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20話 仲直り

 精霊界に飛んだリアの前には、素晴らしい風景が広がっていた。

 

「おお!木が生えてる!屋敷も大きくなってる!」

 草原しかなかった殺風景な精霊界には、林と言える木立が出現していた。まだ規模は小さいけどね。その横には綺麗な湖まで出来てる!

 ヤドリギの家はと見れば、増築されたようで、ヤドリギのお屋敷へと変貌を遂げていた。


「リア、足が痛いんだろ?大人しくしてろよ」

 そう。精霊界では、妖精は人サイズに戻るのだ。

 リアは不本意ながらも、ちょっとイケてるライゾに抱えられて、屋敷に近づいて行った。

「リア、いらっしゃぁ――い!」

 フェオに扉を開けて貰って、屋敷の中に入ると。


「リア!よく頑張りましたね!もう少しの辛抱ですよ!」

 広いエントランス。濃紺の髪をたなびかせ、駆け寄って来るのはアンスールだ。切れ長の目には髪と同じ色の美しい瞳。柔らかい布を纏ってるスラリとした体躯といい、超絶イケメンの御出迎えです!!

 

「ライゾ、こちらに部屋を用意している。連れて行け」

 その後ろには、白銀の長い髪をひとつに束ねた、冷たい感じのイケメンさん。おとぎ話の中のエルフの様に美しい……オセルさんだよね?

 リアは家具はまだ揃ってないのか、ベットだけ置かれた広い部屋に通された。

 

「さあ、リアを乗せて」

 ベットの横に腰掛けるのは、ちょっとぽっちゃりした安心感のあるおばちゃん。リアを見ると、ほっとしたように微笑んでくれた。

 

「ベルカナさん!!大丈夫なの!?」

「精霊界は神の領域なの。失われたものは戻らないけれど、回復は向こうより早いのよ。だから、安心して足を出しなさい。今の状態の私でも、足の怪我くらいなら治してあげられるわ」

 硬いベットの様な診察台に下ろしてもらい、足を差し出せば、ベルカナさんがヒールしてくれる。見る間にリアの足は元通りに!!何より……。

「暖かい……」

 

「気付かずにすいません」

 アンスールが申し訳なさそうに項垂れ、笑顔の素敵な、肌から髪まで真っ白な女の子に背中を叩かれていた。この子はエオーね!可愛い!!

 

「リア、次からはちゃんと言うのよ!」

 燃えるような赤い髪のお姉さんに叱られた。凛としててかっこいい!カノだね。

「ごめんなさい……」

「リアは謝らなくていい。イースが人の弱さに気付いてあげるべきだった」

 物憂げに項垂れる、氷の様な繊細美人、この子はイース!

 

「俺たちは人とは違うから、気付いてやれない。てめぇで気付け!」

 その隣で、リアに指を突きつける金髪の男の子は……!

「イング!超絶キュート!!」

「うるせぇ!!」


 部屋の中にどんどん入ってくる妖精さん達に、リアはワクワクが止まらない。

 仙人みたいなおじいちゃんはティール様。緑の短髪の大きな男の人はウル。垂れた目に癖のある髪、優男風イケメンさんはギューフ。美しい貴婦人ウィン様に、ニコニコ笑顔のラーグ。お花を抱えたジェラと、まだ話したことのない大人しげな子もいるよ!そして、その後ろには白い……。

 え!?骸骨が立ってるんですけど!?


「ああ、リア。彼がダエグですよ」

 リアの視線を追い、アンスールが教えてくれた。

 そうか、精霊界では人化される為、骸骨竜ダエグさんはスケルトンに……!?

「彼はハガルに嵌められ、魔素の塊を飲まされたそうです。よって……今の所、処分は保留に致しました」

 アンスールはダエグさんが悪い人?じゃないって信じてるみたいだけど、オセルはまだ警戒してる様で、ジロリとダエグさんを見てた。

 

「リアに礼が言いたいと言うから連れて来たんじゃぞ。この姿だ、悪い事もできまい」

 ティールさんが背骨を叩けば、カラカラと音がする。ダエグさんは頭蓋骨を撫でながら、ペコペコと頭を下げた。

「浄化して下さり、感謝しているぞ、リア」

 上からなのか下からなのか、その愁傷な様子に、リアは笑いが込み上げてきた。

 

「ふふっ。もう悪い事はしない?」

 ダエグさんもニッと顎骨を動かす。

「おう、約束する。確かに俺は、自分らを不当に成敗しようとする人間らの体制に、変革を起こしたいと考えていた。だがそれは、人間を滅したいって意味じゃねえ!」

 ここでダエグさんは、どんよりとめっちゃ暗い顔をした。

 

