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14話 リアのお家は精霊界にあります

 翌朝、クッキーは今日はとっても平和。

 朝からアンリがテーブルに着いていて、先日の講義で作った杖(折っただけ枝)を振り回していました。

 

「ねえ、リリア。僕、味を占めちゃったんだよね」

 なんて言ってるけど、リアは、気が気ではありません。

 何故なら、リアの眠るソファーがベッドへと進化していて、クッキーの天窓の下を占領しているからです。

 

「アンリ……このベッドは?」

 昨日は途中から記憶が無いから、そのままここに寝ちゃってたみたいだけど、このベッド、リアが5人は寝れそうよ。ライゾなら500匹分?ベッドのど真ん中で寝てるから、何となく比較してみたけど。

 

「ん?そうか?僕ん家のベッドは、もっと大きいけど?」

 お坊ちゃんめ。

「でもここ、狭いじゃん?」

「あ、それ言ったらダメだ。殿下が広げちゃうだろ?それ、入れるだけでも大変だったんだ。これ以上仕事増やしたら、近衛騎士団(ボクら)まで恨まれるよ」

 騎士団の皆さん、なんかごめんなさい。

 

 なるほど。このベッドはルーカス殿下が用意したに違いない。……昨日汚れたからかな?

 赤い飛沫を思い出して、リアは悪夢を振り払うように首を振った。

 

「まあ!リリア様、目を覚まされましたのね!」

 扉が開くと同時に、白のローブとピンクの髪が見えた。この声は!

「モモリン!」

「ふふっ、モモリですのよ、リリア様。お手伝いにまいりましたわ!」

 モモリはリアの所に駆けてくると、顔をのぞき込む。

「お加減は……大丈夫そうですわね。では、今すぐその汚れた服をお着替えしましょうね。お兄様はこの後お仕事でしょ?朝食を外に置いておりますので、受け取って置いておいてくださる?」

 モモリは腕をまくると、持ち前の行動力で、チャキチャキと仕切る……って。

「お兄様!?」

 そう、なんとモモリはアンリの妹だったのです!


「ハハッ。よく出来た妹だろ?モモリはリリアと同じ歳だし、仲良くしてやってくれ。……モモリ、後は任せたよ」

「はい、お兄様。……あ!食事はお忘れなく!」

 しっかりとした子だ!


 モモリはリアを隣の部屋に連れて行くと、リアの湯浴みのお手伝いをしながら、昨日の出来事を教えてくれた。

「ゴーチエ魔導師はね、これは違反だ!とか、危ないからダメじゃ!と言っては、生徒達が授業に使用していた装備や武器を取り上げていましたのよ。貴族の多いこの学園では、返してくれ、なんて不名誉な事、誰も言い出せなかったのですわ」

 ゴーチエ魔導師の研究室に置いてあった、大量の甲冑や盾なんかは、生徒達からの没収品だったのね。

 

「ですから、皆、口に出す事はありませんが、姿の見えない誰かさんの起こした行動に感謝しておりますのよ。実は、モモリも以前、杖を取られてしまってて……。今朝、押収品の中からその杖を見つけた時には、不覚にも涙が溢れてしまいましたわ。リリア様、本当にありがとうございました!」

