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27話 命の欠片

 リアと妖精さん達を乗せた透明なメリーさん(馬)は、騎士様が往来する東門の通用口から、ひっそりと王都を抜け出した。

 

「うおっ!今、真横で蹄の音がしなかったか?」

「ビリー、脅かすのはやめろ。またちびっちまう」

 驚きの声をあげるのは増員された騎士様たち。王都の外には魔物がいて、多くの騎士様が交戦中だった。その中をメリーさんは風のように魔物を蹴散らして走った。

 

 夜空は高く、月は明るい。

 王都の東側はポツリポツリと家の建つだけの草原地帯。とても見通しが良く、すぐ正面に、ドス黒い大きな竜の姿が見えてきた。

 二本の足でデン!と立つソウェルの姿は、めっちゃ大きくて圧倒される。ああ、なるほど!


「人間が竜を恐れるのは、周りに大きな建物がないからだったのね!」

『いや、お前。ソウェルは雷の竜だぞ?普通に怖いだろう!』

 メリーさんのイヤリングと化したライゾがつっ込む。でもね、リア、知ってるの。


「そうだけどさぁ、怖いって言うなら、ソウェルも同じだと思うんだよね。あんな風に囲まれて敵意を向けられたら、死ぬほど怖いとおもうけど?人間に殺されちゃった過去があるのなら、尚更。トラウマになってるんじゃない?」

 前世で、クラスメイトに囲まれてからの暴力を経験したリアなら分かる。群衆は怖いのよ!それが言葉の暴力じゃなくて本当に殺しにかかってるものなら、尚更ね!


『ああ、間違いない』

 リアのポッケから、カクカクと音がした。小さな骨竜、ダエグさんだ。

『ソウェルは誰よりも人間が好きだったんや。皆の手本になるようにと自分を磨き続けていたほどな。だから、人間の攻撃に憤りを感じると共に、深い悲しみも感じているはずじゃ』

 ふ、ダエグさん。姿が変わったからか、キャラが安定してないよ?


「そっか。ならさ、そもそもなんで、ハガルなんかにひっかかっちゃったの?」

 話を聞いた感じだと、ダエグさんもソウェルさんにも、ハガルみたいに、人に対して破壊的な思想を持つようには思えないんだよね。


『ああ。人間が竜を攻撃し始めた時、俺たちは、ほんの少しだけ人間にお仕置をしてやろうと思ったんや。それがいけんかった』

「お仕置?」

『うむ、そうだ。そのやり方が間違っていたというべきか……恥ずべき事だか、聞きたいか?』

「うん!聞かせて!」

 リアが頷くと、ダエグさんは鼻をかきながら話し始めた。


『その時代、神は浄化の竜としてこの世界に存在していてな、人間の出す魔素を浄化してやっていたんだ。なのに、人間は長い時の中でそれを忘れてしまい、こともあろうか、我々、竜に攻撃を仕掛けてきよった!憤った我々はハガルと手を組み、神に、浄化を止めさせようと考えた』

「神様、リアルに、いたんだね」

『ああ、その時はな……』

 ダエグは頭を抱えた。


『だが……結果、ハガルは神を殺し、神の力である浄化の力をこの世界から永遠に奪ってしまった。だから、焦った俺たちは、ハガルに渡されたそれを、神の力だと信じて飲んじまったんや。この世界に必要な力だからな』

 おかしいな。その力、リアが持ってる気がするよ。気のせい?


『……あとは知っての通り、暴走して、人間を襲っちまったって訳だ』

 うわぁ。裏切られたからって、神様殺したの?

 仲間を利用してまで復讐するとか、サイコパスじゃない!