「……実は、魔素に支配され人間どもを蹂躙している間も、奥底には自我があったんだ。だが、自分ではどうにも出来ずに、沢山の人間をこの手で……悪夢だった……」

 ダエグさんの体は制御不能だったんだね。

「俺の体が皆の手によって葬られた後も、心は暗闇に飲まれたまま、俺は自責の念に駆られ続けていた。200年は過ぎたのか?どれくらいそうしていたか……もう、心なんて、死んじまったと思っていた……誠に情けない次第である」

 反省するにも、恐ろし過ぎる時間に、リアは苦しくなった。


「だがな、リア。お前様のお陰で、それも祓われたのだ!よって、今、やる事はただひと――つ!俺を友と言いながらも、陥れたアイツを成敗する事だ!」

 骨骨ガッツポーズ!

 リア、こんなに頼りないガッツポーズを見たのは初めてよ!

 でも……何処かで聞いた話ね。

「ダエグも騙されてたんだね……」

 リア、何故か親近感が半端ありません。


 と、その時、リア達の目の前を精霊さん達が列を生して流れて行った。行先は勿論、アンスールだ。

「……ああ。その事は後ほど考えましょう。リア、ずっとここに居て貰いたいのですが、貴方の所在をめぐり、何やら向こう側が騒がしくなっております。今はクッキーに戻る事をおすすめしますよ」

 さすがアンスール。情報を持った精霊さんが整列して指示待ちだ。

 

「リアを誰かが探してるって事?」

「そうです。それに……」

 アンスールはフェオを見た。フェオは眉を下げる。

「リア、ここにはまだ、タオルも布団もないのよォ――。このままじゃ、リアが風邪をひいちゃうわ!」

「この世界に必要な物が揃うまで、悪いがもう少しかかる」

 オセルさんが執事の様に腰を折ると、ライゾを見た。

「だからライゾ、綿花の種を早急に頼む」

「なんで俺が!!」

 綿を育てる所からなの!?

 

「あ!これはいけませんね。クッキーに人が向かっています。ライゾ、リアを!」

 アンスールが慌ててライゾを促し始めるから、リアも慌ててみんなに手を振り、お礼を言った。

「みんな、今日もありがとう!おやすみ――!」

 なんだかふわふわ幸せ気分よ。

「行くぞ!」


 

 目をパチパチすれば、もうそこは真っ暗なクッキーのベットの上。

 冷たい夜気に体が震え、リアは慌ててスカーフ?に潜り込んだ。

 直ぐに誰かの足音が聞こえ、乱暴に扉が開けられた。

 

「あとはここしか……確認したのか?」

「ちゃんと見ましたよ。だけど……」

 入ってきたのは、イーヴさんとアンリ。膨らんだ布が目に入ったのか、会話は途絶えた。

 

「……いるね?」

「いたよ……良かったぁ――」

 アンリが座り込み、イーヴさんが駆け寄って来た。

「リア、寝てるのかい?……失礼」

 その手を、リアの体のあちこちに当てると、見つけたとばかりに額に手を当てた。アンリも駆け寄る。

 

「そうか、見えなかったのか。また、幻影魔法ですか?」

「いや。ここまで衰弱していても消えないとなると……恐らくはお菓子だろうね。アンリ、隠密騎士をとらえろ!」

 ええ!?何で?

「待て!……燃えるように熱い。その前にウチの主治医を呼んでくれ。至急だ!」

「ハッ!」

 ……熱い?

 こんなに寒いのに?


「リア。もう安心するといい。……可哀想に……僕が至らないせいで」

 イーヴさんに頭を撫でられれば、何故だかリアの意識は夢の中へと突入しそうよ。リアはブルリと震えると、安心して暗闇へと落ちていった。


 


 ――その夜半の事だろうか?リアは熱さに震えながらも、静かな話し声に目覚め、耳を傾けた。

 

「彼女と出会ったのは3年前。リアは父上が俺の話し相手として連れて来た、美しい髪をした12歳の少女だった。そして、それから三ヶ月間、俺とリアは同じ屋敷で過ごしていた」

 ルーカス殿下の声は低く、心地よく響く。

「話し相手に年下の女の子とは……陛下も変わった人選をしたね」

 イーヴさんの声は艶があって、ちょっとドキドキするの。

 

「ああ。最初はただ、うるさいヤツだと思っていたよ。毎日一緒に過ごしていたが、リアは話す事が好きだったからな。……だが、剣を振るう事しか考えてなかった俺に、異世界のチートという特技を持った冒険者の話や、後継者争いを巡る複雑な家族関係や攻略結婚の話。ドロドロとした貴族の上下関係に喝を入れる悪役令嬢とやらの、爽快な話をしてくれたんだ」

