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13話 ヤドリギの家


 ドスン!!

 どこかに落ちた!

 でも痛くない!

 

 受け止められたって感じかな?

 続いて……熱い抱擁!?

 

「ナイスキャッチよぉぉ――!!褒めてぇぇぇ――!」

 顔を上げれば、燃える様な赤毛に派手な顔立ちの男の人がドヤっていた。

 そう、リアを楽々とお姫様抱っこするのは!

「フェオ……!」

「そうよぉ――!リア、精霊界にいらっしゃぁ――い」

「フェオぉぉぉ――!!」

 リアは思いっきり目の前にある太い首に抱きついた。途端に涙が出てくる。だってものすごく怖かったんだもの!


「アハハハッ!!良くやった、リア!コイツは単純だから、いけると思ったんだ!」

 青年の笑い声と共に、リアの頭は大きな手でかき混ぜられた。誰だか知らないけど、ちょっと失礼じゃない?

 

「ここに来れるかどうかは、正直賭けでしたけれど、上手くいって良かったですわ。……しかし、何なのでしょうか、あの人間は!!酷いにも程がありますわ!!」

 柔らかい声だ。でも、怒っても上品な言葉遣い……この御方はもしかして?

 リアは手を弛め、恐る恐る振り返った。顔は涙でぐちゃぐちゃだけど、どうしても確認したい事があった。


「……デカい」

 そこに立っていたのは、淡い黄色の髪を綺麗に結った、大人美人さん。但し、手のひらサイズではなく、ちゃんと等身大。そう、この見覚えのあるドレス姿は、ウィン様だ!

 と、言う事は、その横は?

 

「お前、こうやって見ると、益々小さいのな!」

 そう言って笑うのは、ラフな格好をした青髪のやんちゃそうな青年だ。悔しいけど、何かイケてるんですけど!?

 

「ライゾ……だよね?リアよりデカくない?」

 リア、とっても不本意です。しかし、青年ライゾも眉を顰めていた。

「なんだ?その反応。お前……もしかして俺の事、子供か何かだと思ってたのか?」

「うん」

 リアが頷くと、ライゾは顔を歪めた。

「……ふざけるな!」


「ささっ!リア。疲れたでしょ?お茶を入れるから、そこに座ってちょうだいっ!!」

 コノヤロ――!俺はてめぇよりずっと大人なんだよ!!とか、騒ぎ始めたライゾを、フェオは片手で吹っ飛ばすと、リアをソファーに下ろしてくれた。


 ここは大きな建物の中みたい。シルバニアなお人形達が住んでいそうな、デカいログハウスって感じ?

 そして、いっぱい階段があるなぁって思ったら、至る所の梁に、丸いヤドリギがくっ付いてた。


「リア、よく頑張りましたね。ここは精霊界にあるヤドリギの家ですわ。もう安心なさい」

 ヤドリギの家。

 そうか、この前のヤドリギが、リアたちのいた世界と繋がったのね!

 

「……本当に来れたのね?まるで夢みたい!」

 リアが頬っぺをつねると、ウィン様は苦笑いしながら、リアの顔を拭いてくれた。そしてフェオが香りのいい紅茶を入れてくれて、少し飲めば。

「美味しい……」

 ようやくリアは息を吐き、落ち着いた。

 

「あ!」

 途端に思い出す。こうしちゃいられない。リアは金色の霧と一緒に精霊界に来たはずだから!

 リアは周りを見回した。

「ウィン様!ビンの中の妖精さん達は!?」

 キョロキョロするリアに、ウィン様は困った様にライゾを見上げた。

 ライゾは腕を組み、ため息をついた。

 

「リア、妖精の死は、消滅ではなく、自然に還るって事でな……」

「違うの!金色の霧が見えたの!リアと一緒に行きたかったみたいだったから、願ったの!何処かにいるはずよ!」

 リアは体を乗り出した。

「そうか……」


 ライゾは大きな手の平でリアの頭をぽんぽんしてから、隣の椅子に座った。それだけでリアは、何故か嗚咽を隠すのが難しくなった。

「リア……手遅れだったんだよ。あの妖精は既に羽を全て取られていたからな」

「羽根を……?」

 そう言えば、ビンの中の妖精さんには羽がなかった気がする。……そんな!!

