20.職人に翼を授けてみた
翌朝。
離れの裏庭では、早朝から威勢のいい掛け声が響いていた。
「野郎ども! 気合入れろ! 公爵夫人の依頼だ、半端な仕事は許さねぇぞ!」
「「「おう!!」」」
イッテツ・ガンコ率いるドワーフの建築部隊だ。
彼らは昨日の「カツ丼」ですっかりリリアナの信者となり、最高の仕事をしようと張り切っていた。
リリアナはマグカップ片手に、その様子を眺める。
「精が出ますね。棟梁、完成はいつ頃になりそうですか?」
ガンコは設計図を広げ、太い指で顎髭を撫でた。
「そうさなぁ。基礎からしっかり組んで、配管を通して、極上のヒノキを加工して……。早くて一ヶ月ってとこか」
「一ヶ月」
リリアナの顔から表情が消えた。
(待てない)
彼女の辞書に「我慢」という文字はない。
今すぐにでも、今日にでも入りたい。むしろ今すぐ入りたい。
(……やるか。ドーピング)
リリアナは踵を返し、キッチンへ向かった。
◇
キッチン(実験室)に立ったリリアナは、怪しげな瓶を取り出した。
中身は、疲労回復効果のある薬草のエキス、大量の砂糖、強炭酸水。
そして、覚醒作用のある木の実から抽出した「濃縮カフェイン」だ。
これらを絶妙な配合で混ぜ合わせる。
仕上げに、瓶の表面に指で文字を刻む。
『翼』
『覚醒』
『神速』
文字が怪しく光り、液体に溶け込んでいく。
完成した。
名付けて『魔導エナジードリンク・リリアナブル』。
飲むだけで三日三晩戦えるようになるが、反動でその後三日間は泥のように眠るという、劇薬寸前の代物だ。
「よし」
リリアナはそれを大量生産し、氷でキンキンに冷やして裏庭へ戻った。
ちょうど休憩に入っていた職人たちに、籠いっぱいの瓶を差し出す。
「お疲れ様です。特製の『栄養ドリンク』を作ったので、どうぞ」
「おう、気が利くな! 喉がカラカラだったんだ!」
ガンコは礼を言うと、瓶の蓋を開け、一気に煽った。
他の職人たちもそれに続く。
グビッ……グビビッ……プハァッ!
「……ん? なんだこれ、シュワシュワして……」
ガンコが不思議そうな顔をした、次の瞬間だ。
ドクン!!
ガンコの心臓が早鐘を打った。
全身の血管が浮き上がり、筋肉がパンプアップして作業着がパツンと弾けそうになる。
目からは黄金のオーラが噴き出した。
「うっ、うおおおおおおお!!」
ガンコが天に向かって咆哮した。
「力が……力が湧いてくるぞぉおおお!! 疲れが消し飛んだぁああ!! 今なら山でも砕ける気がする!!」
「棟梁! 俺もです! 止まらねぇ! 体が勝手に動く!!」
「野郎ども! やるぞ! 休んでる暇はねぇ! 俺たちで風になるぞ!!」
「「「アイアイサー!!」」」
職人たちは残像を残して作業場へ戻っていった。
ドドドドド! ガガガガガ!
凄まじい轟音が響き渡る。
先ほどまでの「トンテンカン」という牧歌的な音ではない。
彼らは目にも止まらぬ速さで木材を切り出し、神速で釘を打ち、パズルのように岩を組んでいく。
もはや人間の動きではなかった。
「な、なんだあれは!?」
騒ぎを聞きつけてやってきた(休日)ジークフリートが、目を白黒させた。
「職人たちが分身している!? いや、速すぎて残像が見えているのか!? どんな高等魔法を使ったんだ!?」
「あらあら、張り切ってるわねぇ」
リリアナは優雅にお茶を啜った。
計画通りだ。
◇
そして、夕方。
夕日が沈む頃、離れの裏庭には、信じられない光景が広がっていた。
「……できた」
そこには、湯気を上げる立派な「総ヒノキ造りの露天風呂」が完成していた。
屋根付きで、岩を組んだ風流な囲いがあり、脱衣所まで完備されている。
細部の彫刻に至るまで完璧な仕上がりだ。
「ぜぇ、ぜぇ……一ヶ月分の仕事を、半日で……」
ガンコは満足げに笑うと、そのまま地面に大の字になって倒れ込んだ。
「あしたは……やすむ……」
パタリ。
職人たちは全員、達成感に包まれたまま気絶(熟睡)した。
魔力切れとカフェイン切れの反動である。
「お疲れ様。いい仕事ね」
リリアナはルナに命じて彼らに毛布をかけさせると、タオルを持って完成したばかりの風呂場へ向かった。
◇
チャポン……。
お湯が溢れる音が響く。
ヒノキの香りが漂う湯船に、リリアナは首まで浸かった。
魔法文字『適温』のおかげで、湯加減は常に四一℃のベストコンディションだ。
「はぁ~……生き返る~……」
リリアナは至福の表情で夜空を見上げた。
冷たい夜風が火照った頬に心地よい。
やはり日本人の魂は風呂にある。
ポチも一緒に入り、手ぬぐいを頭に乗せて器用に犬かきをしていた。
「最高ね、ポチ」
「ワフン(極楽)」
こうしてリリアナは、職人の寿命(体力)と引き換えに、念願の露天風呂を手に入れたのだった。
なお翌日、目覚めたガンコが「姐さん! あの薬、もう一本くれ! あれがないと力が出ねぇ!」と中毒者のような目つきで迫ってきたのは、また別の話である。
【お知らせ】
※2/5(木)
好評につき、連載版、投稿しました!
『【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない』
https://book1.adouzi.eu.org/n8005ls/
広告下↓のリンクから飛べます。




