10話 優しき竜と悪しき竜のお話
意気揚々として高等部を目指す事しばし。リアは何故か可愛らしい少女に手を引かれていました。
「あなた、転校生なの?そっちは高等部よ。あなたはこっち!」
ピンク色の髪をした可愛い少女はそう言って、リアをガンガン引っ張って行きます。
なんと説明したらいいんだろう?奨学生だから大丈夫よ!とか?……って、何かエリートっぽくて嫌じゃない?実力ないのに。
色々考えているうちに、リアは今まで行った事のないエリアに侵入!そこには同じ位の背格好の、白ローブの集団がいました!!
そう、ここは初等部と中等部の入るA棟です。やっぱり、リアはこっちなのね!……なんていうの?同じ色に囲まれるって、こんなに落ち着くものなのね!
『仕方ない。付き合ってやるといい』
ライゾが苦笑いしてる。リアがホッとしたのが伝わったみたい。
A棟エリアは学生が少なくて、各学年1クラスしかない様で、半ば強制的に連れて来られたのは中等部の最高学年の教室。そこには、40人くらいの生徒がアウトローに机に着いていました。
「私はモモリよ。何でも聞いてね!」
いい笑顔だ!世話好きのモモリンに席まで用意して貰っちゃって、リア、幸せです!
入って来た、とんがりボウシの講師は、リアを見てギョッとしてたけど。
『こいつ!中等部に左遷されたんだな……笑』
あ!見た事あると思ったら、カレンの魔法を弾いた時の魔導師様でした!確か……ゴーチエ魔導師?
ドンマイ。
「今日はこの王都の歴史について話そう」
また、この話よ!何回目?
なんて、コソコソ言われながら、ゴーチエ魔導師の授業が始まりました!
「かつてこの世界には沢山の竜が住んでおり、我々人間を見守って下さっていたんじゃ。しかし人間は高慢にも竜を敬う事を忘れ、その姿を恐れる様になっての。仕舞いには竜に攻撃を仕掛ける者まで現れる始末。竜達を怒らせてしまったんじゃ」
結果、人間を滅ぼそうと考える竜まで出てきてしまい、竜達と人間との争いが始まったと言う。竜との戦いは熾烈を極め、多くの人々が命を落としたらしい。
「しかし、その戦いの中、竜と人との仲を取り持つ少女が現れての。その少女の働きによって、多くの竜が、人の手を取って下さる様になったんじゃ」
この少女が、後にこの王国の最初の女王になったらしいのだが、とんがり講師の話は、人に背を向け、人間を滅ぼそうと考えた竜達と人間達との戦いの歴史へと続いた。
「人々は優しき竜達と手を結び、人間を滅ぼそうと画策する悪しき竜共に立ち向かった。そして遂に、凶暴な四頭の悪しき竜を退治する事が出来たんじゃ。そうしてこの国は平和を取り戻し、今に至るまで続いておると言う訳じゃ」
ハッピーエンドね!
「ゴーチエ魔導師様!優しい竜達はどうなったのですか?」
1人のしっかりした男の子が手を挙げ、魔導師様は、ふむ、と答える。
「伝承では、消えたとある。しかし、精霊になったという説もある。我らに魔法を授けてくれた精霊王が、優しき竜の末裔だという説も濃厚じゃ」
精霊王……フェオが竜?プチマッチョな妖精さんとは、似ても似つかない感じだけど?
『概ね間違いではないな。人間は精霊を見る事は出来るが、妖精は見えんからな。間違えて伝わったのだろう……ふっ、伝承とは面白いものだ』
ライゾが鼻で笑ってる。え?正解なの!?