 それ、本当にこの世界の子?話題がラノベ要素多すぎなんだけど。

 

「お陰で俺は、剣だけでは国が守れない事を知った。知識の重要性や仲間の大切さ、策略の面白さなんかも、全てリアが教えてくれたんだ。本当に楽しい日々だったよ」

 まさかその子、私じゃないよね?だって、その頃のリアはリリアだったはずだし。

 3年前なら、オレーリアかも。オレーリアも王都にいたって言ってたし、王都ではラノベ風な話が、リアルな話題だったのかも知れない。

 

「お前がよく大人しく人の話を聞いたね」

「その頃の俺は体の調子が良くなくてな。一日の殆どをベットの上で過ごしていたから」

「……ん?お前にそんな時期が?聞いた事がないな……原因は?」

「それが分からなくて……。だけど、リアと呼ばれるその女の子が側に来てくれる様になってから、俺の体調は劇的に良くなったんだ」

「なるほど。そこで彼女に惚れたんだね」

「ああ。俺はリアが何処の誰かなんて関係なかった。ただ、側にいてくれるなら、他はどうでもいいと思っていたんだ」

 わお!ルーカス殿下の恋バナよ!

 

「でも、忘れもしないあの日、体調の良くなった俺は、無理矢理リアを冒険に連れ出してしまったんだ。場所は屋敷のすぐ近くだったが、怪しい者らが出入りする場所でな、俺はリアにかっこいい姿を見せたくて、護衛も付けずそこに侵入したんだ。でも……大切なリアが、俺を庇って、何者かに捕まってしまって。……誰よりも大切なリアがだ!」

『2度言ったな』

『ふふっ。素敵な女性を振り向かせるには努力が必要だという事ね。まだまだ足りないけど。……リア、待たせたわね。私が来たからには、そんな風邪など吹き飛ばしてあげるわ』

 ヤッター!ベルカナさんが元気になって来てくれた!

 

「俺は急いで屋敷に戻って、捜索を依頼したよ。でも、その日のうちに父上が俺の所に来てさ。俺は謹慎処分。全てを忘れろって言うんだ。それからというもの、リアの行方は分からなくなってしまった。誰に聞いても、リアの事は知らないって言うし、父上にいくら聞いても答えてくれない。自分で探そうにも、俺はリアという名前しか知らなくて……」

「探し出すのに3年か……なかなか、かかったね。どうやって調べたんだい?」

「リアの教養からして、貴族である事は間違いなかった。だから、貴族令嬢に片っ端から会いに行った」

「……なるほど。単なる女好きの馬鹿だと思っていた事を許してくれ」

「イーヴ……今、サラッと失礼な事を言ったな。だが、噂など、どうでもいい。リアさえ見つけられればね」

 どれだけ大切に想っていたのか……。リアが初めてのお買い物に行ったあの日、ルーカス殿下がリアという名前に激怒した理由が分かったよ。

 

「しかし……。陛下が直接彼女を隠すくらいだ。事件に関わった者は近くにいそうだね。ルーカス、君は何か掴んでいるのか?」

「いや、それは今からだ。あの田舎の屋敷での彼女を見たら……放ってはおけず連れて来たが、正直、今は後悔している。だが、ようやく見つけたリアをもう二度と失いたくない。頼む、イーヴ。手を貸してくれ」


 ふぅ。とイーヴさんは息を吐いた。

「もうこれは君だけの問題じゃないよ。僕にとっても彼女は特別だからね。しかし、事件に関わった者がリアの事を知れば、何らかのアクションを起こす可能性があるだろうね。……3年も前のよく分からない事件か……。解決するまでは、可哀想だが安全の為、今の状態を維持しよう。ルーカス、君は囮だ。オレーリア嬢を頼む」

「ああ、分かった。お前は?」

「今の話を聞いて、調べたい事が山積みさ。だから、君たちの事は陰ながら応援させて貰うよ。今まで通り、護衛をしながらね」


「頼んだぞ、イーヴ。第2王子である俺には、信用出来る者などいないんだ……お前以外はな」

「フッ。仕方ないね。そこまで言うんだったら、彼女の事は全て僕に任せてくれればいいよ」

「そうか、頼んだ……ん?待て、全てとはどこまでだ?」

 

 2人は騎士だ。とても忙しいだろうに、オレーリアは幸せ者だね!

 でも、危険があるんだよね……。


 2人が仲直りしてくれて本当に良かった。2人が手を組めば、必ず事件は解決するに違いない。

 リアも、2人の力になれたらいいのに……と思いながら、リアは静かに目を閉じた。

 

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