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21/25

21.過去の失言は、ブーメランとなって刺さる



 職人たちの超速仕事により、離れの裏庭には見事な露天風呂が完成していた。

 だが、リリアナの欲望は底なしだ。

 ハード(建物)ができたら、次はソフト(機能)の充実である。


「ルナ、ポチ。見てなさい」


 リリアナは湯が張られた浴槽の縁に立ち、指先に魔力を灯した。

 水面に向かって、素早く漢字を刻み込む。


『泡』


『流』


『癒』


 文字が水面に溶けた瞬間、ボコボコボコッ! と豪快な音が響いた。

 浴槽の底からきめ細やかな気泡が噴き出し、水流が渦を巻く。

 ただの露天風呂が、最新鋭の「ジャグジーバス」へと進化した瞬間だった。


「おおお……!」


 ルナが感嘆の声を漏らす。


「すごいです主様! お湯が生きているようです!」


「ワンッ!(すげぇ!)」


 ポチも目を輝かせ、早速お湯に飛び込んだ。

 ボコボコと湧き出る泡が、ポチの毛並みを優しくマッサージする。

 あまりの気持ちよさに、ポチは「く~ん……」と情けない声を出して脱力した。


「ふふん、これぞ『魔導ジャグジー』よ。血行促進、疲労回復、そして毛並みのツヤ出しに効果てきめんよ」


 リリアナもタオル一枚の姿になり、湯船へと足を入れた。

 肌に吸い付くような泡の感触。

 適度な水圧が、凝り固まった肩を揉みほぐしてくれる。


「はぁ~……極楽……」


 リリアナが縁に頭を預け、夜空を見上げていると。


「リリー! 私も混ぜてくれ!」


 脱衣所の入り口から、ジークフリートの声が響いた。

 見れば、彼もすでにタオル一枚の姿になっている。

 準備が良すぎる。


「遠慮するわ。狭くなるし」


「そんなこと言わずに! 夫婦水入らずで背中の流し合いっこをしよう!」


 ジークフリートは満面の笑みで、浴室へと足を踏み入れようとした。


 バォンッ!!


 鈍い音が響き、ジークフリートの顔面が見えない壁に激突した。


「ぐべっ!?」


 彼は鼻を押さえてのけぞった。


「な、なんだ!? 結界か!?」


「ええ。『男子禁制』という結界を張っておいたわ」


 リリアナは湯船の中から涼しい顔で答えた。


「男子が駄目なら、そこの犬も駄目だろうっ!?」

「わふん(雄例外)」

「雄なんでこの子」


 この結界は、オス(ポチを除く)の侵入を物理的に拒絶する仕様だ。


「な、なぜだっ!?」


 ジークフリートが壁をバンバンと叩いて抗議する。


「夫婦だぞ!? 夫と妻が混浴して、何が悪いんだ! 減るもんじゃないだろう!」


「ふぅふ~? あら、奇遇ですねぇ」


 リリアナはシャボン玉を指で弾きながら、意地悪く笑った。


「どこの誰でしたっけ~? 初夜の晩に、『君を愛することはない』って冷たく言い放ったのは?」


「ッ!!?」


 ジークフリートの動きがピタリと止まった。

 急所を正確に射抜かれた反応だ。


「あれぇ~? おかしいなぁ。愛することはない相手と、お風呂に入ろうなんて変ですよねぇ? 公爵様?」


「ぐ、ぬぬぬぬ……!」


 ジークフリートが呻く。

 それは彼自身が過去に犯した、最大の過ち。

 リリアナを拒絶し、離れに追いやった時の言葉が、特大のブーメランとなって後頭部に突き刺さったのだ。


「あ、あの時は……その、私が未熟で……愚かで……!」


「はい、入室拒否。反省しててくださいね~」


「ぐぁああああああああ……!!」


 ジークフリートはその場に膝から崩れ落ち、床を掻きむしって慟哭した。


「過去の私を殺したい! 時間を遡行する手立てはないのか! あの日の私を殴ってやりたいぃぃぃ!」


 寒空の下、裸同然の格好で絶叫する国最強の騎士団長。

 その悲痛な叫びを聞きながら、リリアナはクスクスと笑った。


「オモロ」


 極上の湯と、夫の悶絶する声。

 これ以上の肴はない。

 リリアナは上機嫌で鼻歌を歌いながら、長風呂を楽しんだのだった。

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※2/5(木)


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― 新着の感想 ―
ナム(。-人-。)ナム
夫キモすぎる。なんで自分が受け入れてもらえると思ってるの?
いつも楽しく拝見しています。 リリアナさん、いいですね。一緒にいるうちにほだされて…の作品が多い中、彼女のように徹頭徹尾、反省させる姿勢は最高です! 彼女の離れなら静かで眠れる、と掌返しが本当に気持ち…
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