「めっちゃ、ドンマイ!」

『よく分からんが、それは……慰めてくれてるんか?』

 

『ねえ、やけに静かじゃない?』

 カノが、リアの肩に乗って空を指さした。

 同じく肩で、情報を持った精霊を集めるのに苦戦していたアンスールが眉をひそめる。

『この様な戦いの場では、人々の心が荒み、闇を生んでしまう事が常々。精霊はその闇に染められ、すぐさま魔素となってしまうのです。故に、精霊魔法を使うのは難しくなってしまいます』

 確かに視界が悪くなってきてるね。


「この黒い霧も魔素?」

『ええ、そうですよ。リアも自然と一体化してからは、よく見える様になったようですね。これからも心を解き放つよう、心得て下さい』

 善処します。

「って事は、今は物理攻撃オンリーになってるの?リア、あの中に突っ込んで行っても大丈夫かな?」

 騎士様たちの低い声や地響きは、魔素の中から聞こえてる。果たしてリアがこの中に飛び込んだとして、リアの声はソウェルに届く?

 

『リア、怖くなりましたか?』

 アンスールが心配そうに小さな手でリアの頬を撫でた。

「うーん。失敗するのが怖いかな?リア、みんなの期待に添いたいし!」

『うむっ!いい根性だ!!パワー全開だぁぁ――!!』

 いきなり、ポンッ!と、ポケットからウルが出てくるから、アンスールはビクリとした。

『ウル!うるさいですよ!!』

 ……え?それって。


「ダジャレ?」

『いや、違いますから!』

 あれ?アンスールが焦ってる。耳が赤いわ!

「可愛いぃ――」

『リア、やめてください(涙)』


 途端に妖精さん達が吹き出した。

『ぶははっ!!こんな時に呑気か!さすがだな』

『ありがとう、リア。緊張が解けたわ』

『カクカクカク』

 なんか褒められたよ!


「じゃ、そろそろ降りるよ」

 もう戦場は目の前だ。リアは警戒して止まったメリーさんから飛び降りた。ライゾがタイミングよく風を纏わせてくれて、無事着地よ!文句言われたけど。

 

「メリーさん、ここまでありがとう!そろそろ冒険も終わりよ!」

 あの騎士様……バザン様?も、今帰れば許してくれるはず。概ね、リア達のせいだけど。……怒られたらゴメン。


「じゃ、みんな、準備おっけー?」

 リアの掛け声に、妖精さん達が慌ててポケットに隠れ始めた。ギューフさんは、わざわざ出てきて、リアに投げキッスを飛ばすと、透明魔法をかけ直してたウィン様をエスコート。仲良くポケットに消えた。

 カノはリアの肩に陣取って、親指を立ててる。ライゾは髪の中に、司令塔のアンスールはポケットから顔を出した。これで準備万端ね。


『ではリア、最善を尽くしましょう!!』

「うん!」

 ドキドキするけど怖くない。みんながいるからね。

 リアは、スカートの裾を握りしめ、駆け出した。

 

 

 戦場は混乱を窮めていた。

 竜は動きが遅く、近付くのは容易に見えた。でも、近付けば暗雲に巻き込まれ、次の瞬間には、長い尻尾で薙ぎ払われた。一瞬にして数十の兵が吹き飛ぶ。

 

「……ヤバい」

 呻く人々。あっという間に出来上がる怪我人の山に、目を背けたくなる。

 でもリアは、怪我人を連れ、距離を取ろうと混乱する兵たちをかき分け、必死にイーヴさんを探した。まずはオセルさん達と合流しなくちゃ。


 ウオォォ――!!

 

「うおっ!?」

 怒号に驚いて立ち止まると、左翼から兵たちが剣を掲げ、竜に突っ込んでいくのが見えた。その先頭を切っているのは、見覚えのある騎士様だ。

「ルーカス殿下だ!……危なくない?」

 って思った時には、竜の尻尾が大きく振りかぶっていた。

 

『馬鹿な……同じ事を!』

「伏せろ――!」

 その時、リアの後ろの方から、良く通る声がした。この声はイーヴさん!

 同時に魔法の閃光がリアの頭の上を走った。


 光は竜の体に直撃。その轟音と、巻き上がる雷雲を含んだ黒い風に、リアは耳を塞いで縮こまった。頑張って目を開ければ、竜の尻尾が空振るのが見えた。

 体勢を崩した竜は、その場にどうと倒れたのだ!