 なるほど。

 ルーカス殿下は、しっかりと仕事をしただけなのだろう。その制裁に私事なんて混ざっていなかったのだ。

 リア、殿下がリアを庇ってくれたなんて、勝手に思ってた……恥ずかしいわ。


「ところで……その、ゴーチエ魔導師は大丈夫なの?」

 リアの白いローブは、黒く変色した血痕のシミでいっぱいだった。これしか持ってないリアは、お湯からあがると、その服を再び着るしかない。

 しかし、リアが手を伸ばすと、モモリは忌々しそうにそれを取り上げてしまった。

「人の物に手を出せば、その手を切られる。これは、当然の報いなのですわ」

 この世界の規律怖い!リアは、すぐにこの学園の見取り図を返そうと決めた。


「さ、これをお召になって、リリア様……もしよろしければ、リリアとお呼びしてもいいかしら?」

 モモリはふわりと笑うと、リアに可愛らしいワンピースと真新しい黒いローブを手渡してくれた。

「もちろん!逆に、どうしてリリア様なんて呼んでたの?昨日はリリアちゃんって呼んでくれたじゃない」


 モモリは嬉しそうに微笑むと、ご存知ないの?と前置きしてから、とんでもない事を言い出した。

「リリア様……いえ、リリアは殿下の婚約者になられるお方ですから、当然の事なのですのよ。でもモモリは、リリアともっと親しくなりたくて!嬉しいですわ」


 ……ん?

 

「誰が誰の婚約者?」

 リアはマッパのまま、固まった。モモリは顔を赤くする。

「昨日の決闘の結果を聞いてなかったのですの?あの戦いでイーヴ・プロスペール近衛隊長を負かしたルーカス・フェル殿下は、木刀を掲げて……リアに婚約を申し込む!と宣言されたのですよ」

 それは何を掛けた戦いだったのでしょうか?

 

「……あっ!いけない!講義が始まりますのよ!」

 モモリは大慌てでお湯を片付け始め、リアを急かし、服を着せた。でも、一緒に行こうとするリアは押し留められる。

「リリアは高等部だから、今日の講義はお休みですのよ。ですからまた今度、お茶にお誘いさせて頂きますわ!今日はわたくし、失礼致しますの!」

 そうして、あっという間に講義に行ってしまった。


 やっぱりリアは高等部なのね……。

 リアは黒いローブを羽織り、近くに置いてくれてたリアの杖を胸のポケットに指した。ローブは新しく設えたみたいにリアにピッタリだし。……うお!このローブ、杖専用ポケットがあるのね!豪華――!

 

 でも、そうよね。今は亡くなった妖精さん達の為にも、早くカレンと接触しなきゃ。その為には、高等部に所属していた方が都合がいい!

 リア、覚えています。妖精さんを捕まえていたゴーチエ魔導師の娘がカレンだって事を。2人は確か……デルオニール家?絶対、なんかあるよね!!


 モモリは勘違いしているみたいだけど、ルーカス殿下が一般人のリアを婚約者に出来る訳がない。殿下が、リアと言ったのならば、それはオレーリアの事だろう……聖女カレンの可能性もあるけど、まあ、明後日の夜会で御相手は分かるしね!

 リアはさっぱりとした気分で隣の部屋に戻った。

 

 それからリアは、アンリの用意してくれてた朝食をライゾと一緒に食べ、お菓子作りの用意を始めた。

 昨日頑張った妖精さん達にお礼がしたかったからだ。何故かクッキーには何時も新鮮なお菓子材料が置かれてあるしねって……あれ?

「みんなは?」

 今日は妖精さん達の姿が見えません。パンパンにお腹を膨らませたライゾ以外は。

 

『ん?精霊界に行ったぞ』

「え?みんな四つ葉のクローバーを頭に乗せたの?」

 是非とも見たかった。

『何言ってんだよ。お前が誰でも出入り出来る様にしたんだろ?全く……魔力を使い果たして死ぬかと思ったぜ』

 

 その時、リアの杖を刺している胸ポケットがゴソゴソ動き始めた!

『リア――!!ただいま!!』

 ポケットの中から顔を出したのは、女の子妖精さん達。ええ――!そっから!?

 

『遅くなってゴメン!お菓子作るでしょ?』

 リアのポケットの中から、続々と妖精さんが這い出しては、飛び立って行きます!

『素晴らしい!簡単に行き来が出来るとは!』

 オセルもアンスールもポケットから這い出してくる。これ、ちょっとシュールです。

『これで何時でも精霊界に行ける事が確認できましたね。ああ、リア!光の道ですか?……本当にありがとうございました』

 

 どうやらリアは昨日の呪文で、精霊界とリアの杖をダイレクトに繋いじゃったらしい。お陰で、今までライゾの魔法か四つ葉のクローバーがないと入れなかった精霊界に、何時でも出入りが出来るようになったと言う。入り口はポケットですけどね!

