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20/25

20.職人に翼を授けてみた



 翌朝。

 離れの裏庭では、早朝から威勢のいい掛け声が響いていた。


「野郎ども! 気合入れろ! 公爵夫人の依頼だ、半端な仕事は許さねぇぞ!」


「「「おう!!」」」


 イッテツ・ガンコ率いるドワーフの建築部隊だ。

 彼らは昨日の「カツ丼」ですっかりリリアナの信者となり、最高の仕事をしようと張り切っていた。

 リリアナはマグカップ片手に、その様子を眺める。


「精が出ますね。棟梁、完成はいつ頃になりそうですか?」


 ガンコは設計図を広げ、太い指で顎髭を撫でた。


「そうさなぁ。基礎からしっかり組んで、配管を通して、極上のヒノキを加工して……。早くて一ヶ月ってとこか」


「一ヶ月」


 リリアナの顔から表情が消えた。


(待てない)


 彼女の辞書に「我慢」という文字はない。

 今すぐにでも、今日にでも入りたい。むしろ今すぐ入りたい。


(……やるか。ドーピング)


 リリアナは踵を返し、キッチンへ向かった。


     ◇


 キッチン(実験室)に立ったリリアナは、怪しげな瓶を取り出した。

 中身は、疲労回復効果のある薬草のエキス、大量の砂糖、強炭酸水。

 そして、覚醒作用のある木の実から抽出した「濃縮カフェイン」だ。

 これらを絶妙な配合で混ぜ合わせる。

 仕上げに、瓶の表面に指で文字を刻む。


『翼』


『覚醒』


『神速』


 文字が怪しく光り、液体に溶け込んでいく。

 完成した。

 名付けて『魔導エナジードリンク・リリアナブル』。

 飲むだけで三日三晩戦えるようになるが、反動でその後三日間は泥のように眠るという、劇薬寸前の代物だ。


「よし」


 リリアナはそれを大量生産し、氷でキンキンに冷やして裏庭へ戻った。

 ちょうど休憩に入っていた職人たちに、籠いっぱいの瓶を差し出す。


「お疲れ様です。特製の『栄養ドリンク』を作ったので、どうぞ」


「おう、気が利くな! 喉がカラカラだったんだ!」


 ガンコは礼を言うと、瓶の蓋を開け、一気に煽った。

 他の職人たちもそれに続く。


 グビッ……グビビッ……プハァッ!


「……ん? なんだこれ、シュワシュワして……」


 ガンコが不思議そうな顔をした、次の瞬間だ。


 ドクン!!


 ガンコの心臓が早鐘を打った。

 全身の血管が浮き上がり、筋肉がパンプアップして作業着がパツンと弾けそうになる。

 目からは黄金のオーラが噴き出した。


「うっ、うおおおおおおお!!」


 ガンコが天に向かって咆哮した。


「力が……力が湧いてくるぞぉおおお!! 疲れが消し飛んだぁああ!! 今なら山でも砕ける気がする!!」


「棟梁! 俺もです! 止まらねぇ! 体が勝手に動く!!」


「野郎ども! やるぞ! 休んでる暇はねぇ! 俺たちで風になるぞ!!」


「「「アイアイサー!!」」」


 職人たちは残像を残して作業場へ戻っていった。


 ドドドドド! ガガガガガ!


 凄まじい轟音が響き渡る。

 先ほどまでの「トンテンカン」という牧歌的な音ではない。

 彼らは目にも止まらぬ速さで木材を切り出し、神速で釘を打ち、パズルのように岩を組んでいく。

 もはや人間ドワーフの動きではなかった。


「な、なんだあれは!?」


 騒ぎを聞きつけてやってきた(休日)ジークフリートが、目を白黒させた。


「職人たちが分身している!? いや、速すぎて残像が見えているのか!? どんな高等魔法を使ったんだ!?」


「あらあら、張り切ってるわねぇ」


 リリアナは優雅にお茶を啜った。

 計画通りだ。


     ◇


 そして、夕方。

 夕日が沈む頃、離れの裏庭には、信じられない光景が広がっていた。


「……できた」


 そこには、湯気を上げる立派な「総ヒノキ造りの露天風呂」が完成していた。

 屋根付きで、岩を組んだ風流な囲いがあり、脱衣所まで完備されている。

 細部の彫刻に至るまで完璧な仕上がりだ。


「ぜぇ、ぜぇ……一ヶ月分の仕事を、半日で……」


 ガンコは満足げに笑うと、そのまま地面に大の字になって倒れ込んだ。


「あしたは……やすむ……」


 パタリ。

 職人たちは全員、達成感に包まれたまま気絶(熟睡)した。

 魔力切れとカフェイン切れの反動である。


「お疲れ様。いい仕事ね」


 リリアナはルナに命じて彼らに毛布をかけさせると、タオルを持って完成したばかりの風呂場へ向かった。


     ◇


 チャポン……。


 お湯が溢れる音が響く。

 ヒノキの香りが漂う湯船に、リリアナは首まで浸かった。

 魔法文字『適温』のおかげで、湯加減は常に四一℃のベストコンディションだ。


「はぁ~……生き返る~……」


 リリアナは至福の表情で夜空を見上げた。

 冷たい夜風が火照った頬に心地よい。

 やはり日本人の魂は風呂にある。

 ポチも一緒に入り、手ぬぐいを頭に乗せて器用に犬かきをしていた。


「最高ね、ポチ」


「ワフン(極楽)」


 こうしてリリアナは、職人の寿命(体力)と引き換えに、念願の露天風呂を手に入れたのだった。

 なお翌日、目覚めたガンコが「姐さん! あの薬、もう一本くれ! あれがないと力が出ねぇ!」と中毒者のような目つきで迫ってきたのは、また別の話である。

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※2/5(木)


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― 新着の感想 ―
はて?温泉の源泉でも引き当てたかな? 普通のお宅の敷地を掘っても、よくて井戸水じゃない(;^ω^)
劇薬一歩手前……手前? 劇薬を何だと思ってるんだい?リリアナ…… どこに出しても恥ずかしくない、完璧な劇薬じゃないかな……?
>>『翼』『覚醒』『神速』 (´・ω・)………エナドリ? ( ̄▽ ̄)レッ〇ブ〇?
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