 

「あの男は、妖精を逃がしたくなかったのだろうが、あれじゃ、妖精はすぐに死んでしまう。何故なら、妖精は悲しいと死ぬからな」

「死!?」

「あの妖精たちも、最初のうちは、羽をもがれても、ビンに詰められても、腹を満たす為に仕方なく魔法を使って精霊を集めていたのだろう。だが、そんなに長くは耐えられない。……だから、手遅れだったって事だ」

「それって……既に死んでいたって事?」

 ライゾが頷き、リアの涙腺は崩壊した。

 するとすぐさまウィン様が、ライゾを睨みつけながら、リアの涙を吹いてくれる。

 

「リア、貴方が泣く事はありません。死は悲しい事ですけれど、誰にも必ず訪れるものですから。それよりも、ビンに閉じ込められ、自然に還る事も出来ずにいたあの子達の亡骸を、ここまで連れて帰ってあげられた事を喜びましょう。これは全て、あなたの行動のお陰ですよ、リア」

「リアは何も出来なかった……」

 リアが首を振ると、フェオに、バン!と背中を叩かれた!脳が揺れる程の衝撃だ!!

 

「そんな事はないわよぉ。リアの杖のおかげで助かった子もいるじゃない?ほら、リア、立って!せっかく精霊界に来たんだから、見てってちょうだい!!」

 リアはフェオに引っ張られるがまま、ヤドリギの外に連れ出された。


 精霊界の空はどこまでも青く、絵で書いた様な雲が、ポカンポカンと浮いている。ふわふわとした下草の揺れる、この世界には1度来た事ある。あの時と何も変わっていない。

 

「ほら、あっちを見て!」

 左手を見れば、お花畑が広がってて、フェオといつかお茶をしたテーブルセットがあった。しかし今日は、お花畑の中に、ふわふわと揺れる金髪が見えた。

 小さなその子はリア達に気が付くと、ひょこっと立ち上がってこちらを見た。大きな金色の瞳に短い手足。まるでひな鳥の様にふわふわの女の子だ。小さい手には手折ったのだろう、お花を沢山握っていた。

 

「めっちゃ可愛んですけど!!」

「あいつはモモリの妖精だな。無事で何よりだ」

 ライゾがリアの隣に来て、ふわりと笑った。フェオが自慢げに腕を叩く。

「アタシ、頑張ってヤドリギに手を突っ込んで、この子を手引き込んだのよ!褒めて頂戴!」

 さすがフェオ!リアも思わず笑顔になった。。

「立派な上腕二頭筋ね!!」

「うふっ」

 今日は泣いたり笑ったり忙しい日だ。

 

 リアが手を振ると、子どもになった妖精さんが、ふわふわの金髪を揺らしながら駆け寄って来た。ぎゅっと抱き締めればお日様の匂いがする。

 フェオが女の子の頭にポンと手を置いた。

 

「この子はまだ生まれたてなの。これから色々と学べば、お話も出来るようになるわ!でも、そうね……今は、リアのスコーンが食べたいってよ?」

「スコーン?あ、モモリン達とお昼を食べた時のね!でも、もうないんだよね……作ってあげたいけど」

 フェオは眉を下げる。

「ごめんなさいね。精霊を現実世界に放つ様にしてからは、妖精たちも出て行っちゃって、この通り、精霊界荒れ放題で何もないのよぉ。寂しいけど」

 

「たまに俺がお茶を持って来てやってるだろ?……リア、アンスールより伝言だ。帰るぞ!」

 見上げれば、上の方をアンスールの電波精霊が連なり飛んでた。

『リア……無事……ですか?』

 アンスールはこうやってフェオと連絡を取り合ってたのね!って。精霊さん凄くない?


「そうねっ!ありがとう、ライゾ!でも、次は来る時はドレスをよろしくねっ」

 確かに布を巻いただけのフェオの衣装はナチュラルすぎる。筋肉がチラ見えしてリアは好きだけどね!

「持って来れるか!!」

 フェオに合うドレス、あるといいな。リアが持って来れるといいけど……そう何度も行き来するのは難しいよね。しかもリアはすぐにも殺されそうな勢いだし。

 リアは顔を引きしめた。


「そっか。今から鬼のように怒ったゴーチエ魔導師の部屋に戻るんだよね。居なくなってるといいな……」

 少し震えるリアに、ライゾは何故か怒り出した。

「ばかもの!お前は俺を何だと思ってるんだ?俺は旅の妖精だぞ。お前の行きたい場所に連れて行くくらい簡単だ!!」

 ふんぞり返ってる。旅の妖精?そう言えば、そんな事を言ってたね!って。

「うそっ!凄くない?」

「ふははっ!もっと褒めるがいい!折しもここは精霊界。何処にだって連れて行けるぞ」


「ライゾ、言い忘れていますわよ。1度行った事のある場所に、ではなくて?」

 ウィン様がやって来て、即座に訂正。ライゾは決まりが悪そうに言い直した。

「ああ、そうだ。馴染みのある場所がいいぞ。間違えると、とんでもない場所に飛ばされるからな」

 とんでもない所に行った事があるのかな?例えばリアの前世とか?


