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15話 北の悪しき竜の骸を封印する儀式

 そしてやって来たのは、北部森林の入口となる北門。そこには沢山の人達が集まっていました!

 

 今日のリアは黒ローブ。見えないと分かっていても、何となく黒いローブの集団の後ろ並んでしまうんだよね。って、これ、フェル王立学園の高等部の生徒じゃない?1度の講義でしか会った事ないけど、見覚えのある生徒がいるし、カレンやオレーリアの姿も見える。ジェイド様だけは見当たらないけれど。

 

「今日、ここでの君たちは見学者かもしれない。しかし同時に講義でもある事を忘れるな。つまりは、要人警護や警戒態勢について学ぶいい機会だという事だ。但し、実技を伴う可能性があるという事を肝に銘じ、各自、気を引き締めて行動する事!何より、魔法は悪しき者の欲望を呼び覚ます。絶対に使用しないように、以上!」

 引率の講師陣が、生徒数十名を前に、説明してます。

 

 なるほど今日は実施講義ね!って。

 ……あれ?今日の講義は休みだって言ってたよね?リア、またしても置いてけぼりです。……ま、リアは学年不詳だしね。今は空気の方が都合がいい。

 

『リア、流石です!精霊を多く従える集団に上手く紛れましたね。これなら、もし姿が見えたとしても、カレンは愚か、ハガルですら見つける事は不可能でしょう』

 アンスールがリアの杖を入れてた胸ポケットから顔を出していました。

 え、そうなの?空気最高!

 リアは堂々と黒ローブの間から前を覗き見た。

 

 最初にこの儀式の主賓である、見るからに聖職者って感じの人達が北の門を潜り、列を生して薄暗い北の森へと入っていった。

 続いて、王族関係者なのか、フェル王国の旗を掲げた煌びやかな一群が森に入る。ルーカス殿下もいつもとは違う服装(ゴッテゴテにデコられた服)で、オレーリアでもカレンでもない、ドレス姿の清楚な貴婦人をエスコートしながら、共に北門をくぐっていった。こうやって見ると、ルーカス殿下は理想的な王子様なんだよね。

 

「ルーカス殿下の正装……素敵ですわ」

「今日の会が開催できたのは、ルーカス殿下率いる騎士団のお陰らしいぞ。なんでも、2週間、ぶっ通しで討伐に勤しんで下さったとか」

「ルーカス殿下は先日、長年放置されていた講師陣の不祥事にも喝を入れてくださったのですわ。忙しい御身ですのに、学園にまで気を配って下さるなんて、美しいだけではなく、お人柄も素晴らしいのね」

 そうなの?ルーカス殿下ってすんごいマメな人なのね!

 

 続いて、貴族っぽい人達が前に進む。中にはオデール伯爵と学園長様の姿も見えるから、ここまでは参列者の様だ。列を組み、厳かに北の森へと入って行った。

 そして最後に黒いローブのフェル王立学園の高等部の生徒たちが続いて森に入った。


 天気が悪い事もあり、鬱蒼とした森の中は薄暗く気味が悪い。でも大丈夫、そこいらに騎士様がいて、警護してくれてるから。

 なるほどこの場には、この貴人たちを護る為の警備に、その何倍もの騎士様が集められている様子。

 

 リア、最近分かってきました。騎士服にも違いがあるって事を。

 今ここに集まっているのは、白っぽい騎士服。これは近衛騎士団ですよね?だって、イーヴさんが着ているから。……ずっと、お菓子の配達員さんだと思ってましたけどね!!

 

 イーヴさんは近衛騎士団長だって言ってたし、今もめっちゃ鋭い顔で、指示与えまくってる。

 人形の様に美しいイーヴさんの、その凛々しいお姿に、女子生徒から黄色い声が上がっていた。

「イーヴ・プロスペール様!なんとお美しい!」

「目に焼き付けておかないと!学園では滅多にお目にかかれないんですもの」

「俺、あの御方になら、殴られてもいいな」

 新しい嗜好に目覚める人までいます。


 講師陣は気を引き締めてと言ってたけど、イベントとはワクワクするもの。憧れの先輩方のコス……お仕事見学にアガらない訳は無い。

 でも羨ましいなんて思ってはだめよ。リアは短期編入生。王家主催の舞踏会までに、妖精さん達を幸せにする事が優先です。

「きゃぁぁぁ――!」

「イーヴ様が私をこちらを見て微笑んでいらっしゃるわ!」

 うへ!?イーヴさんと目が合った気がするんですけど!?……リアは透明だし、気のせいよね!って、横でアンリがクッキーを配ってるんですけど?