 リアの体が浮くほどの衝撃。地面が揺れた。


「凄い……」

『ええ。しかし、ソウェルはまだ生きてます。ユルでもダメでしたか……どうして……』

 アンスールの呆気にとられた呟きは、すぐに鬨の声に掻き消えた。

 

「いけぇぇぇ――!」

 ルーカス殿下が叫び、体勢を低くしていた騎士様達が一斉に立ち上がったのだ。もの凄い勢いで竜に飛びかかっていく!見る間に黒い竜は、王国騎士団に囲まれた。

 

 ……だけど。

 人間は、なんて小さな生き物なんだろう。

 どれだけ剣を突き立てようとも、竜は声すらあげない。黒い羽を傷つける事は出来ても、その体には、傷すら付ける事は出来なかった。

 

「さすが竜。めっちゃ頑丈……あ!魔素が広がっていくよ」

 撃たれた時に吹き飛ばされた魔素も、どんどん増えて濃くなっていく。

『ソウェルは相当溜め込んでいる様子ですね』

「変な物ばかり食べるから……」

『魔素の塊とか人間の腕とかな……』

『リア、ライゾも……やめなさい』

 

 そして、魔素が広がれば、それを吸い込んだ魔物が暴れる。この場所は悪しき竜の墓所。ダンジョンがあるからだ。

 ここのダンジョンの食物ピラミッドの頂点は狼みたい。魔素で大きくなった狼が、いたる所から飛び出してきては、騎士様を襲い始めていた。その数の多い事!


「竜は停止中だ!今のうちにダンジョンを塞げ――!」

「「うぉぉぉ――!!」」

 すぐに現場は地獄絵図に!狼の群れは狩りに長けていて、騎士様でも苦戦し始めた。

 

『地下から這い出てますね。ソウェルが倒れた時に、穴が開いたのでしょうが……塞ぐのは容易ではないでしょう』

「そんな……!ライゾ、風魔法で薙ぎ払っちゃって!」

『はあ!?俺は旅の妖精だっての!』

『リア!イーヴを見つけたわ!先にオセルと合流するわよ!』

 カノの叫び声に、リアは大きく深呼吸すると、焦る気持ちを落ち着けて、カノの指さす方へと走った。

 

 

 竜から少し離れた所。小さな納屋の横に、イーヴさんは片膝を着いていた。 遠隔攻撃隊なのか、魔道士っぽい黒い集団に囲まれている。

 とても苦しそうで、部下達に支えられても立ち上がる事も出来ない。

 リアも心配で、魔道士様達の、無駄にデロデロしたローブを掻き分けてイーヴさんに近付いた。皆、動揺しているのか、透明なリアが何をしても気付かない。

 

「イーヴ様。このままでは手詰まりです。後は王国騎士団に任せて、我々は一旦、引きましょう!」

 魔法が使えない魔道士様は杖で叩くしかないから?めっちゃ逃げ腰なんですけど。

 それでも、イーヴさんは諦めていなかった。


「まさか弱音を吐いてるんじゃないよね。王国騎士団に笑われたいの?君たちは王国一優秀な魔道士だよね。絞り出せば魔物くらい抑えられるはずだよね?」

「う……はい」

 魔道士様の中では最年少だろうに、イーヴさんには、有無を言わせない迫力がある。ちょっとネチネチしてるけど。

 その時、イーヴさんの背中から、小さな影が飛び出した。


『ユル!大丈夫ですか!!』

 アンスールの声に目を凝らせば、ティール爺様だ!

 その腕には、長く青い髪の毛が……いや、顔は見えないけど、ユルだよね?まるで死人のようにぐったりしてるけど、大丈夫!?


 リアが慌てて両手を差し出すと、ティール爺様は飛んできて、手のひらに優しくユルを下ろした。

 すかさずライゾがほくそ笑みながらも手を貸す。

 

『はっ!あんなに自信満々だったのにな。ユル、どうしたんだ?そのザマは』

『ライゾお前……後で殺すから』

 ユルはヒクヒクと肩を震わせながらも、長い前髪の隙間から、ちょっとだけ安心した表情を覗かせた。え!?こんな時だけど、なんかめっちゃ綺麗系なんですけど!?


