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22話 精霊祭り

 華やいだ街は活気に溢れていた。

 アンリの用意した馬車に乗り、やってきたのは街の中心、露店の立ち並ぶ噴水広場だった。

 この世界は、あまり高い建物はなくて、石造りの可愛い建物が立ち並んでて、それだけでもとても綺麗なんだけど、派手な色のテントや、キッチンカー……キッチン馬車が並ぶ広場は、賑やかで楽しさ満点!

 

 馬車から降りるなり固まるリアを心配して、イーヴさんが顔を覗き込んだ。

「リリアの好みはこちらだと思ったんだけど、物足りなかったかい?」

「……素敵」

 リアは両手を組んで、ワクワクを伝えた。

 

「やっぱ、そうだよな!高級店とか、窮屈なだけだしな!」

「アンリ、必要な時に呼べばいいから、店など行く必要がないってだけだよ」

 セレブめ!

「……人が多いね。さあ、リリア。迷子になっては大変だから、僕の手を握って!」

 そうは言っても、イーヴさん。めっちゃ目立ってて、人々が遠巻きになってます。この分だと、何処に行っても道が出来る事、間違いなし!

 半ば強引に手を握られ、露店を端から見て回る事にした。

 

 アンリは片っ端から美味しそうなジャンクフード的なのを買ってきては、リアに食べさせる。

「ひと口食ってみろよ。ハマるぜ」

 全部食べれないリアを気遣っての事だろうけど、アンリ、彼女出来ないよ?

「リリア、何か欲しいものはないかい?僕がなんでも買ってあげるよ?」

 イーヴさんは孫を連れたおじいちゃんみたいになってる。

 

「あ!リア、あれ見たい!」

 リア、いい物を見つけました!色とりどりの花を並べているお店の隅に種がいっぱい並んでるの!これ、精霊界に植えたらどうかな?

 

「リリアは花が好きなんだね。……ん?種?……育てるところからかい?」

「リアは庭師だからね!」

 皮肉ったつもりはなかったけど、イーヴさんはちょっと眉をひそめた。

「リリア……好きならばそれでいいのだけど、君が庭仕事をする必要は……」

「綺麗に咲いたらイーヴさんにあげるね!」

「長期戦をご所望のようだね。燃えるよ」


 お支払いは遠慮したのに、イーヴさんに色々な種類の種を買って貰って、リアはホクホク。さらにイーヴさんは、リアの軽く結わえただけの茶色い髪に、とびきり綺麗な花をさしてくれた。

「綺麗だ……ん?リリア、髪の色が薄くなってないかい?」

 リア、肩にかかる髪を確認。確かに、色がおかしい。見ている間にも、茶色がどんどん抜けていくの!


『これは光魔法よ。イーヴは竜との戦いを収めた貴族の血族。使う魔法は、私たち妖精の使う精霊魔法ではなく、神より褒美として与えられた、純然たる古代魔法。妖精でも解けない代物よ』

 さすが近衛隊担当のウィン様。推しアピールが見事です!って、なんでリアの髪にそんな凄い魔法が?

 

「リリア、失礼するよ」

 イーヴさんはそっとリアの頭に自分の上着を被せた。重い!!こんなの着てたの?

「解けるのが早すぎやしないか?まいったな……せっかくのデートが……」

 そう言いながらイーヴさんはリアを路地裏に引き込んだ。


 クネクネとした暗く狭い道を進むと、人の姿は見えなくなる。イーヴさんは周囲を確認すると、寂れた薬屋の扉を静かに開け、リアを押し込んだ。

「アンリ。少しの間、人払いを!」

 人払い……何処に人がいるのでしょうか?だってこの店、どう見ても怪しい魔女とかが経営するタイプの店よ。


 天井を埋め尽くす乾燥ハーブ。壁一面に並ぶ瓶には、液体だけじゃなくて、気味の悪い虫とか動物の1部とかが詰め込まれている。でも、何故か真ん中のテーブルには、高級菓子。ギャップが半端ありません。

