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8話 強化スコーンとリリアの杖

 翌朝、お日様と共に目を覚ましたリアの頭は、かなりスッキリとしていた。どれだけスッキリとしてたかって?

 

「うお!字が読める!」

 本棚に並ぶ本の背表紙が日本語に訳されたみたいに、すんなり頭に入ってくる。しかも。

「あ、この部屋は高級品で溢れていたんだ……」


 薪で温めるオーブンに、オイルのランプ。天窓には大きなガラスがはまっているし、テーブルに並ぶ精巧なガラス製品は、どの店を覗いても売っていないだろう。

 全ての景色が、まるで靄が晴れた様に、この世界の常識と重なって頭に入ってくる!!


「クッキーは一般常識的には、かなりお金のかかった施設だったのね!」

『今更どうした。頭でも打ったか?』

 ライゾが目をこすりながら、リアの肩に飛んできた。

「あのね、ライゾ!もしかして、リリアの記憶が戻ったのかも!!」

 昨日、心の中で祈った事、リリアが聞いてくれたに違いない!

 

『ふ。朝から何かと思えば……そうか。だが、まだまだの様だぞ。記憶が戻ったのなら、その酷い話し方はしないだろうしな』

 確かに!!って、リアの話し方ってそんなに酷い?


『なあ、それよりリア。今日もお菓子を作ってくれ。俺は最高に甘くて美味いものが食いたい!!』

「了解っ!今日は、リンゴのキャラメル和えを添えた、スコーンを作るよ!」

 

 昨晩の会議が長引いたからか、妖精さん達はまだ夢の中。リアは、本や皿の上、カップの中で寝てる妖精さん達に気を付けながら、テキパキと急いでリンゴの皮を剥き始めた。

「いつか、みんなの分のベッドを用意したいね」

 きっと咽び泣くほど可愛いに違いない。

 リアは新たなる野望を胸に、火の入ったオーブン(ライゾが火の精霊を投げ入れてくれた)で、砂糖を熱した。

 その香ばしい香りにつられて、妖精さん達も起きてくる。

『いい匂い!!焦げてる!?』

「カラメルよ。ほろ苦で美味しいよ!」


『カノ!オーブンが火事だ!』

 ライゾが汗だくで飛び回ってる!なるほど、ライゾは火力調整は出来ないのね。

『リア、今日も何か焼くのね?任せて!』

 でもカノが起きてくれたから大丈夫!

 

『おい、オセル!いつまで寝てるんだ!こっちを手伝えよ!』

 リアが急いでスコーンの生地を混ぜていると、イングがすかさず精霊を放り込んで、オセルを起こしてくれる。

『働かない者食うべからず……』

 オセルは難しい寝言をいいながら、ポイっ!と精霊を入れてくれた。これで今日もリアは、強化されます!!

 

「オセル、昨日もありがとうね!イングもみんなも!リア、みんなのお陰様で今日も1日、超――元気でいられるよ!」

 リアが笑うと、妖精さん達も嬉しそうに笑ってくれた。


 そして、美味しくなぁれ!って唱えながらサクッと混ぜた生地をカップで型抜きして。

『美しさに磨きをかける君には、私からのギフトを』

 今日は更に、優男風の妖精さんが精霊をトッピング!

 カノが調整してくれたオーブンに入れれば……。


「いい匂い!!」

 今日もタイムリーに現れたアンリを加えて、朝食タイムだ!


