頭を預け、夜空を見上げていると。
「リリー! 私も混ぜてくれ!」
脱衣所の入り口から、ジークフリートの声が響いた。
見れば、彼もすでにタオル一枚の姿になっている。
準備が良すぎる。
「遠慮するわ。狭くなるし」
「そんなこと言わずに! 夫婦水入らずで背中の流し合いっこをしよう!」
ジークフリートは満面の笑みで、浴室へと足を踏み入れようとした。
バォンッ!!
鈍い音が響き、ジークフリートの顔面が見えない壁に激突した。
「ぐべっ!?」
彼は鼻を押さえてのけぞった。
「な、なんだ!? 結界か!?」
「ええ。『男子禁制』という結界を張っておいたわ」
リリアナは湯船の中から涼しい顔で答えた。
「男子が駄目なら、そこの犬も駄目だろうっ!?」
「わふん(雄例外)」
「雄なんでこの子」
この結界は、オス(ポチを除く)の侵入を物理的に拒絶する仕様だ。
「な、なぜだっ!?」
ジークフリートが壁をバンバンと叩いて抗議する。
「夫婦だぞ!? 夫と妻が混浴して、何が悪いんだ! 減るもんじゃないだろう!」
「ふぅふ~? あら、奇遇ですねぇ」
リリアナはシャボン玉を指で弾きながら、意地悪く笑った。
「どこの誰でしたっけ~? 初夜の晩に、『君を愛することはない』って冷たく言い放ったのは?」
「ッ!!?」
ジークフリートの動きがピタリと止まった。
急所を正確に射抜かれた反応だ。
「あれぇ~? おかしいなぁ。愛することはない相手と、お風呂に入ろうなんて変ですよねぇ? 公爵様?」
「ぐ、ぬぬぬぬ……!」
ジークフリートが呻く。
それは彼自身が過去に犯した、最大の過ち。
リリアナを拒絶し、離れに追いやった時の言葉が、特大のブーメランとなって後頭部に突き刺さったのだ。
「あ、あの時は……その、私が未熟で……愚かで……!」
「はい、入室拒否。反省しててくださいね~」
「ぐぁああああああああ……!!」
ジークフリートはその場に膝から崩れ落ち、床を掻きむしって慟哭した。
「過去の私を殺したい! 時間を遡行する手立てはないのか! あの日の私を殴ってやりたいぃぃぃ!」
寒空の下、裸同然の格好で絶叫する国最強の騎士団長。
その悲痛な叫びを聞きながら、リリアナはクスクスと笑った。
「オモロ」
極上の湯と、夫の悶絶する声。
これ以上の肴はない。
リリアナは上機嫌で鼻歌を歌いながら、長風呂を楽しんだのだった。
【お知らせ】
※2/5(木)
好評につき、連載版、投稿しました!
『【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない』
https://book1.adouzi.eu.org/n8005ls/
広告下↓のリンクから飛べます。