 

「おい、そこの!これを至急、皆に回せ」

 それ、今日作ったクッキーよ。いつの間に持って来たの?

「了解致しました」

 受け取った騎士さんもクソ真面目に敬礼してるけど、それ、素人が作ったお花のお菓子ですから。

 

 ぞろぞろと行列は森へと入り、いつかの川のほとりに到着。更に小川に沿って少し歩くと、右手に大きな洞窟が ポッカリと口を開けていた。

「おお。あれが王国騎士団も苦戦した、北のダンジョンか。聖女カレンとオレーリア・オデール嬢のお陰で、鎮静化に成功したという……」

「今日の儀式が無事行えるのは、彼女らのお陰らしいぞ」

 多くの騎士様の警戒するその横を、皆、噂話を交えながら、いそいそと通ります。

 すると、そのダンジョンの横、木立の向こうに屋根のない柱だけの神殿の様な建造物が見えて来た。どうやらここに悪しき竜が封印されているようだ。

 

 少し朽ちた神殿は、大きめのガゼボの様。中は磨かれた綺麗な石畳で、中心には小さな整えられた池がある。小川の水が引かれているのか、常に清流が注がれ、池から流れ出た水は、石畳を洗う浅い流れとなって、四方へと流れ出していた。水の流れる音が心地よく、空気も澄んでいて、とても癒される空間だ。

 

「これより、北の悪しき竜、封印の儀式を執り行う。聖なる泉に神の力を!」

 皆の到着を確認すると、聖職者らしき人達が清流を避けながら神殿の中に入り、その池……聖なる泉とやらの中に青い睡蓮の様なお花を大量に浮かべ始めた。その透明感のあるお花の綺麗な事!参列者はそれを厳かに見つめた。

『アクアステラだな。久しぶりに見た』

 リアの髪の中でライゾがちょっと哀愁を漂わせている。儀式っていうだけで、何かエモい気分になるんだよね。

 

 続いて浄化の儀式とやらに移り、聖職者達が代わる代わる水瓶を持ち、聖なる泉から水を汲むと、辺りに撒き散らし始めた。聖水みたいな感じ?

 続いて、ルーカス殿下はじめ、参列者が水瓶を受け取っては水を撒く。これで浄化されるのね!

 

「500年前、かつての悪しき竜を沈めたのは、この国の貴族だったと言われておる。だから、その末裔には、悪しき竜を鎮める力があると言われておるんだ」

 引率の魔導師様が、親切にもドヤり顔で教えてくれる。周りは今更って顔してるから、常識なのだろうけど。

 

「では、フェル王立学園より、代表者2人にも参加して頂こう。カレン・デルオニール!オレーリア・オデール!前に!」

 聖職者に呼ばれ、カレンとオレーリアが誇らしげに神殿に上がり、水瓶を受け取った。

 

 そうよね、浄化と言えばこの2人。今日、学園の生徒が呼ばれたのは、この為だったんだ。

 リア、納得しながらも、ちょっと派手なローブ姿のカレンをガン見……偵察します。

 ……チッ!髪を下ろしてやがる!……失礼。でも、今のところ、カレンの肩には妖精さんの姿は見えません。

 

『リアの凄さが分からぬとは、人間共は馬鹿だな』

 舌打ちが聞こえたのか、ライゾに慰められました!……ん?リアの凄さとは何だろう?何処でも寝れるとかかな?今度凹んだ時に教えて貰おう。

 と、カレンのローブのフードの中から真っ黒い妖精、ハガルが這い出して来た!