「リリア、とても美味しいよ、このスコーン。この焼きリンゴも、ただ甘いだけのリンゴと違って妙に美味い!王室の料理人に優るよ!」

「王室の料理人さんには敵わないと思うけど、嬉しいからもっと褒めて!!」

 だって妖精さんが手伝ってくれるからね。


「あははっ!……良かった、君の元気が戻っていて。昨日はごめんね。僕がクー魔導師に捕まった所為で、危ない目にあったと聞いて冷えたよ。大丈夫そうで、安心した」

 アンリはずっと気にしてくれていたみたい。

 

「心配してくれてありがとう。イーヴさんのお陰で、処分は免れたから大丈夫だったよ!」

「処分だなんて……君は被害者だ!」

 声を荒らげるアンリに、リアはビクリとした。アンリはいつも笑顔な印象だから。

 

「……ゴメン。驚かせるつもりはなかったんだ。本当に君が無事で良かった」

 ちょっと驚いたけど、アンリはリアの代わりに怒ってくれてるって分かるから。

 まるで本当のお兄ちゃんみたいだ。って思ったら、何故か胸がツキンと痛んだ。

 そうか……リリアには本当にお兄さんがいるんだよね。会ったことないけど……ワケあり?


「さて、暗い話はここまでにして、今日こそは本格的に学園見学に行くよ!なんといっても、リアは奨学生だから、好きな講義を好きなだけ覗けるからね!」

 裏口入学なのに、奨学生!リアは権力チートです!

 

「でも、アンリも学生なんでしょ?リアのお世話をしていては、単位が足りなくなるんじゃない?」

「ふっふっふっ!だからね、リリアに提案だ。慣れるまでは僕と一緒の講義を取るっていうのはどうかな?」

「リア、おバカだけど大丈夫?」

「心配ない。僕も頭は良くないから」

 レベルが違うと思うけど……ま、いっか!


 残ったスコーンはカゴに詰めて、瓶詰めのキャラメルリンゴと一緒にアンリが同僚に配ってくれるとの事。リアは幾つかのスコーンをリンゴサンドにして紙に包んでからポッケに入れた。ジェイドお嬢様に出会えるといいな!


 そして、お楽しみの本日の講義は……!

 なんと!杖を作る教室でした!超――アガる!!


 しかし、その工程を侮ってはいけない。

「まずは自分の枝を探しましょう。皆さん、着いてきて下さい」

 杖になる木を探す所からだった。

 

 ふわっとしたおばあちゃん魔導師様に連れて行かれたのは、学園の裏の森、北部森林の入り口だ。フェル王立学園は、王都の北の端っこにあるから、城壁に囲まれた王都の北門を抜ければ、そこはもうフィールドだ。

 

「魔物はほとんど出ませんが、生息していない訳ではありません。辺りに気を付けながら、自分の気になる木を探しましょう。身を守るのも、訓練のひとつですよ」

 精霊が沢山いる森だし、スピリチュアルな授業と思いきや、見れば生徒達は皆、杖を胸に、剣は腰に刺してる。ここは国立学校。精鋭揃いって訳だ。


「では、皆さん、心を解き放って探すのですよ」

 そっちの方が難しいのか、生徒達がざわめきながら散開。各々、森に入って行った。強化されてるとはいえリアは丸腰。魔物が怖くてドキドキです。

 

「リリア。僕、これにするよ」

 背の高い木々の間を歩く事、3分。アンリがその辺に生えていた木の枝を、力任せに折った。絶対、めんどくさかったからに違いない。


「魔法は信じる者の元に降りて来るのですよ」

 声がしたと思ったら、ふわっと魔導師様がやって来て、アンリの手折った枝を取り上げ、ボキッと折って突き返してた。容赦ない。

 

 しかしアンリは、他の生徒に冷めた目で見られながらも、また適当な枝を手折る。

「僕、魔法は全然わかんなくってさ……これでいっか!」 

 いい笑顔だ!

 

「……アンリってそんなとこ、あるよね」

 処世術に長けているというか、笑顔で大抵の事は乗り越えちゃう感じ。

「ん?じゃ、後はリリアだね。僕は適当に時間潰してるから、ゆっくり探すといいよ」

「うん!頑張る!」

 

 アンリは、剣を弄りながらも、距離を置いてリアに着いて来てくれる。護衛してくれる予感に、ちょっと嬉しくなるも、静かな木立に入ると、座って磨き始めた。この辺で探せって事ね。

 リアは大きく息を吸って全身で森を感じてみた。

「はぁ……やっぱり自然はいいよね」

 癒されてる場合じゃない。

 

『面白い場所だな。魔術に使われる木ばかり植えられてるぞ。何かが封印されてるのかもしれんな。楽しみだぜ』

 ライゾがウッキウキです!でも、封印!?