 でも、リアの不安を払拭する様にウィン様が肩に優しく手を置いてくれた。

「精霊界は入るのは難しいですが、出るのは比較的簡単なのですよ。御安心なさい。まあ、アンスール様の元に戻れるのでしたら、全て良しと致しましょう」

 座標はアンスール。決まりだ。ウィン様はどんだけアンスール推しなの?

 

 それからフェオがリアにしがみつく女の子を受け取って、今は無理だけど、地上に返せる様に努力するわ!って言ってくれた。

「太陽がいちばん高くなる正午に、妖精の丘に生えた四つ葉のクローバーを用意しておくといいわよ!頭に乗せれば、すぐにまた精霊界に来れるからねっ!」

 条件がかなり厳しい!頑張るよ!!

 

「フェオ、色々ありがとう!また来るね!」

 リアが手を振ると、女の子も手を振り返してくれるた。可愛い!勿論フェオも可愛いわよ!!


「じゃ、リア……そうだな、一応呪文を聞いてやろう」

 ライゾがリアの肩に手を乗せた。このサイズだと、肩に乗れないからね。

 でも、なにその期待してない感。

 リアはちょっと頬をふくらませて、頭を巡らせた。

 

 そっか。次はいつ来られるか分からないんだ……。

 ここは安全で暖かい場所だ。リアだけじゃなくて、妖精さん達も自由に出入り出来れば安心だろうに。

 そう思ったら、素直に言葉が出てきた。

 

「優しさの集うこの場所より、リアが望むよ!」

 言葉にすれば、地面からか精霊さん達が顔?を出した。

 まあ、新しい精霊が生まれたわ!リアのおかげね!って、フェオの声がする。

 

「皆の幸せを願い、力を尽くしてくれる優しい妖精さん達の元にリアは帰りたいの」

 帰ったらまず、消えていった妖精さん達に祈りを捧げよう。そして、再び妖精さん達が捕まる事がないように、皆で考えなきゃ。まだ、救えていない妖精さん達の為にも!

 

 色々考えてるうちに、精霊さんがリアの杖に吸われ始めた!

「おい……リア。程々でいいぞ」

 ライゾが何か言ってるけど、リアのテンションはアゲアゲ。もう止まりません。慌ててウィン様もリアの反対側の肩に手を乗せる。


 もうこの感覚も何回目?またしても吸引力最強なリアは、ノリノリで杖を上に掲げた。杖から光の帯が出てくる。これが道を作ってくれる事を祈って!

 じゃ、行くよぉぉ!

 

「お菓子工房クッキーへと、光の道を開いてねっ!――転移っ!!」

 

 すると、どうでしょう!天井に小さなブラックホールの様な穴が開いたではないか!ブラックじゃなくてゴールド色だけど!

 

「やりすぎだ!……やべぇ。リア――!!」

 ライゾの声と、目眩に似た浮遊感。

 掃除機に吸われるって、きっとこんな感じなのね!って!?


「うおぉぉぉぉ――!」

 リアはその穴へと、吸い込まれていった。

 


 ポスッ!

 今回はソファーの上に無事、おしりから着地。続いて小さなライゾとウィン様がポトンと頭に落ちて来た!……ここは?

 

「やった――!ライゾ。クッキーだよ!」

「リリア!入るぞ!!」

 同じタイミングで、お菓子工房クッキーの扉が開けられ、リアは固まった。

 

 入って来たのは強面の紳士、学園長様だ。ソファーの上に不自然な格好で転がるリアとガッチリ目が合うと、ふっと笑った。

「ほれ、ちゃんとリリアはここにいるではないか」

 と、生暖かい笑みのまま、後ろを振り返った。

「そんなはずはない!声が聞こえたのじゃ……!!」

 

 この声!学園長様を押しのけるようにゴーチエ魔導師が入って来た!

 その頭にはとんがりボウシはなく、髪はぐちゃぐちゃ。血走った目でリアを見て、その場で凍りついた様に動かなくなった。その視線はリアの右手に……。

 

 リアは慌てて杖を隠した。でも、もう遅い。

「おぬし!その杖は!!」

 みるみるその顔を凄まじい形相に変え、物凄い勢いでリアの方へとやって来た!

 そして、震えてソファーの隅に縮こまるリアに手を伸ばす。

 

「やはりお前が!!」

 リアは髪を掴まれ、引っ張られた。

「痛っ……!」

 ……途端。

 

「俺のリリアに何をする!!」

 ガッ!!

 打撃音と共に、ゴーチエ魔導師は横へと吹っ飛んだ!!

 リアも引っ張っられる!……って構えたけど?

 一向にこない衝撃に、目を見開く。

 

 ……と、リアは両手で口を覆った。

 だって、目の前に人の手首が落ちて来たから。

 リアの髪を掴むその手の主は……何処?


 剣の鈍い煌めき。飛び散る赤。

 リアの心臓はキャパオーバー。

 急に寒さが襲ってきて……。

 ……暗転。

 

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