 

『ダエグ!この俺が助けに来てやったんだ。そんな暗い所で眠ってないで、出てくるがいい!』

 何か叫んでます!!

 

『これは危ないかもしれませんね……』

 胸ポケットからアンスールの警告だ!

『竜は精神体なのです。この場所に、骸だけでなく思念が残っているとしたら、ハガルの言葉に応えるかも知れません。……リア、逃げる準備を!ギューフ、ギフトを!』

 アンスールが頭を引っ込め、続いて出てくるラベンダー色の髪をした優男風、ギューフさんの……顔だけ。

『勿論私は何時でも君の味方だよ。私からの愛のギフトを』

 投げキッスの様に飛ばした精霊さんがハートに見えるのは気の所為?覗き込むリアの眉間にクリーンヒット!

 ギューフさんはいつも、ニコニコと遠くから眺めているだけなのに、こういう時だけキャラ全開で好き!

 

 でも、こうしてはいられません。かなり深刻そうな様子に、リアはそっとその場から離れた。しかしここで自分だけ逃げる訳にはいきません。急いでイーヴさんを探します!

 リアの足音に気付き、キョロキョロする騎士様の前を駆け抜け、神殿に釘付けの観客の後ろを回ると、参列者の1番後ろにイーヴさんがいた。リアはこっそり、その肩を叩いた。


 イーヴさんはビクリとするも、厳しい顔をして木立に入った。そして、見えてないはずなのに、リアの方を真っ直ぐ見た。

「どうしたんだい?」

 隠密活動中のリアは、戸惑いながらも、声音を変えるために鼻をつまんで申告します!

「あのぉ……黒い霧が出て来そうだからぁ、皆を避難させた方がいいと思うのぉ」

 咄嗟に謎のギャル口調。

 すると、イーヴさんはすぐに行動に移した。

 

「各部署に厳戒態勢!」

「承知!」

「!!」

 後ろから声がして振り向けば、いつの間に控えていたのか隠密騎士様が走り去る所だった!こんな所に隠れていたのね!お久しぶりです!

 お仕事中の彼に、リアが心の中で手を振る中、イーヴさんが叫んだ。


「撤収――!皆、城門まで走れ!」

 イーヴさんの声が響き渡り、すぐ様、学生達が動き始めた!見れば、学園長様が生徒達を追い立てている!

「素早く撤収しろ!今こそ、日頃の訓練の成果を見せよ!!」

 日頃から避難訓練……今がその時です!!

 

 ルーカス殿下に誘導され、王族関係者や貴族達も慌てて避難を始めた。オレーリアもオデール伯爵様に肩を抱かれながら避難して行きます。

 その行動の素早い事!素晴らしい!!

 

 そんな中、聖職者だけが、神殿の中に留まっていて、避難を呼びかけるイーヴさんに食ってかかっていた。

「なんの真似じゃ、プロスペール!まだ儀式は終わっとらんぞ!」

「儀式を中断するとは、前代未聞!封印に悪影響を及ぼしでもしたらどうする!!」

「何も起きてはおらんじゃないか、プロスペール卿!どう責任をとるおつもりか!」

 ……そうなるよね。まだ何も起きてないから。

 

 でもその時、リアはカレンの姿を見つけました!

 がなり立てる聖職者の向こう側、皆の視線を気にしながら、カレンはそっと泉の中に何かを落とし入れていた。

『カレン・デルオニールか?不審な動きだな!』

 リアの視線を読んで、オセルが狭いポケットから顔を出した!アンスールと場所を取り合ってます!

『『リア、泉へ!』』

 うい!リア、走ります!


「なに!リアがいると!?……だから鍵をかけておけと言ったんだ!!」

 途中、ルーカス殿下の悲痛な叫び声が聞こえたけど、それどころではありません。何故なら、泉の上に、黒い霧が立ち込め始めたからです。

 気付いた聖職者達が喚き散らす。

「見ろ!アクアステラが黒くなったではないか!」

「イーヴ!貴様のせいで、穢れてしまったのじゃ!」

 いや、カレンが何かしたからだって!そのカレンは……もう、姿が見えません!

