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26話 アウェイな感じ

 精霊さん達に別れを告げたリアは、城の内門へと急いでいた。

 東の空は益々赤く、次の怪我人が搬入されて来るのは時間の問題だった。

「門を開けてくれるといいのだけど……」 


「そこの娘!」

 もうすぐで門って所で、リアは呼び止められた。振り向けば馬。ムフ――って息をかけられた。

「娘!お前はオレーリア・オデール伯爵令嬢が何処におられるのか、知っているのか?歩いて行ける距離じゃないぞ!」

 立派な馬を引いているのは、人の良さそうな騎士様でした。聖女様の前じゃないからか、とても砕けた様子で……リアは首を傾げる。行ってこいって言ったのはあなた達じゃない?

 

「知ってるから大丈夫よ。今日は靴があるから走れるし」

 学園までの道のりは、ずっと窓から外を見てたから覚えてるし、距離も分かっているつもり。

「靴があれば東門まで行けると?……まったく」

 何故か怒ってる?

 次の瞬間、リアはグイッと馬上に持ち上げられた。慌てて馬に跨って鞍にしがみつくと、後ろに騎士様も乗って来た。

 

「門を開けろ!!」

 怪我人の搬入が終わり、頑丈な城門は閉められていた。それが、この騎士様のひと声で開けられる。

 うわ!なにこの騎士様!ちょっと偉い人っぽいけど?

 

「ねえ、とてもありがたいのだけど、王城を守った方がいいと思うの。聖女様や避難民の人達が危ないんでしょ?」

「大丈夫だ、ここまでは来ない。聖女に喧嘩を吹っかけられ、追い出されたお前が気にする事でもないだろうに……」

 リアが転がされたの、見てたの?恥ずい!


「あの場所にいる人たちの拠り所が聖女様なら、今は、みんなが不安にならない様に、リアが出て行けばいいって思ったんだけどな」

 リアが呟くと、騎士様はフッと笑った。

「なら、お前の不安は誰が拭ってくれるんだ?」

 味のある笑顔だ。映画に出てくるいい人キャラみたいな?……誰かを庇って最初に死ぬ役ね。

 後ろから手網を握ったその騎士様は、直ぐに真顔に戻ると、リアのお腹に手を回し、片手で悠々と馬を操り、駆け出した。

 

 人の居なくなった街は真っ暗だった。月明かりの中、騎士様は無言で馬を走らせ、あっという間に、リアが王都に来て最初に降ろされた場所、ルーカス殿下のタウンハウスに到着した。


 しかし、出てきた執事様は戸惑いの表情。

「恐れ入ります。オレーリアお嬢様もお戻りになられておりません」

「え?じゃあ、オデール伯爵様もロザリー婦人もいないって事?今はどこに?」

 執事様は首を振る。


「……なるほどな。分かった」

 何が分かったのか、騎士様は悟ったかの様に早々に踵を返した。……って、この人達はどうするの?ここは竜がいる場所から近いのよ?

 

「じゃ、早くみんなも避難してね!」

 リアが言うも、執事様は首を振って動かない。

「我々はルーカス殿下にこの場を任された身ですので。それに、ここにいる皆を置いて行く訳にはいきません」

 皆?屋敷の中を覗き見れば、複数人の怯えた様子のメイドの姿が見えた。この人達、ルーカス殿下に命を捧げるつもり?