「あれ、イーヴさんのお菓子よね……」

 見覚えのある完成度の高さ。

「ああ。ちょっと置かせて貰っているんだけど、あまり売れなくてね」

 出店する場所、間違えてると思います。


「イーヴは凝り過ぎだ。綺麗に作り過ぎると、かえってお客が引くと思うんだが……。よ!イーヴ、久しぶりだな!そのお嬢さんは?」

 店主なのか、正面のカウンターに、やたらとガタイのいいおじさんが顔を出した。こちらを見て、だらしなく手を挙げる。

 イーヴさんは挨拶を片手で済ませ、隠す様にリアを抱き込んだまま、2階へと連れて行った。並んだ部屋のひとつに入ると、リアの前に立ち塞がり、ちょっとだけ睨む。

 

「リリア。僕の作ったお菓子をちゃんと食べなかったね?」

 イーヴさんのお菓子って……リリア宛のやつね!

「あれね、とても綺麗だったから、みんなで分けて食べたんだよ!」

 精霊さん達とライゾとね!

「あんな小さなお菓子を分けたのかい?予想外だったな……」

 イーヴさんは困ったように微笑んだ。

「実はね、リリア。あれには僕の魔法を込めた薬を使ってあったんだ。髪と瞳の色を変える魔法薬をね」

 イーヴさんは、リアの長い髪をサラりとすくった。

「ゴメンよ。君の髪はこんなにも美しいのに……。でも、こうしなきゃいけない理由があって……」

 

 イーヴさんの手の中には、銀色に光る糸の様な髪が握られていた。うお!?これがリアの髪!?

「僕だけが知る、君の本当の姿だ。銀糸の髪にとても希少な紫の瞳……美しい」

 イイ声だ。

「魔法をかけ直すのが本当に惜しいよ……って、リリア?ここは頬を染めるところだよ?」

 あ、推し声オーディオ聞いてる気分でした。

 

「僕もまだまだ努力が足りないようだね。……まあ、ともかく、君に再び魔法をかけたいのだけど、僕は人に直接魔法をかけるのが苦手でね」

 イーヴさんはリアを古びたソファーに座らせた。鎧戸の閉められた薄暗い部屋の中、ランプに火を入れれば、部屋の中が明らかになる。

 

 お菓子工房と同じ、書物で埋まった部屋だ。オーブンはないけど、フラスコや巧妙なガラス機器の置かれたテーブルの上は、何かを記した紙の束で溢れていた。

「ここも研究所なの?」

「研究所と言うより、研究した物を実用化する場所だね。試薬を作る場所って感じかな?ここなら、素性を隠して作った薬でも、それを同意の上で試してくれる人が沢山いるからね。勿論、命に関わる事はしないし、謝礼も弾むよ。これも、安全な薬を作る為なんだ」

 そう言いながらも、イーヴさんは薬?の調合を進めた。


 イーヴさんは、魔法の天才だって言われていた。なのに、どうしてわざわざ薬を作るんだろう。

「薬を作るのは、魔法が使えない人の為?」

「ん――確かにそれもあるのだけどね。実は僕、小さい頃に、意地悪ばかりするメイドをカエルに変えた事があってね。……まあ、1週間程で人間に戻ったけど、その間僕は、人間に戻せるのか……いつ戻るのかって、毎日、ずっと怖くてたまらなかったんだよ」

 1週間、カエル……。どんまい。

 

「魔法を人に試すのは、どんな影響が出るか分からないし、失敗も怖い。僕は顔が割れているから、尚更ね。でも薬となれば、研究を重ねれば安全なラインが見えてくるんだ。だから僕は、魔法を薬にしようと考えたんだよ」

 イーヴさんは傍若無人に魔法をふるう人じゃないんだ……。リアはイーヴさんの事が、もっと好きになるのを感じていた。

 

「イーヴさんはとても努力家なんだね。ちょっと凝り性過ぎるくらいにね!」

「分かってくれるのかい?嬉しいね。……ふふっ、出来たよ。これは僕の魔法を溶かした精霊水。飲みやすい味にしたから、飲んでくれるかい?」

 イーヴさんはリアに、怪しい小瓶を差し出した。

 

 どうしてイーヴさんがリアの髪を茶色くしたいのかは分からない。

 でもリアは、イーヴさんのする事なら、どんな事でも、応援してあげたいと思った。

 リアは茶色の小ビンを受け取り、コクリと一気に飲み干した。ん!

