19.頑固職人は、カツ丼で餌付けする
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
「あー、だるいわー」
離れの入り口、地面に引かれた転移魔法陣から、湯上がりのリリアナが出現する。
「ばふっ(帰宅歓喜)」
「ぽち~。ただいまー、ふぅ~」
リリアナは髪をタオルで拭きながら、ソファにごろんと寝転んだ。
すかさずルナがやってきて、手際よく髪を拭き上げてくれる。
ポチは傍らに座り、大人しくモフられ係に徹していた。
「いやぁ……改めてだけどさあ~」
「なんだ、リリー!」
「……ナチュラルに来んなし」
気づけばバーン! と扉が開いて、夫(犬)がやってきていた。
「寒いからさっさと扉閉める!」
「リリーが俺を、入れてくれた!」
ジークフリートは嬉々としてリリアナの前に正座した。
「ばふ?(疑問)」
「ああ、良いのよこいつは地面で」
「ばふん(憐憫)」
犬に見下される夫であった。
「で、どうしたリリー? 何か不都合でも」
「うん、風呂、だるい……。本宅に行って帰ってくるの、めんどい」
現在、離れには簡易的なシャワーしかなく、まともな湯船に浸かるには本宅の大浴場まで行かなければならない。
だが、本宅から離れまでの移動距離は徒歩五分。
この真冬の寒空の下、湯上がりの体で歩くには、あまりにも過酷な道のりだった。
なので、今は即席転移魔法陣を使っているのだが、これは使い捨てだ。
その都度魔法陣を描かねばならず、非常に面倒だった。
「はーあ。めんどいの大嫌い」
リリアナは立ち上がると、コタツに滑り込み、ミノムシのように丸まった。
せっかく温まった体が、移動中に完全に冷え切ってしまった。これでは何のために風呂に入ったのかわからない。
「やはり、離れに風呂を作るべきね。それも、足が伸ばせるデカいやつ」
「なら、作ればいいじゃないか」
当然のようにコタツの対面に座っていたジークフリートが、蜜柑の皮を剥きながら言った。
「私が手配しよう。本宅の大浴場を手掛けた、腕利きの職人がいる。彼を呼ぼう」
「やるやん。……んじゃ、よろ」
リリアナはコタツから顔だけ出して、適当に承諾した。
まさか、あんな面倒くさい男が来るとは知らずに。
◇
数日後。
離れのリビングに、怒声が響き渡っていた。
「ふん! お前が噂の公爵夫人か! 気に食わん!」
仁王立ちしているのは、筋肉の塊のようなドワーフの男だ。
名前はイッテツ・ガンコ。
名前の通り、頭のてっぺんから爪先まで頑固で出来ているような男である。
「俺はなぁ、『本物』しか作らねぇ主義なんだ! 聞けばアンタ、インチキな魔道具を作ってるそうじゃねぇか!」
「はぁ? インチキ?」
リリアナが不機嫌そうに眉をひそめる。
「ああそうだ! 妙な魔法をかけるだけの魔道具なんぞ、真の魔道具とは言えねぇ! 職人への冒涜だ!」
「はぁ……」
「魔道具というのは! 素材を一から選び、魔力回路を考え、刻み、といった緻密な努力、汗と涙の結晶! キサマの作るおもちゃとは違うのだ!」
「はぁ……」
(やたら突っかかってくるな……なに、ひがみ?)
どうやら、彼の職人としてのプライドに触ったらしい。
「おいガンコ! 言葉を慎め!」
ジークフリートが止めに入ろうとするが、リリアナは手で制した。
(うわぁ、めんどくさ……)
リリアナの正直な感想はそれだった。
精神論を振りかざす職人は、最も苦手なタイプだ。
さっさと追い返して、別の業者を探そうか。
そう思ったが、リリアナは思い留まった。
(新しい職人を見つけにいくの、めんどくない? めんどくさい。ならこいつを手懐けたほうがいいかも。公爵家お抱えってことは、腕はいいだろうし)
現状、彼女の力だけでは作れない便利グッズがある。
腕の良い職人がいたらなあ、と思ったことが多々あった。
(イッテツは性格はあれでも、腕は確かだろう。でなければ公爵家お抱えになれないだろうし)
リリアナの瞳に、計算高い光が宿った。
敵視されているなら、懐柔すればいい。
簡単なことだ。
「わかりました。お引き取りください……と言いたいところですが、せっかく来ていただいたのです。食事くらいは出しましょう」
「ふん、貴族の飯など口に合うか!」
「まあまあ。文句を言うのは食べてからにしてください」
リリアナはルナに目配せをした。
数分後。
テーブルの上に、丼鉢が置かれた。
「なんだこれは?」
「『カツ丼』です」
「かつ……どぅん?」
「カツ丼です」
「カツドゥーン……ごくり……」
これぞ、リリアナが前世の知識を生かして作った料理である。
黄金色に輝く卵とじ。その下には、揚げたての豚カツが鎮座している。
甘辛い出汁の香りが湯気と共に立ち上り、ガンコの鼻腔をくすぐった。
「……匂いは悪くねぇな」
ガンコは警戒しつつも、箸を伸ばした。
カツを一口かじる。
サクッ。
小気味よい音が響いた。
卵でとじているのに、衣のサクサク感が死んでいない。
噛み締めた瞬間、豚肉の脂の甘みと、出汁の旨味が口いっぱいに爆発した。
「!!??」
ガンコの目がカッと見開かれた。
「な、なんじゃこりゃあぁぁ!!」
「お口に合いませんか?」
「う、美味すぎる……! なんだこの衣は!? 普通のパン粉じゃねぇ! それに、この肉の火の通り具合……完璧じゃねぇか!」
ガンコは一心不乱に丼をかき込み始めた。
頑固な職人の表情が、見る見るうちに緩んでいく。
実はこれ、リリアナ特製の魔道具『瞬間フライヤー』で作ったものだ。
温度管理も時間も全自動。誰が作ってもプロの味になる。
完食した後、ガンコは呆然と呟いた。
「……こんな美味いもんは初めてじゃ。アンタ、すげぇ料理人がいるんだな」
「いえ、私が魔道具で作りました」
「なっ!?」
リリアナは寂しげに伏し目がち(演技)になり、溜息をついた。
「でもこれ、所詮は『機械』の味なんです。邪道なんですよ」
「……あ?」
「貴方のように、素材の声を聞き、長年の経験と勘で作り上げる『本物』の職人技には、逆立ちしても勝てません。私の魔道具なんて、ただ楽をしてるだけの紛い物ですから……」
リリアナはチラリとガンコを見た。
ガンコはバツが悪そうに髭をいじっている。
自慢の技術を否定されるどころか、「貴方の方が凄い」と持ち上げられ、さらに胃袋まで掴まれたのだ。
単純な男には効果てきめんだった。
「む、むぅ……。ま、まぁ、わかってるじゃねぇか」
ガンコは咳払いをして、腕を組んだ。
「アンタ、自分の立ち位置を理解してるなら見込みはある。……そこまで言うなら、俺様の技術を見せてやらんこともない」
「本当ですか!? やったー(棒読み)」
「おうよ! 俺に任せとけ! 最高の風呂場を作ってやるからな!」
ガンコは「まずは測量だ!」と鼻息荒く立ち上がり、メジャーを取り出して動き始めた。
それを見送りながら、リリアナは冷めた目でお茶を啜った。
(……チョロすぎ)
「リリー、顔が悪いぞ」
一部始終を見ていたジークフリートが、呆れたようにツッコミを入れた。
こうしてリリアナは、面倒くさいが腕は確かな専属大工を手に入れたのだった。
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