「そんなのおかしいよ。死んじゃったら、化けて仕えるしかなくなるんだよ?それから恨み言を言っても手遅れだよ……」

 人はそれを、おばけと言う。


 すると、後ろから騎士様の笑い声が聞こえた。

「ハハッ……その娘の言う通りだ。殿下は器用な方だがな、霊的存在と交信までは出来るとは思えんしな」

 人の良さそうな騎士様は執事様に胸のエンブレムを叩いてみせた。

「だが今ならまだ間に合う。王城に向かえば、少なくともジェイド様のお役には立てるだろう。行け!」

「かしこまりました!」

 執事様が嬉しそうに屋敷の者たちの元へと向かうのを見て、リアはひとまずホッとした。何故か皆、めっちゃリアに向かって礼をしてたけどね。


 外に出たリアは、急いで馬に駆け戻った。

「じゃ、オレーリアを探しに行こう!」

「この私を御者扱いするとは……まあいい」

 苦笑い。騎士様は馬に乗ってからリアに手を伸ばし、引き上げてくれた。良かった!もうちょっとくらいは付き合ってくれそうよ。


「えっと、他の避難所は……聖堂かもよ!行ってみよう!」

 でも、騎士様はリアの頭をポンポンした。

「ふっ、もう諦めろ。オデール伯爵家の者たちは逃げたんだよ。使用人を置いたままな」

「……そんな!!」

 

 一度は言葉を失ったリアだけど、まあ、ロザリー婦人ならそうするかもって思い当たる。ロザリー婦人にとって、使用人はいくらでも挿げ替えの出来る消耗品。どこで野垂れ死のうが、気にもしないだろう。


 でも、さすが人の良さそうな騎士様。人が良さそうな顔をしているだけある。

「残念だが、この事は陛下に報告さざるをえんだろうな。兵も出さない、救援もしないとなると、今後オデール伯爵家が政に口を挟む事は許されないだろう。お前も早々に自分の身の振り方を考えた方がいいぞ」

 使用人の心配までしてくれるとは!リアは思い切り頷いた。

「分かった!リア、再雇用は望まないよ!」

「お前も捨てられたクチか……なら、今度はうちの庭師にでもなるか?」

 皮肉混じりの笑顔。

 

「え?いいの?よろしくお願いします!!」

 即答。ロザリー婦人の屋敷に戻れない今、学園を追い出された時に備えて、食いっぶちは確保しないと!

「ハハッ。まあ、ルーカス殿下が許せば、だかな」

「……なんで殿下?」

「俺はルーカス殿下に、お前の事を頼まれたんだ」

「え?そうなの?」

 思えば確かに、ルーカス殿下はリアの事を気持ち悪いくらい保護する様なところがある。まあ、オレーリア効果なのだろうけど。


「……実は、俺も先程までは疑ってたがな。でもまあ、今は殿下がお前が気にする理由も分かる気がするな。避難所に戻ったら、まずはその足の怪我の治療をさせてくれ……」

「!?」

 その時、東の空がひときわ明るく光った。


「うおっ!」

 ズズ―――ン!!

 続いて何の攻撃なのか、大きな音が鼓膜を震わせ、地面が揺らいだ。

「門が破られたようだ!急ぎ城に戻るぞ!」

 騎士様は手網を引き、城へと向きを変えた。

 ……しかし。


「お、おい!どうしたんだ?相棒!」

 お馬さんはイヤイヤと首を振り、たたらを踏む。

 ……ま、原因は分かってるけどね。馬の耳に、イヤリングの如くライゾがぶら下がっているから。

 

『はいよぉー!東だ!東門に行くぞ!』

 ライゾ、何やってんの?

『リア!コイツを拝借して、竜を見に行こうぜ!』

 親指立てて、ニッ!って……ハイジャック!?

 

『ライゾ、それはいけませんよ!ソウェル……竜の事は、オセルに任せると決めたでしょう?何があろうとも、リアを危険に晒すことだけは……いえ、なんでもありません』

 ……あ、そうか。ふた手に別れたのは、リアの身を案じての事だったんだ。アンスールの事だ。仲間が気にならない訳はなかっただろうに……。ライゾ、気付かせてくれてありがとう!

 リアは騎士様の腕を引っ張った。


「騎士様!これは、竜が呼んでるんだと思うの!!」

「はあ!?んな訳あるか!!どうした、メリー!!」

 ヒヒーン!!

 メリーさんは長年連れ添った騎士様を振り落とす勢いで東に向きを変えると、駆け出した。

「ほら、メリーさんな馬も、冒険を望んでるよ!」

 しっぽをフリフリ、東門へ向かって一直線だ!