『よし!あっちを調査してみるぞ!』

 どんどん奥に飛んでいく。リアも釣られて奥へと走る。

『お――い!こっちに面白いもんあるぞ――!』

 そして、ライゾが、辿りついた木には……。

 

『いらっしゃぁ――い』

「フェオおネエ様!」

 マッチョなおネエ様が待っていました!但し、今は小さな妖精の姿。羽の生えた小さいマッチョだ!

 

『リアに逢いに来ちゃった!まあ、とっても美人さんになって!!何より元気そうで、フェオ、感激!』

 両手を組んで目を潤ませる姿は天使の様。

「ありがとう、フェオ!リアも会えて嬉しいよ!」

 リリアは美人だからね!そう言って貰えると嬉しい。

『でも、痩せすぎね。ちゃんと食べてる?服も合ってないし』

 フェオはリアの周りを飛んで、ファッションチェックに忙しい。クルクルリアの周りを飛んで目が回りそう!

 

『おい!リア、あれがいい杖になるぞ!!』

 ライゾが騒いでる。何かと思えば、しきりに上を指してた。とても大きな木の、すんごい上の方に緑の塊が見えた。


「アレ何?」

『ヤドリギよ!珍しいわね』

 フェオが目を瞬かせてる。レアっぽい予感にリアは腕をまくった。

「分かった!リア、取ってくる!」

 リアは腕まくりをして木に手をかけ、登り始めた。


『リア、大丈夫?』

 フェオが心配したのか、肩に乗って着いてきてくれてる。でも、大丈夫!

「木登りはこの世界に来てから覚えたんだよ。もっと遠くが見たくてね、いっぱい登ったから慣れてるの」

 あの屋敷で過ごした時間は無駄じゃない。あっという間に目標地点に到達よ!

 丈夫な木で良かったぁ……って、これ、硬くて折れないじゃない?

 

『ナナカマドは丈夫で有名な木よ。ちょっと待って頂戴!フェオが切ってあげるから!』

 フェオは、木の枝に下りると……。

「手刀!?」

 あれだ。空手とかで見るヤツ。硬そうな枝を一刀両断!自分の数倍の太さのヤドリギ付きの枝をぶった斬って落とした!!

 ズドン!!

 ゆっくりと降りて見れば、中々の立派な枝よ!


『このヤドリギは貰ってもいいかしら?その代わり、枝にはフェオの印を書いてあげるから!』

 ヤドリギの使い道が分からない。リアが頷くと、フェオには呆気に取られるリアの前で、手刀を披露し枝を剪定。ヤドリギ部分だけは、パッ!っと何処かに消し去った。流石精霊王様。不思議な力をお持ちの様だ。

 そしてメインの枝には、精霊王フェオ様のサインが刻まれ……!!


『良かったな、リア、精霊王のサインは中々役に立つぞ』

 双葉みたいな葉っぱがくっ付いた、めっちゃ可愛い枝だ。すべすべした握り心地といい、これ以上の杖はないと思う!!

 

「ありがとう、フェオ!!ライゾも、見つけてくれて、ありがとう!」

 超――嬉しい!!

「……あ、そうだ!リア、お菓子持ってるの!」

 ご褒美大事!

 リアは可愛い杖をローブの裏ポケットに仕舞うと、大きな木の根に座って、ポッケからスコーンを取り出した。きっと、森の中で食べるおやつは最高よ!