 

『だからリア、お菓子をくれ!!』

「うん!!」

 ライゾにご褒美よ!リアは早速お菓子作りに取り掛かった。


 まずはバターと砂糖をすり混ぜ、卵を加えて。

 1種類目は、昨日、アンスールとオセルの作ったローストナッツと小麦粉と一緒にサクッと混ぜて棒状に纏める。これはひとまず寝かして置く。

 

 もう1つの生地は、二等分にして、1つをベリージャム入りのピンク生地にしてから、白とピンク、2色の生地でちょっと細工を加えるの。

 これで2種類の棒状クッキー生地の出来上がり!

 

『長細いクッキー?しかも大きいのね』

 黒髪の子がリアの肩に乗って、頬をつついた。あ、この綺麗系美人さんが氷の加護をくれたイースよね。黒髪といい、ちょっと冷めた表情といい、氷の魔女って感じで素敵。

「これはまだ途中なの。イース、これをほんの少しだけ凍らせてくれない?」

 イースは名前を呼ばれて少しだけ頬を染めると、棒状にしたクッキー生地に氷の精霊を飛ばしてくれた。

 

 パリ――ン!

『うお!凍らしたら食えないじゃないか!』

 クッキー生地に手型をつけて遊んでいたイングが驚いて飛び上がった。

「ふっふっ。見てごらん……」

 リアはクッキー生地にナイフを入れた。うん!いい感じに凍ってる!

『気持ち悪いな、お前。……なんだ、切るのかよ』

 しゅんとするイング。大きいまま食べたかったのかな?

 でも、サクッと輪切りにすれば、綺麗な正方形のアーモンドクッキー生地が幾つも出来上がるの。そして、もう1つのクッキー生地はね!


『わあ!』

『うおっ!いくら切ってもお花が出てくるのか!』

「切った断面に綺麗なジャムのお花が現れる様に細工してたの!可愛いでしょ?……カノ、これ焦げない様に焼ける?」

『任せて!!』

 みんなで天板に並べて、こんがり焼けば、可愛いアイスボックスクッキーの出来上がりよ!


 少し冷ましてから早速皆で試食!

『サクッサクッ!美味しいよ、これ!』

 クッキーにかぶりつく妖精さん達が可愛い過ぎます!

『またしても最高の出来ですね。精霊界にも送りましょう。リアの杖を収めたポケットに入れると、フェオが受け取ってくれるでしょう』

 リアのポケットが、とうとう四次元に!

 

 ……と、アンスールは不意にクッキーを置いて、ふわふわと近くを漂っていた精霊たちを吸い込み始めた!そして、うんうんと頷き、リアを見る。

『リア、今日ですが……北の悪しき竜の骸を封印する儀式というのがあるらしいのですよ』

 どうやら精霊さん達を偵察に出していたようだ。

 

「儀式?」

『はい。恐らくはフェル王国首都の四方に眠っている、四竜の廟に何らかの儀式的な行為を施すのでしょう』

 おお!この前の講義で聞いた竜の話の続きだ!

「四方って事は、優しき竜が人間と手を組んでやっつけた悪しき竜の事ね!」

 

『やっつけた、てすか……。我々はここに集まる前は、王都から離れた場所で過ごしていた為、封印の儀式については存じていないのですが、四竜についてはよく知っております。ダエグ、バース、アルシズ、ソウェルの四竜は、元は仲間だった者達です』

 ……と、言う事は、妖精さん達も元は竜だった説が濃厚です。

 

『しかし、その者達は、ハガルと結託し人間を滅ぼそうとした為に、我々と相容れぬ仲となってしまいました。しかも、ハガルが彼らに飲ませた魔素の塊によって、自我さえも失う凶暴な竜と成り果ててしまった為、やむを得ず我々は彼らを討伐致しました』