『ユル、失敗した理由を伺っても?』

 アンスールが飛び寄って、ユルの背中を撫でた。

『……命がひとつじゃなかったんだよ』

 どゆこと?


『命が?幾つもあったの?』

 カノが飛び降り、リアの代弁をしてくれた。アンスールは腕を組んで呻く。

『なるほど……ソウェルが口にした命の欠片が、1人分ではなかったのですね。……ああ、リア。ユルは死と再生の妖精なのです。一瞬にして命を奪う力を持っていますが、悪用されるのを防ぐ為、奪える命はひとつに限られているのですよ』

 デス攻撃!殺人鬼防止機能付き!?


『前回、取り込まれた命の欠片はひとつ。カノの炎で燃やし尽くす事で、ゾンビ状態のダエグを元の骨の状態に戻す事が出来ました。ですので、今回は、ユルの魔法でソウェル生命の欠片を始末しようとしたのですが。命が1つじゃなかったとすると』

『僕は2度試した。……2度もだぞ!ありったけの精霊を奪って放った魔法が、全く効かなかったんだけど、どういうこと!?』

 ユルは相当イラついてる。精霊のいない中で使う魔法は、生命を削るしかないのに……ユルはその魔法を2度も使ったのだ!

 なんて頑張り屋さん!


『ねえ、つんつんしないでくれる?』

 ご褒美よ!……ユル、もうちょい顔見せて。うへへ。

『お前、顔が気持ち悪いぞ……』

 イライラ増してない?不思議ね。


『どうやら敵は、前回の失敗から学習したようですね。生きている者の体の一部を複数人分用意するとは……なんとおぞましい行為なのでしょう』

『体の一部を取られた人達は、この先、どうやって生きていくの?』

 カノが悲痛な表情を浮かべてる。それを慰める様に、ライゾが頭をポンポンした。ライゾにもそんな配慮ができたのね!

『奴隷か貧民を使ったんじゃね?金さえ積めば、指くらいなら差し出す奴なんて、わんさかいる。ま、要らなくなれば殺せばいいし?』

『酷い言い方っ!』

『本当の事だろ?』

 人でなし!


 ティール爺様はその間に、もう1人の黒髪の妖精、ニイドも運んで来た。ニイドもとても疲れた様子で、ただでさえ細い体を二つに折って、小さく丸まってしまった。アンスールが心配そうにニイドの顔を覗き込む。

『リア、ニイドは束縛の妖精です。今も竜を留めてくれているのですが……この状況ですと、いつまで持つか分かりません。如何しましょうか』

 え!?今ソウェルを止めてるのはニイドの魔法なの!?


『リア。僕も撫でて』

 ニイドは大人だけど、とても無垢な感じなんだよね。今はとても儚げよ。……うんうん。よくやったよ。

 

『儂は戦士の妖精じゃ!かくなる上は、儂の剣で沈ませてみせようぞ!!』

 ここでティール爺様が立ち上がった!ティール様って戦士の妖精さんだったのね!

 それを、肯定する様にオセルが飛んで来て、リアの目の前……アンスールの前でスっと腰を折った。

『申し訳ありません。ひと思いに終わらせてやりたかったのですが……突撃許可を!』

『しかし……』


 アンスールはうんと言わない。分かってる。その昔、ソウェルさんは、仲間だったんでしょ?

『リア、ソウェルがいけない事をしたのは分かってます。しかし、償う方法があるかもしれない。それを、共に考えたいのです!』

 さすがアンスール!先生みたいだ。

 って、そう思ったら。リアは前世を思い出して、少し胸が痛くなっていた。

 そうか、あんな莉亜でも、助けようとした人がいたんだって思い出しちゃってね。


「みんな、ちょっと待って!」

 あ、思わず、力入っちゃったよ。


「「!?」」

 突然聞こえた女の声に、現場は騒然。近くの魔道士様たちがキョロキョロし始めた。まずい!

「……お前か?」

「え?いくらエンジェルボイスの僕でも、女の声とは違うよ……」

 いつか聴き比べさせて下さい。

「それよりもイーヴ様、今なら竜も倒せるやも知れませんよ!」

 え?