「甘くて美味しい!!」

「疑う事なく僕の魔法を飲んでくれるなんて……ああ。たまらないね……」


 その時、扉が叩かれ、アンリの声がした。

「イーヴ様!!お楽しみの所、申し訳ありません!ご報告が!」

 言いかた!!

「どうした!今、いいところなんだが?」

 早く開けてあげて!誤解を生むから!

「東の悪しき竜の封印が解かれたとの報告が!」

「封印が解かれただと!?」

 ええ!?また、竜が出てきたの!?


『まさか……またハガルでしょうか』

『今度は左手でも差し出したんじゃないか?』

 なに怖い事言ってんの!?ライゾ!!

 

 イーヴさんは足早に近づき、扉を開けた。

「東門を直ちに閉じ、民の避難誘導を最優先に!……陛下には?」

 アンリが敬礼をした。

「即刻ご報告申し上げた所、お倒れになられたと!」

 大丈夫!?


「そうか。ジェイド様は何と?」

 ……ジェイド?

「このままですと、陛下より賜った権威も危ういと。ヴィクトル王太子殿下に、何もかもを持っていかれてしまうと申しておりました。ですから、リリアを至急お連れする様にとの事です」

 

 ……ん?

 今、リリアって聞こえた気がする。聞き間違いよね?

 

「やはりバレていたか……仕方ない。王宮なら安全だろうし、ジェイド様のお言葉に応えよう。アンリ、早急に移送を頼む。なるべく隠密かつ安全に王宮まで届けてくれ」

「今すぐ手配いたします!」

 踵を返すアンリ。ここでイーヴさんはそっと扉を閉め、リアの耳に顔を近づけた。

 

「リリア。もしかして、だけど、今ここで透明化の魔法が使えたりはしないよね?」

「多分……できる」

 今、ウィン様が頷いたから。

 

「じゃあ頼む、リリア。この国の存亡がかかっているんだ。今すぐ王宮に向かってくれないか?」

 やっぱりさっき聞こえたのは、リアの名前だったんだね……。って。

「どうして?」

「事情は後ほどね」

 ウィンクされたけど、表情は固い。切迫してる状態だって事だ。

 リアは空気を読んで頷いた。すると、ウィン様がすぐに透明にしてくれる。

「呪文もいらないんだね。流石だ」

 リア、チートみたいな事になってないかな?

 

「ねえ、イーヴさんは一緒に行かないの?」

「いや、僕は……」

 その先は聞かなくても分かる。また、竜の討伐に行くのだ。ちょっと前には死にかけたというのに……。

 

「リリア、心配はいらないよ。まだ僕は、全然君を甘やかせてないしね」

 もう十分、甘々だ。リアのこと、今も、ずっと気遣ってくれてるじゃん?自身の体調だって、万全じゃないのに……。

 そうだ!


「プリン、食べる?」

 ここにきてプリン。ラノベ要素も使い所を間違えると事故るという事ね。

「頂くよ。……誰か!スプーンを!!」

 流し込めないしね。ああ!緊迫したシーンが……!

 

『皆、私の提案を聞いてくれ!』

 すると、いつも冷静なオセルが、どこか心を決めた様に声を上げた。

『ここは二手に別れてはどうだろう。僭越ながら、私に別働隊を率いらせてはくれないか?』

 その呼び掛けに、他の妖精さん達も飛び出してきた。

 

『イーヴについて行くという訳ですね。しかし、イーヴは妖精を見る事ができませんし、リアの元に再び戻って来るとは限りませんよ。些か危険ではありませんか?』

 フラスコの上、アンスールは手に顎を乗せ、消極的に唸る。

 