「……リリア?」

 その時、木立から金髪ポニーテールのお嬢様が顔を出した。

「あれ?ジェイドお嬢様だ!」

 思わず声を上げたリアに、お嬢様は吹き出した。

「……ぷっ、お嬢様って何それ。ジェイドでいいって言ったでしょ?しかも貴方、今、お菓子食べようとしてた?講義中にいい根性してるわね」

 あ……。汗。


「ふふっ。いいわ、付き合ってあげる!」

 お嬢様は品行方正なイメージだったけど、ジェイド様は違ったみたい。リアの横に躊躇なく座ってくれた。リアは嬉しくて、スコーンをもう1つポッケから出して差し出した。

 

「昨日は庇ってくれて、ありがとう!!」

「ポケットからスコーン……ふふっ。本当に面白い子。私は当然の事を言ったまでだけど、美味しそうだから頂こうかしら」

 ジェイド様は受け取ると、すぐに口に入れた。

「ん!?美味しい!これ、お菓子工房クッキーのお菓子よね?」

「うん!リアが作ったの!」

「素晴らしいわね。こんな美味しいスコーン、初めてよ!」

 

「お!誰かと思えばジェイド穣じゃないか!リア、僕の分のスコーンもある?」

 お菓子を出せば、アンリが出てくる。これ、最近の常識。

 アンリも一緒にスコーンを持って座れば、フェオとライゾも加わっておやつタイムに突入だ!


「貴方のポケット、幾つスコーン入ってるのよ……」

「まだあるよ。だって、食べ物は貰える時に貰っとかないと、後で後悔するんだよ?」

 これ、メイドの基本!リアがこの世界で学んだ事だ。

「貴方、どんな所で育ったの?もしかして、その細さは……飢えてたとか……そんな……」

 ジェイド様は口に手をやり、何故か震えてる。アンリは何かを悟った様に、肩を叩く。

 

「ジェイド嬢、今は美味しく頂きましょう」

「アンリ、後で詳しく教えて頂くわよ。……美味しいわね。ちょっとしょっぱいけど……」

 ジェイド様、泣いてる?どうしたの?

『リア、このお菓子、最高に美味しいわね!!フェオ、感涙!!』

 フェオまで!!

 泣くほど美味しかったのね、良かった!

 

 ジェイド様はこの森に、魔物調査の授業で来たと言う。

「後で適当にレポート提出すればいいし、楽勝よ。でも……喉渇かない?」

 お菓子の盲点よね。屋外だと、かなり切実よ!

『あっちに川があるぞ!連れて行ってやる!』

 ライゾが探検の成果を指さした。確かに水色の精霊さんがあっちから流れて来てる。

「あっちに川があるそうよ」

「凄い。リリアは感じるのね……」

 何を?


 フェオに、またね!って手を振って、少し木立を歩くと、小さな水音が聞こえてくる。でも、キラキラと光を反射する美しい小川が見えた途端、ライゾが、焦った様にリアの髪の中に飛び込んで来た!不穏な空気に、リアも慌てて木の影に隠れた。

「ん?どうした……げ……」

 アンリも気付き、呻きながらお嬢様を座らせる。

 

 ……そうよね。ジェイド様がいるって事は、あのクラスの生徒もいるって事で……。

 水色の精霊たちが暴れる中、声がする。


「ゴメンなさい!何かに引き寄せられたのよ。勢い余ってぶつかってしまって……でもおかしいわね。カレンの魔眼が発動するなんて……」

「魔眼?なんですの、それ。単にあなたがぶつかって来ただけじゃなくってよ?」

 この声はオレーリアだ。


 小さな川のほとり。カレンと取り巻きの女子達が、倒れ込んだオレーリアを取り囲んで騒いでた。

「カレン様。きっとこの者に、何か悪しきモノが取り付いていたに違いありませんわ!」

「そうよ!カレン様は悪くありませんわ!」

 

「怪我をしている様だ。出るべきか……?」

 アンリが呟く。……怪我!?