 振り向けば、竜が……ソウェルさんが立ち上がり、呆然と佇んでいた。

 魔物はほとんど倒され、騎士様たちがじわじわとソウェルさんを囲い始めてた。

 なのに、魔素は落ち着いていて……凪いでいるのだ。


 その状況が、リアの過去と重なった。


 そうか……。

 今のソウェルさんは、あの時のリアと同じなんだ。

 莉亜はあの前世最悪の、あの日を思い出していた。


 あの断罪の日。

 莉亜は学校の屋上で、クラスメイトに囲まれ、罵声を浴びせられながら考えていた。

 

 莉亜がいなくなればいいの?

 莉亜が死ねば、全て解決して、みんなが幸せになれるの?

 なら莉亜は、死んだ方がいいのね、と。


 リアは、ボロボロの羽で立ちすくむ竜を……ソウェルさんを見た。


 終わらせてくれ。

 そんな声が聞こえる気がした。

 

 ――そんなのダメ!まだ諦めないで!


 1度死んだリアなら分かる。騙されたまま死ねば、必ず後悔するんだって事を。だって、莉亜だって本当は、生きたかったから!


 

「攻撃をやめて!!」

 気がつけば、そう叫んでいた。


「「!!」」

 今度はしっかりと聞こえた女の声に、魔道士様たちは腰を抜かした。

 そんな中、イーヴさんだけが微笑んでいて……。

 次の瞬間。

 

「攻撃やめーー!総員撤退!!駐屯地まで下がるぞ!!」

 イーヴさんが突然、退避命令を出したのだ!

 そこに居る皆がイーヴさんを二度見した。

「「え!?」」

「撤退ですか?今は決着の時でしょう!」

「女神様のお告げだ。急げ!!」

 イーヴさん、ゴリ押しの姿勢。

 

 でもその言葉は、瞬時に可決された。

 何故なら、ルーカス殿下が同調の意を示したからだ。

 

「撤――退――!!」

「全軍撤退だ――!引け――!!」

 今までの押せ押せな雰囲気が一転。騎士様たちは、訝しげな表情を浮かべながらも、撤退命令に従った。


 急な展開に、リアの心臓は震える。

 でもね、心の中からは、湧き上がる喜びは確かにあったの。

 

「また信じてくれた……」

 慌ただしく動き始めた戦場の中、イーヴさんはリアの小さな声を拾ってくれる。

「勿論だよ。君の願いは僕の願いだからね。でも、まだ危険だから、僕と……」

「任せて!!」

 リアはイーヴさんの伸ばした手を振り切って、ソウェルさんの方へと駆け出していた。だって、期待に応えたいじゃない?

 

「待って!……ルーカス!リリアが!」

 イーヴさんの焦った声が聞こえるけど、心配はいらないよ。リア、逃げ足だけは速いし。


『リア、ありがとうございます』

「いや、むしろリアがお礼を言いたいよ、アンスール。優しさがある事に気付かせてくれてありがとう!」


 そうよ、どうしてあの時、優しくしてくれた人の手を取らなかったのだろう。

 

 失った信頼や崩れた関係を戻す事に必死で、ちゃんと周りが見えてなかったのだ。真剣に莉亜の事を心配してくれた人も、アドバイスしてくれた人だっていたのに。

 それが正しいかどうかなんて関係なかった。莉亜の苦しみや想いを分かってくれなくても、そこに優しさがある事に気付くべきだったのだ。

 手を伸ばしさえすればきっと、暗闇から這い出す道も、一緒に探してくれたかもしれないから。

 


 騎士団の撤退は速い。逆らって走るリアよりもずっと。

 あっという間にソウェルさんの周りには誰もいなくなり、辺りは静かになっていた。


『これに入るのか?』

 ソウェルさんに近づくには、まずはこの魔素を浄化しなきゃ。

「うん!ソウェルさんにも、優しさがある事を知って貰いたいからね」


 リアは再び掃除機になった気分で、ソウェルさんの纏う魔素の中へと、入って行った。

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