 とても悲しそうな顔をするのね。やむを得ずって事は、きっと仲間を討伐するのは不本意だったに違いない。

「やっつけたなんて言ってごめんなさい」

 リアが謝ると、アンスールは首を振った。


『謝る事はありませんよ。我々が仲間を手にかけたことは事実ですし、人間が美談として残したかった気持ちも分かりますから。しかし、リア。もし出来る事ならば、その悪しき竜を封印するという儀式に赴いてはくれませんか?我々は彼らをしっかりと弔いましたが、妖精の身となってからは、その地を訪れる事も叶いませんでした……ですから……』

 アンスールはリアの事を心配してくれてるのね!リアは安心させたくて、胸を叩いた。

「って事は、祈りを捧げたいのね!リアに任せて!」

『リア、感謝致します』

 アンスールは優しく微笑んだ。元より整った顔が綻ぶ様子は、ドキリとする程美しい。かなり小ぶりだけど。


「じゃあ、すぐに用意するね!」

 リアは妖精さん達に手伝って貰いながら、クッキーを分けて、ひと袋を胸のポケットに入れた。

「フェオ、いる?クッキーをどうぞ!」

 にゅっとフェオの太い腕が出てきて、次には妖精になったフェオが飛び出してきた!

『まあ、リア!ありがとう!あの子にも渡しておくわね!それと……』

 

 フェオはテーブルの上に乗った沢山のクッキーの袋を見る。

『これからはリアの荷物は何でも送ってくれて大丈夫よ。このフェオが責任を持って保管しておくから!』

「え?いいの?」

『勿論!リアはお家を持ってないってライゾに聞いたわ。だから、ヤドリギの家をリアのお家だと思って、気軽に使ってくれると嬉しいの!』

「リアの……お家?」

『そうよ!リアが何時でも帰って来れるように、みんなで用意しているところなのよ!ね!』

「みんなで?」

 妖精さん達の方を見れば、みんなが頷いてくれる。


 この世界に来てからずっと、リアの居場所は使用人宿舎の屋根裏部屋だった。もちろんオデール家の使用人さん達は優しくしてくれたけれど、家族と言える者も分からず、ひとりぼっちだと感じる時もあった。だから……。

 

「嬉しい……リア、何時でもお家に行っていいの?」

 胸がいっぱいだ。

『家に行くんじゃなくて、帰るんだろ?俺様が作った道だから、何時でも導いてやる』

 ライゾが胸を張ってる。こんな頼り甲斐のある妖精だったなんて!

 

 何だか心が暖かくなって、幸せが溢れて来る。

 リアはこの世界に着て初めて、ここにいていいよって言われた気分だった。

「ありがとう!」

 リアがニコリと笑うと、フェオが頬っぺにキスをしてくれた。妖精さん達も頭を撫でてくれて、幸せです!

 リア、今なら何でも出来る気分よ!


「じゃあ、用意して早速出掛けよう!そして、夜には………帰ってもいい?」

『ええ、みんなでお家に帰りましょう!』

 お家に帰る。なんていい響きなの!

 そうと決まれば早速準備よ。


 リアはモモリやジェード様の分のクッキーをポケットに仕舞って、残りはテーブルの上にカゴごと置いておいた。きっと戻って来たアンリがいつもの様に騎士団のメンバーに配るだろうからね。


『リア、貴方が出掛けると騎士団が動くかもしれません。ですから、一応、魔法をかけておきましょうね』

 ウィン様がリアに魔法をかけて透明にしてくれる。

『リア、急ぎましょう。じきに警備の交代の時間ですよ』

 アンスール、こっそり抜け出すチャンスって訳ね!


「おっけー!じゃあ、みんな!リアのポケットに!」

 リアは杖を出して、妖精さん達を精霊界に送ると、魔法を使えない人の為の魔法研究室クッキーを、こっそりと出発した。

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