『大丈夫よ!また凍らしちゃえばいいだけじゃない!』

 水の妖精ラーグが手を挙げ、氷の妖精イースが頷いた。

『でも、あんな大魔法、リアがいないと、精霊が足りなくない?小さくするのは、まず無理よ』

 変化の白い妖精エオーが首を振った。

『しかも、東に封印されているのはソウェル。雷の竜ですよ。近くに人がいたとすれば……相性が悪くはないですか?』

 アンスールの意見に、皆が頷いた。確かに水撒いたら、その辺の人たち、感電するね。


『悩んでも仕方ないよね。人は自分らに害をなすかもしれない存在を放ってはくれない。恐らく死に物狂いでソウェルを倒しにかかるだろうし』

 ん?この妖精さんは初めて喋る子ね。影のように隠れてるし、実際、暗い青い髪で顔を隠してるの。

『この戦い、死闘になるだろうよ。でもさ、この娘の事だ。被害を最小限にいたいんだろし?……なら、僕が行くよ』

 リアの事を気にしてくれるのね。良い子!!

 

 ふむ、とティール爺様が唸る。

『ユルがゆくか。ならば、ワシも行こう。生命を削った方が魔法が効きやすいじゃろうて。ニイドも来るがいい。拘束すれば更に易くなる』

『僕がこの娘の役に立つの?なら行くよ!』

 喜びに声をあげるこの妖精さんも、まだ絡んだ事のない妖精さんだ。黒い長い髪をした線の細い男の人で、いつもみんなの後ろに隠れていた子……と言うには大人な男の人だ。ほら、今もリアと目が合った途端に、恥ずかしそうにティール爺様の後ろに隠れた。

 

『では、我ら4人。イーヴ・プロスペールに力を貸す事をお許し願えませんか?』

 オセルの決心に、皆が顔を合わせ、アンスールを見た。アンスールはため息をついた。

『イーヴがリアを裏切らない事は、神によって証明されている事ですし……分かりました。ソウェルの事、お願いしてもよろしいですか?』

『ふっ。任せてくれ』

『必ず無事に帰って来てくださいね』


 アンスールとオセルさんが心を通わせたところで、アンリとスプーンが到着し、イーヴさんはゆっくり味わえない事を悔やみながらプリンをかき込んだ。そして、リアに笑顔で手を振ると、颯爽と出立して行ってしまった。背中に4人の妖精を乗せてね。


 イーヴさんを見送ったアンリは、誰も座っていないソファーに向かって手を差し出した。

「リリア、くれぐれも声をあげない事。バレちゃ困るからな。でも、見えないのは不安だから、僕の手は離さないでくれよな」

「分かった!」

 後ろにいたリアが手を握ると、アンリは予想外だったのかビクリとしながらも、慎重にリアを促し、古宿の外に出た。

「ごめん。腰はどこ?」

 どうにか抱え上げられ、馬に乗って王宮を目指す。

 

 初めての乗馬に震えながらも見た街の様子は、先程までとうってかわって、殺伐としていた。

 中途半端に止められた馬車。放置されたテント。安全な場所を求め、避難をする人々の顔は皆、恐怖に怯えていた。

 しかし、その人々を確実に堅固な王城へと誘導するのは近衛騎士団だ。でも……その騎士様の足も、東へと向かっているの。きっと、竜討伐部隊である王国騎士団の応援に行くのだろう。

 

「リリア、しっかりつかまって!ちょっと急ぐよ!」

 リアは避難する人々を追い抜かし、王宮に向かいながらも、不安に駆られていた。聖女ならともかく、この状況で、リアが王宮に呼ばれるなんて事、ある?平民であるリアが、何かの役に立つなんて思えないのだ。


「本当にリアなのかな?間違えてないかなぁ……」

 不安げなリアを、ライゾは笑い飛ばす。

『は!リア、もっとお前は自信を持つべきだな。なんてったって、俺様が認めた人間なんだからな』

 リアに出来る事は何だろう……。まだ、分からないけど、応えたい!!

 ライゾの言葉が、リアを強くしてくれた気がした。

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