 飛び出そうとしたリアは、すぐにジェイド様に止められた。

「カレンが治療するわ。恩着せがましくね」

「そうだね。だけど、この場所で魔法を使うのはヤバいかもしれないね」

「「!?」」


 イイ声に振り向けば、イーヴさんがリア達の後ろに隠れていた。

「今、イーヴ・プロスペールの声がしたけど?」

 ジェイド様はキョロキョロと辺りを見回している。

「シッ!今は隠れる事に集中して!」

 アンリがジェイド様の頭を押さえ込んだ。


 でもリアは、皆がすぐに見つかるって事、分かっていた。だって、カレンの肩に乗った真っ黒い妖精さんがこっちをじっと見てたから。

 この妖精さんが昨日話に聞いた破壊の妖精ハガル。……何かを聞いたのか、カレンがこっちをチラリと見た。


「たとえ貴方が悪しきものに取り憑かれているとしても、私が治療すれば大丈夫よ!手を差し出しなさい。カレンが貴方に愛の癒しを……ベルカナ」

 こちらを……正確にはイーヴさんの方をチラチラ見ながら、ヒールを始めるカレン。実際には、ベルカナが頑張ってるんだけどね。

 

「ヤバいな。皆、逃げるよ!」

 イーヴさんが言った途端、何処からか黒い霧が流れて来た。

 それは重く、ねっとりした空気で、地面を覆いながら凄い速さで広がり、カレン達の足元に忍び寄って行った。

 

「な……何!?嫌ァァァ――!」

「カレン様!逃げましょ!」

 真っ先に取り巻き女子達が逃げ出した。


「リリア、行くよ!」

 霧は足元に絡みつく様にリア達のいる場所にも迫って来てた。リア達も立ち上がり、霧のない方へと駆け出す。

 

「ちょっと!ベルカナ!急ぎなさいよ!!」

 カレンのらしくない怒声に振り向けば、ベルカナがまだ治療の手を止めて無い様子。

「……え?何?どうしたの?」

 オレーリアの方は、霧が見えてもないみたいで、座り込んだまま、キョトンとしてた。でも、黒い霧が深さを増し、オレーリアの顔まで覆うと……。

「あ……ごほっ!何これ……!うっ」

 それを見て、カレンは逃げ出した!

 

「リリア!何してる、急げ!!」

 アンリがリアの腕を引く。でもリアはその手を振り切って駆け出した。

「オレーリアが!」

 

「馬鹿なっ!!魔導師前へ――!吹きとばせ!!」

 イーヴさんの焦った声を聞きながら、リアは息を止めて霧の中に飛び込んだ!


 まるで大量の小さな羽虫にまとわりつかれている様な不快感。霧は目に髪に、耳の中にまでブンブンと唸りながら入って来た。それでもリアは、必死にゲホゲホと咳き込む音のする方に駆けた。


『くっ……これは中々の魔素。……どうにも出来ん。リア、お前の……中に溜め込んだ精霊を使え』

 ライゾの苦しそうな声がするけど、リアの中に精霊なんて……。

『言葉に乗せろ。……どうせ息が……続かんだろ?』

 そうだけど、口を開ければ羽虫が入ってきちゃう。

 

 闇の中を進み始めてすぐに、オレーリアの咳き込む音は既に聞こえなくなっていた。でも、リアの足に何かが当たった!きっとこれがオレーリアに違いない!

 リアはしゃがみこんで、オレーリアの服と思しき物を掴んで引っ張った。でも……人間ってこんなに重いの?

 

 ここでもう、息が限界……。リアは何も出来ない自分に絶望した。

 ……でも最後に、どうせ息を吸うなら……!

 リアは助けを求めて、思い切り叫んだ!!


「神様、助けて!……っ」

 そのまま黒い霧を吸い込んだ。

 

 喉が焼け、胸が痛かった。息を吸ったのに呼吸は出来ず、頭はクラクラした。それでもリアは、オレーリアを引っ張るのを諦めきれなかった。

 目の前が真っ暗になる……。

 

 ……ほう。何が望みだ?