 

「誰か!!この者らを連れて行け!!」

 イーヴさんがブチ切れ、騒ぎ立てる聖職者は、近衛騎士らによって抱えるように引き摺られて行った。

 それを横目に見ながら、リアは泉に駆け寄り、黒い霧を振り払いながら泉を覗き込んだ。

 

 底に沈むのは……異様に白く見える……人間の、手?

 ヤダコレ。昨日見たやつだ……。

 

「リリア!」

 クラりとしたリアは、イーヴさんに突然抱き寄せられ、ハッと気付いた。

 黒い霧は既に、ボコボコと泉から湧き出ては足元へと溢れ出していた。神殿の石畳の上を流れ、地面に染み込んでいく。

 辺りには腐葉土の様な臭いが漂いはじていた。

 先日の黒い霧より遥かに濃い闇が、その下の土を腐食させ、足元の石畳はブヨブヨとした感覚を生んだ。立っているのも難しいほどに。

 ……これ、絶対、下から何か出てくるやつだ。


「ルーカス!ここだ!」

 イーヴさんが叫び、リアは誰かに押し付けられた。リアを受け取ったのは、いつの間にか後ろにいたルーカス殿下!?

「任せろ。そっちは頼めるか?」

「やれるだけやってみるさ」

 イーヴさんはニヤリと笑うと、躊躇せず黒く澱んだ泉の中に、その手を突っ込んだ!

 

 途端に黒い霧が、泉の中からイーヴさんの腕をつたい、呪いの様にその身体を這い上がって来る。

 しかし、それが顔に至る前にイーヴさんは、泉から生々しい例のアレ、ゴーチエ魔導師の手首から先を引き上げた!!

「これか……デルオニールめ……」

 そのままゲホゲホと咳き込み、次には。

「下には、置けない……俺ごと燃やせ……っ!!命令……だ……!」

 なんですって!?


「ダメ――っ!!」

 飛び付こうと手を伸ばすリアの目の前で、イーヴさんはどんどん真っ黒な霧に呑まれていく。そして、凄い勢いで、そのまま頭まで黒い霧に呑まれた。

「急げ……燃やせ……」

 苦しそうな声が聞こえる。なのに、リアの腰に回るルーカス殿下の腕はビクともしない。リアを抱え上げて、その場から去ろうとするの!

 しかも、アンリが松明を掲げて、イーヴさんの方に駆け寄るのが見えた。嫌な聖火ランナーだ!

 

「ダメよ!!神様――!!」

 辺りは黒い霧の海。ブンブンと羽虫の飛ぶ様な音の中、必死でリアは叫んだ!

 

 ……ん?

 

 頭の中に返事が!しかも即答!

 

 ……なんだ、悲しいな。我の与えた力を使ってはくれんのか。


 しかも、かなりフランク。って……力?


 ああ、浄化の力だ。

 

 目の前では、大きな音と共に神殿が崩れ落ちた。石畳がまるで生きているかのようにうねうねと盛り上がり、端からドロドロとした泥に飲み込まれていく。駆け寄ったアンリが体勢を崩して膝を着き、イーヴさんだった闇の塊は、揺らぐ石畳の上に転がった。


 辺り一帯の地面は、泥と化していた。

 避難しようと駆けるルーカス殿下の足元も揺らいで……その一瞬。

 ルーカス殿下の腕が緩んだその隙に、リアは腕を振り切った!

「リア!!」

 ルーカス殿下が手を伸ばす。

 

「ライゾ!イーヴさんの所に飛んで!!」

『いい判断だ』

 イーヴさんだった塊を乗せた石畳が傾き、泥沼はと滑り落ちていく。

 その瞬間。

 

 リアはクラクラしながらも、イーヴさんの服を掴んでいた。慌てて石畳の上に引っ張り上げる。おじいちゃん妖精のティール様も手伝ってくれて、どうにか泥の中に落ちずに済むも、イーヴさんは闇の中。息をしているかどうかも分からない。

「浄化を……!!」

 神様はリアに浄化の力を授けたと言った。今がその時なのに……。

 浄化!浄化して!!……お願い!!