「精霊王様が竜なんて、そんなの信じないぞ!」
「うっそぉ――」
「しかしの、皆は知っておるか?この王都に悪しき竜共の骸が封印されておるのを……」
ゴーチエ魔導師は、この一言でざわめく生徒たちをピタリと黙らせた。
「正確には、王都の城壁の向こうに、じゃがの。悪しき竜共との戦いに勝った人間は、その四頭の悪しき竜の骸をこの地に封印したんじゃよ」
この地……。生徒たちは思わずキョロキョロ。リアもゾッとして、なんとなくキョロキョロ。
「あ……もしかして、ダンジョンですか?魔導師様!」
モモリンが手を挙げ、ゴーチエ魔導師が満足そうに頷いた。
「そうじゃ。悪しき竜の亡骸からは、とめどなく魔が流れ出たという。それは、封印されても未だ、留まることを知らず、現在に至っても魔物を生み出す元凶となっておるという訳じゃ。このフェル王国は、悪しき竜の骸を見張る為に、この地に王都を置いたと言えよう」
『逆だろ。魔物が出るから、この地が栄えたんだろうよ。魔物討伐は儲かるからな』
そうなの?ライゾって物知りね!
講義が終わると、リアの周りに女の子達が集まって来た。リアは今日は高等部に戻るのを諦め、好奇心旺盛な少女達との交流を楽しむ事にした。ピンクの髪をふわふわ揺らしながら、モモリちゃんが真っ先に声をかけてくれた。
「リリアちゃん!ランチはどうされますの?」
「え?この世界、お昼ご飯ってあったの?」
「…………え?」
素直に反応したら、ドン引きされた。……だって、今までお菓子は貰っても、お昼ご飯なんて貰った事なかったんだもの。
「……リリアちゃん、何処から来たの?」
オデール領ですけど?
「リリアちゃん、これ美味しいよ?食べる?」
「いいの?ありがとう!!」
次の瞬間から、リアの口は大忙しになった。
生徒たちは皆、お弁当持参。聞けば、初、中等部へは、ほとんどの子が通いで来ているとの事。どの子も貴族のご令嬢ご令息らしく、食べきれないほどの豪華なお弁当を持たされているらしい。リアもポケットからスコーンを取り出します!
「なぁに?それ」
「ポケットにお弁当入れてるの?凄――い!」
「食べる?」
昨日のだけど。
「うん!」
可愛い……。この子達の全てが可愛い!!
リアは時間の許す限り、ここに通おうと心に決めた。
しかし、その日の午後の講義。またしても魔法の授業中に事件は起きた。
「では、皆、杖を取り、明かりを灯して見せよ!」
引き続き、ゴーチエ魔導師が指導に当たる様子に、リア、嫌な予感を感じていました。
中等部での魔法学は学校指定の杖の先に明かりを灯し、先生がいいと言うまで維持出来れば合格!との事。
使用する杖は、まるでクジ引きの様に筒に刺さった教材用の杖。その中から、皆それぞれ1本引くと、教室内に散開し、魔法の練習の開始だ。
リアも自分の杖は出さずに、皆に習って杖を借りた。杖というより、ただの流木の様な木の枝を、皆、構え、呪文を唱える。
「明かりよ灯れ!」
「つけ!明かりよ!」
叫ぶ生徒たちの肩には、残念ながら妖精さんは乗っていない。すなわち、杖を力一杯振り回しても、何も起こらないという事だ。
妖精さんの数は多くないのね。精霊は沢山飛んでいるのに……。
「魔法使いってレアなのね……」
「そうなのよ!リリア。モモリがお手本見せてあげるね!キラキラ綺麗なお星様!出ておいで!!」
リアの横でモモリンが杖を振った。すると、小さな白い妖精さんが現れ、モモリンの杖に精霊を飛ばした。
杖の先が光る。
「ねっ!」
「モモリン、凄い!」
可愛い!!
パン!パンッ!