「こんな事は初めてだ……!」

 

 ――しかし、そんなリア達を阻むモノが! 

『リア――!見て、地面が動いてるわ!!』

 カノが叫んだ。ちょっと前から地響きがするなぁって思ってたんだけど、その原因は……ダンゴムシ!?結構な数いるよ?

「いやあれ、虫でしょ。異様にデカいけど!」

 デカいどころじゃない。丸まれば、いい感じにキャッチボールが出来そうよ。

『あ、あれ、カエルじゃない?いいサイズに育ってる』

 イースが、収穫時期が来たわ!的な感じで言ってるけど、カエルもちょっとした小動物にアップデートしてるから!ってか、このまま食物ピラミッドを登って行くと、森の動物たちのサイズ感がヤバくない?


「あ……キた。オオカミだ」

 あれ?でも思ったより大きくない。馬並みだけど。

「ちっ。魔物だ!!溢れたか……仕方ない。このまま東門に助けを求めに行くぞ!捕まれ!」

 そう言うと、騎士様は剣を抜き、魔物の群れの中に突進して行った。


 うぉ――!!

 狼は何故かとても飢えている様子で、リア達に向かって大きな口を開け、タックルをかましてくる。騎士様は、巧みに馬を操り、馬サイズの狼に、剣を振るい立てた。かなりデキる男ね!

 でも、この状況。剣だけでは間に合わないよね!ルーカス殿下のタウンハウスにいた使用人さん達が避難する時間を稼がなきゃ!

 

「みんな、ガッツリ闇夜を照らすイカズチをお願い!ラーグ、イース。闇の道を塞ぐ、氷壁の護りを後方にね!」

『了解』

『俺が威力を上げてやる!』

 イングも必死でお手伝い。リアがコソコソと魔法を唱えれば、精霊たちもリアの周りに集まってくれた。


『中々いい調子ですよ、リア。前方にも一発、火球をくれてやれましょう!』

 アンスールもノッてきました!

「カノ、前方、闇をも打ち砕く火炎の球を!」

『オッケー!』

 リアは騎士様の邪魔にならない様に、鞍にウルさんパワーでしがみついたまま、右に左にと揺られながらもみんなと共に戦った。

 有難いことに、魔物はそれ以上増えなかった。倒しながらも進めば、すぐに正面に王都の外壁が見えて来た。

 

「団長補佐!こちらへ!」

 東門の見張り番が叫びながら松明を振ってる!

『ちょっと飛ばずぞ!』

 そう言ったライゾは風を巻き上げ……。

 リア達の馬は風に乗り、東門のバリケードを恐るべきジャンプ力で飛び越し、どうにか騎士様たちの駐屯地に入ったのだった。

 


 駐屯地……それは、外城壁に張り付く様に設えた仮の本部だ。破られた東門には近く、門の修復はすぐにバリケードで賄われた。兵は必死で溢れた魔物を食い止めており、これ以上、魔物の王都流入はないみたい。

 これでメイドさん達も、逃げられるね!リアもホッとひと安心。辺りを見渡した。


 石造りの外壁の内部は安全の様で、怪我人や多くの避難民もそこに詰めかけていた。

 何より、人々を安心させたのは、長期戦となりつつある今、今後の対策も兼ねてるのだろう、この駐屯地には沢山の騎士様たちが集まってきていた。

 

「団長補佐殿!よくぞご無事で!」

「ああ。煙幕ご苦労。おかげで助かった」

「煙幕?バザン様の魔法では?雷魔法に風魔法も素晴らしかったですね!」

「……魔法だと?」

 人の良さそうな騎士様は馬から降りるなり人に囲まれて忙しそう。

 

「バザン様、こちらへ!装備をお預かりしております。今すぐ整えご出立下さい!」

 人の良さそうな騎士様の名前はバザンと言うらしい。馬の手網を部下っぽい兵に渡すと、待ってろ、とリアに声を掛け、颯爽と石造りの城砦の中に入って行った。


 残されたリアはというと、ぼんやりした馬番によってお馬さんごと駐屯地の隅に連れて行かれ、そのまま放置されていた。

 あれ?リアの事、忘れてないよね?ま、小さいから仕方ないけど。

 

『メリー!よくやった!』

 ブルルン!