 声で、そして心で叫んでも、何も起きない。どうやったらいいの!?


 イーヴさんは月イチ、リアに夢のあるお菓子を届けてくれた人。そして、リアをクッキーまで連れて来てくれた人だ。今もリアが寝る場所や食べる物に困らずにいるのは、全てイーヴさんのおかげだし、何よりも、イーヴさんがいなければ、リアは妖精さん達に出会えなかっただろう。

 そんな尊い存在を、闇の中で終わらせる訳にはいかない。


 リアはイーヴさんだった塊を探って、あの忌々しい切断された手を探した。

「神様……どうか助けて……」

 黒い闇はリアにも襲って来たけど、みんなの加護のお陰か、進行は遅い。リアは黒い闇に顔を埋め、必死に探した。

 

 その後ろで、泥が膨れ上がり形を成して、立ち上がろうとも。

 ギャオ――ス!と空気を揺るがす雄叫びをあげようとも。

「リア――!!どこだ!!」

「一斉射撃――!!頭を狙え!!」

 バリ――ン!!

 ドド――ン!!

 後方がとても煩いけども、気にしてられない!

 

 でも、リアはついにイーヴさんの腕を見つけました!

 ダラりとしたイーヴさんの手から、切断されらたソレをひったくって、掲げた。

「カノ!」

『リア、なるべく遠くに投げて!!』

 目で通じ合える仲。リアはその手を、思い切り投げ捨てた!同時にカノが赤い精霊を放った!……んだけど?

 飛ばした先には、見た事もないくらい大きな顔があった。

 ……ギョロリとした目。大きな口。尖った牙。恐竜か!って感じの口が、大きく開けられてたの。


 パクリ。


 ……え!?食べたんですけど!!

 すんごい歯をお持ちですが、ひと飲みでしたね!なんて、感動している場合じゃない。

 そいつは……その竜は、嬉しそうに顔を天に向けて、バサリと両翼を羽ばたかせた。

 辺りに泥の雨が降り注ぐ。

 

『リア!伏せろ!!』

 ベチャベチャと臭い泥が降ってくる。嫌な攻撃だ!

 イーヴさんは守れたけど、リアの真新しいローブは犠牲に!

「うう……」

 ショック。

 まだ新しかったのに……戻るかな。そう思ったら、それが発動してた。ほんの一瞬の事だ。

 

 リアとイーヴさんの周りだけが、何故か金色。

 金の綿毛のようなものが辺り一面、ふわふわと漂っていた。……これ、精霊さんじゃない?

 もしかして、これが浄化!そんな事ってある?

 

「雷砲――!!」

 バリ――ン!!ドン!!

 耳をつんざく音と地面を揺るがす程の振動。

 近衛騎士団の攻撃のようだ。対岸から雷が落ちて来て、その竜の頭に直撃した。

 

 しかし、竜は軽く頭を振っただけ。

 泥と雷。相性がわるいのか、全く効いた感じはない。

 しかし、しばしの静寂の後の……ゴクリ。その喉がリアの投げた例のアレを飲み込む音がした。

「え?今まで舌で転がして堪能してたとか?」

 グルメか!!

『考えるな……』


 するとどうだろう。今まで泥だったその身体が、見る間に肉を纏い、皮を被っていく。

「総攻撃!!復活させるな!!」

 突如、降り注ぐ矢の嵐、火球の雨。

 その風圧に、咄嗟にリアは、金色になったイーヴさんの頭を抱えてうずくまった。

 

 すぐ横が、まるで特撮ヒーローものの撮影現場と化す。

 だけど、リア。煙にむせるも、無傷です。見れば、オセルが両手を掲げ、バリア的な精霊の壁を作ってくれてて、これ最強じゃない?

『ふっ。上質な精霊は違うな』

 ここにもグルメが!

 

 ようやく爆撃が落ち着いたところで体を起こすと、リアは慌てて竜を見た。……と、全てを受けきった竜の身体は無傷。キラキラ光ってさえ見える。ってのも、ご丁寧にウロコまで生え揃っちゃってるから。……これはヤバい!