突然の拍手が背中から聞こえて振り返れば、ゴーチエ魔導師がにこやかにこちらにやって来てた。
「素晴らしいぞ、モモリ・エヴラール」
ゴーチエ魔導師はモモリンの肩に手を置き、激励した。でも、あまりに顔を近づけるから、モモリンは引き気味。
「……ありがとうございます」
「しかし、すぐに消えてしまう様では役に立たんだろう。そのまましっかり維持するんじゃぞ」
「はい!」
モモリンは素直に返事をすると、ぐぬぬと集中し始めた。
「結構スパルタね……」
「ほら、そこの!真面目にやらんか!!」
突如受けたとばっちりに、リアが杖を持ち上げた瞬間。
「あ――もう消えた!」
顔を上げれば、モモリンがガックリと肩を落としてた。見れば杖はもう、光を失ってる。
「残念じゃの。鍛錬が足りんのじゃろて」
そう言うゴーチエ魔導師は、不気味な笑みを浮かべていた。とんがりぼうしのつばに隠れて誰も気付いてないけど……。
『……リア、見たか?……奴が妖精を捕まえるのを』
捕まえた、ですって!?
『ああ。悲鳴が聞こえるぞ。リア、確認はさりげなく』
確かに微かなキーキー声が聞こえる。ライゾに言われた通り、去って行くゴーチエ魔導師をチラ見れば、ローブの胸辺りが、触ってもないのに揺れていた。内ポケットにモモリンの妖精さんが!?
『リア、今は堪えろ。ここは慎重に行動すべきだ。絶対に助けるから……皆でな』
俺が!って言わない所をみると、何か考えがあるに違いない。リアは動きたい衝動をグッと堪えた。
「ねえ、リリアちゃんはやってみないの?」
モモリンが悲しそうにリアのローブを引っ張った。
再度魔法に挑戦してるけど、杖が一向に光らないからだ。今まで普通に使えていた魔法が使えなくなるってかなりショックだと思うの。少しでも気分をアゲてあげたい。
気分がアガると、きっとまた妖精さんが来てくれるしね。
「やってみるよ。でも、初めてだから期待しないでね」
まずは妖精さんを唸らせる厨二病的なセリフを考える所からだ。
そういえばライゾって何の妖精さんだろう。髪は青いけど……。リアはライゾにこっそり聞いた。
『俺は旅の妖精だ!』
「それ、何属性?」
『まあ、俺様の様な名のある妖精なら、人の言う魔法とやらは標準装備といったところか?』
さすがライゾ!でもやり過ぎちゃダメよ?
「じゃ、光を灯してくれない?標準的なので……」
こっそりお願いした途端、まだ呪文も唱えてないのに、リアの杖の先から勝手に氷の粒が吹き出した!
ねぇ、誰かシロップ持ってない?……って、探したくなる様なふわふわの氷がどんどん出てくる!
『ああ、そういえばイースが氷の加護を与えてたな』
スチームオーブンに入れた氷が加護?
サラふわの氷は、杖から流れ出すと、リア中心に回り始めた。これまた吸引力最強のヤツなの?
「わ、わっ!」
オロオロするリアの杖は制御不能。勝手に動くからリアは振り回される。まるで新体操のリボン競技だ。
更には、よく分からない体勢のまま、吹き出した氷の粒で芸術作品を創り始めた!
それは床に刺さったベース型の……。
「わ――!リリアちゃん、凄い!大きな盾が出来たよ!眩し――!」
『氷盾的な明かりだな』
ダジャレですか?
「リリア・エヴラール!その杖を見せるのじゃ!」
ゴーチエ魔導師が慌ててリアの手首を掴んだ。
「違う!こんな物ではない!」
そして思い切り振り払うと、勝手にリアのローブの裾を捲って、リアのヤドリギの杖を引き抜いた。
「これじゃ!氷魔法のエンチャントとは!こんな危険な物を持っておったとは、誠にけしからん!この杖は調べさせて貰うぞ!……来い!!」
何と言うことでしょう!リアの杖は速攻没収。
リアは手首がもがれるほど力いっぱい引っ張られ、大騒ぎとなった講義室から連れ出された。
そして、何事かと顔を出す生徒達や、何故か廊下に沢山いた騎士様達にゆび指さされながら、廊下を連行されて行ったのだった。