 

 頭の中に返事が聞こえてきた。これは幻聴?

 

 ……などと、聞くのも野暮だな。今のお前に、最も必要な力を授けよう。

 

 ピコン!

 神はリアのギフトを受け取った。

 神はリアに神の力を授けた!

 

 頭の中にゲームの様なテロップが浮かんだ。

 !?


 いつの間にか目をつぶって倒れていたようだ。意識を失っていたのかもしれない。グイッと引っ張っられる感覚に、リアは重たい瞼を開け、体を起こした。

「息が……出来る?」

『ああ、俺もな。これは凄い。周りを見てみろ』

 

 ライゾに言われて顔を上げれば、リアを中心に風が渦巻いていた。でもよく見ればそれは黒い霧で、リアが吸い込んでいるような感覚だ。引っ張られている感覚ってこれだったみたい。

 

『上を見てみろ。面白いぞ』

「竜巻!リアの上に竜巻がある!」

 青空まで一直線!リアの頭から長く細い竜巻が伸びてた。虹色の竜巻よ!!

『お前を中心に、精霊が浄化されているのだろう。飛ばされた精霊が喜びの舞いを踊ってるぞ』

 舞い?……リア、吸引力最強の掃除機の中にいる気分なんだけど?

 

「あ!オレーリアは!?」

『大丈夫よ。治療は無事に終わったわ』

 そう答えるのは、ベルカナさん。オレーリアの上に疲れた顔して座ってた。でもその顔はとても嬉しそう。

 オレーリアは眠っている様子だし、やり遂げたのね。これで安心!

 

「良かった……。ありがとう」

『お礼を言うのはこちらの方よ。ありがとう、大きな妖精さん』

 リアが妖精?デカすぎやしませんか?

 

『ベル。お前はなぜ、アイツらとつるんでるんだ?スルトはどうした』

 ライゾがオレーリアの高い鼻の上に座った。それ、わざと?

『多くは語れないわ。時間が無いから。でも、これだけは知って!沢山の罪のない小さき妖精達が人質を取られているの。スルトもよ。私はカレンが傷つけた者達を癒す為に一緒にいなきゃいけないの。でも……』

 ベルカナさんは顔を覆った。

『私はカレンが皆を傷つけるのを、見ている事しか出来ない……』

 辛そうだ。

 

『妖精が捕まってるだと?スルトまで捕まるなんて有り得ない!』

『スルトは逃げようと思えば逃げられるわ。私もそう。だけど、置いてはいけないじゃない?小さき妖精達は皆、羽を毟られてて……あんな無惨な……。あっ!風がおさまる。ライゾ、隠れて!!アイツらは騎士に紛れてるわ!』

 

 風が収まり、ふわふわと精霊達が降ってくる。まるで虹色の雪が降ったみたいに、横たわるオレーリアと座り込んでるリアの周りに降り積もり始めた。

「リリアだ!!いたぞ!」

 向こうから沢山の騎士様達が走ってくる。先頭は必死な顔をしたアンリだ。……アンリが笑顔じゃないなんて、ちょっと怖い。

 

『大きな妖精さん、今は助けようなんて考えないで。……気を付けて。敵はそこらにいるわ』

 そう言い、ベルカナさんは飛んで行った。きっとカレンの所に行くのだろう。


「リリア!怪我はないか!?」

「なんて事を!!……もう、死んだかと!!」

 ガバリ!とジェイド様に抱きつかれ、リアはゆっくりと力を抜いた。良かった……生きてる。


「可哀想に……怖かったでしょう」

 ジェイド様に言われて気が付いた。リアは泣いていた。

 

 ……これは、何の涙だろう?

 リアの小さな胸には、さっき聞いたベルカナさんの言葉が重くのしかかっていた。

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