 竜は完全復活を喜ぶ様に、空に向かって、長い咆哮を放った。

 聞いた事もないような、不快な音に、皆、耳を塞ぐしかなかった。


 でも、その声は途中で途絶えた。竜が急に苦しそうにのたうち回りだしたのだ。

『大人しくなさい』

 カノがドヤってる。そうか!竜の喉元が赤いのは。

「カノの火は、ちゃんと着火していたのね!」


『当たり前じゃない。リア、何時でも爆発させられるわよ。今のうちに逃げる事をおすすめするわ』

 カノったら、頼もしい!だけど、討伐は……アンスールが悲しむから。

『リア、仕方ない。そいつらは捨てて、精霊界に避難するぞ』

 ライゾまで!そいつらってイーヴさんもって事でしょ?それは出来ない相談よ。

 

「待って!考えるから!」

 リアの後ろには巨大な竜がいる。でも、リアは何も怖くなかった。

 だから、落ち着いて道を見つけられる。絶対、上手くいくって、リアには自信があった。

 

 リアのいる場所は竜に近く、泥の中に浮かぶ石畳の島だ。対岸までは泥の海。たとえ足場があっても、助けられる距離じゃない。対岸で兵と揉み合ってるルーカス殿下の悲痛な声が、それを物語っていた。

 でも、今のリアにはみんながいるからね!

「みんな、手を貸してくれる?」

『もちろんです。リア、指示を!』

 じゃ、行くよぉ――!!

 

「えっと……確か水魔法は……ラーグ!ここら一帯を水浸しにできる?」

『うーん。全部は無理かも』

 ぽやんとした女の子妖精さんがしょぼんとした。でも大丈夫!

「イングは活性だったよね!」

『まあな!でも、無茶言うなよ。精霊が足りないぞ』

 イングはいつだってちょっと不機嫌なの。でも大丈夫。

「精霊ね。それなら……ほら!」

 リアは泥をすくい上げて、綺麗になあれ!って唱えた。

 すると、泥の中から、金色の精霊たちが、ふよふよと次々に生まれ出てくる。

『『!?』』

 

 そう、さっき分かったの。この泥には、沢山の精霊さん達が混じってるって。

 だって、イーヴさんにまとわりついていた闇も、元は精霊でしょ?証拠に、今のイーヴさんは金ピカだし!

「浄化は再生。闇は新しい精霊に生まれ変わるの!」


 リア、よく出来ました!


 神様の声が聞こえる。褒められた!

 

「さあ、やっちゃってください!イング!ラーグ!水を湛えて!!」

 リアは泥に手を突っ込んで綺麗になあれと唱えた。

 すると、リアの浸けた手を中心に、泥から精霊たちが生まれ出る。

 それは、とても素敵な魔法。

 イングとラーグが踊る様にその上を飛び回っては、その精霊を水に変えていくの!

 

 ある程度水が溜まったところで、リアは次のお願いをした。

「イース!凍らせてくれる?鏡みたいに!」

『大きな鏡が出来るわね……ふふっ。素敵』

 イースがその水に手をかざせば、途端に辺りは凍り始めた。あっという間に、泥で覆われていた地面が、ツルツルピカピカになった!って、あれ?

 静かになったな、って思ってたら、竜まで凍っていた。どうやらアンスールがラーグ達に指示を出して、水を撒いていた様だ。

 

「さすがアンスールね!」

『いえいえ。貴方のお陰で、誰も傷つけずにすみそうです』

 この竜の事は、イーヴさんにお願いするとして、まずは、イーヴさんを助ける事が優先よ!って。


『リア様。この御方は、私が責任を持って治します!』

 いつの間にか、おばちゃん風妖精さんのベルカナさんが来てくれてた!でも、ここは寒いわ。

 

「さあ!引っ張ってイーヴさんを向こう岸に連れて行こう!」

 氷の上なら、楽に運べるはずよ!

 リアは自分のローブをイーヴさんにかけ、意気揚々とツルツルの氷の上に足を踏み出した!

 

『リア!慎重に!!』

「ん!?」

 

 つるん!ゴン!!


 リア……暗転。

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