「ほんと、よく頑張ってくれたよ!みんなもありがとう!精霊が少ない中、凄い魔法をいっぱい使ったけど、大丈夫だった?」

『もちろん大丈夫――!リアも頑張ったね!』

「うぇ――い!」

 みんなでハイタッチ!

 馬上で盛り上がるリア達は完全にアウェイ。互いを労っていた。

 

『リアがいれば、精霊に困る事はなさそうですね。しかしリア……ここまで来たという事は……その……』

 アンスールがいつもの如くモジモジし始めた。リアも覚悟を決めないとね!

「もちろん、東の竜さん……ソウェルさんを助けに行くよ!もしかしたら、また誰かに騙されただけかも知れないんでしょ?本当に気付かずにごめんね。リアのせいで妖精さん達まで諦めちゃうような事があっちゃダメなのに。そうでしょ?ダエグさん!」

『……カタカタ』

 あ、今は小さな竜の骨格標本だったね。って、喋れるはずよ?あ……泣いてる。


『リア……ありがとうございます』

 アンスールも涙脆いよね。

『さあ、アンスール!今のうちに、竜の近くに移動しましょうよ!』

 エオーが背中を叩けば、皆が頷く。

「うん!そうだね。門を抜けるの難しいだろうから……ウィン様、いつものお願いします!」

 リアは再び透明になり、ライゾ操るお馬さんにしがみついたまま駐屯地を抜け出した。


 

 それから暫くの後、完全武装したラウル・バザンは駐屯地の中を見回していた。

「……娘はどうした」

「バザン様、どうされましたか?」

「茶髪の小娘を知らないか?馬に乗っていたのだが……リリアという娘だ」

 部下の1人が振り向き、嫌な笑いをうかべた。

 

「あ、団長補佐の耳にも入ったのですか?最近のルーカス殿下のお気に入りでしょう?バザン様は昨日着いたばかりでご存知ないかと思いますが、先日も行方不明だとかで、捜索させられましてね……」

「そんな事はどうでもいい!今、何処にいるかと聞いている!」

 ラウル・バザンは声を荒らげた。


 ここまで連れてくれば、誰かが面倒を見ると思っていた。

 その辺の一般人だって、匿われているのだ。小娘なら丁重に扱われるだろうと思ったのが甘かったのか?……いや、違うな。

 恐らくあの娘は、自分から声をあげなかったのだ。助けてくれと言えばいいものを!


 そうだ。あの娘は、聖女と呼ばれる女にわざと転がされた時ですら、声をあげることはしなかった。理不尽な扱いに慣れているのだろうとは思っていたが、あれも他人を思いやっての事だったではないか。もしや、今も何か考えがあって行動を起こしていたとしたら……。

 民を命懸けで守らんとする者の扱いをおざなりにしてしまうとは!なんたる失態!

 

「え?ここに来ているので?」

 部下のひとりが、声をあげた。

「誰か――!リリア・リリベルを見たか――?」

 ん!?

 今、耳にした名に、ラウル・バザンは、部下の胸ぐらを掴んだ。

 

「……リリア・リリベルだと!あの小娘が!?」

「ええ。確かそのはず……」

 ラウル・バザンは部下を投げ捨て、頭を抱えた。


「マズイ……」

 その顔は血の気を失っていた。

「それは、団長の妹だ……」

「「……え?」」


 言葉を失った騎士らの動揺は、瞬く間に駐屯地中に広がった。捜索を諦められず、皆が死に物狂いで魔物討伐を始めたのは、それからすぐの事だった。

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