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運極さんが通る  作者: スウ
闇オークション編
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暗躍する者



 〜???side〜


 フィールド3を2人の旅人が横断している。

 彼らには帝国で果たさなければいけない依頼がある。

 男は曇った空を見上げた。

 時々見える太陽の光に頬を緩ませる。

 彼らは徒歩で帝国を目指していた為、有限な時間を潰してしまったが、それはそれで良かった。太陽を浴びることが出来ることが心に余裕を持たせてくれるからだ。

 それは彼らがいた場所では決して持てなかったもの。

 だから、今を満喫出来ているのは有難く感じた。


「ねぇ、団長。人でなくなったゾンビ達が唸り声を上げるから最近は一睡も出来てないわ。お肌が荒れちゃう」


「そうか。そんな風には見えないが」


 帝国周辺に近づくと、「ゾンビ」が群れをなして幾度となく襲ってきた。

「ゾンビ」を遇うのは簡単なのだが、人の身で長時間ぶっ通しで戦うのは流石に疲れる。

 女は自身の肌を触る。


「うーん。太陽の光を拝めたのは嬉しいけど、そろそろUVカットが欲しいわ。…と言ってもこの世界じゃそういうのはないか」


「あぁ。お前にはそういうのが必要なのか?」


「当たり前でしょ!今までは太陽が当たってなかったから気にしていなかったけど、こっちに来てからは太陽ガンガンだし、シミが出来ちゃうのよ」


 そうは言ってもな、と男はため息をつく。

 この世界にはUVカットを作る技術がないし、もし作れたとしてもその作り方が分からない。


「俺はUVカットより、スマホが欲しい」


「あ〜それ分かる。スマホがあればネットで買い物出来るからね〜!」


 女はカラカラと笑いながら「ゾンビ」を金色の粉に変えていく。地を蹴り、舞っているように扇のような二つの双剣をクルクルと回す。



「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「そぉい!」



 不意に人の声が聞こえ、振り返ると、猛ダッシュで「ゾンビ」に攻撃を加えている1人の人間がいた。


「ねぇ、団長。あの子、堕天使だってさ」


「ルシファーか?」


「…違うみたい。アイツはこんな所で油売るような奴じゃないからね」


 ルシファー。

 奴は世界の異端者。

 アイツのせいで救える命も救うことが出来なかった。

 自然と拳をつくり、きつく握りしめる男。

 彼の脳裏では今も凄惨な光景がつい昨日のようにフラッシュバックしている。


「団長、殺気漏れてるわよ」


「…っすまない」


 そう言う女からも殺気が滲み出てきていた。

 大きく息を吸い、吐く。

 あの場所では少し吸うだけで肺が傷んだが、ここは大きく吸っても何も問題はない。

 2人は襲いかかってくる「ゾンビ」だけを切り伏せ、帝国に進む。










「ねぇねぇ団長!あそこの露店行かない?」


「はぁ、遊びに来たんじゃないんだぞ」


「分かってるって。ちょっとだけ!ね?」


 帝国に着いてからというもの、彼女は目をキラキラさせて露店を回っている。

 もう何件目なんだと男は呟きながらも女の背を追う。

 通り過ぎて行く人々の顔には笑み。

 だがそれは、彼らが最も嫌う歪んだ笑み。


「…何を恐れているんだ」


「女帝様じゃない?情報によると、人を化物に変える力を持ってるらしいし」


 だが、と男は眉をひそめた。

 あの歪んだ笑は本当に恐れを抱く者達の笑みだろうか。

 子供までもが同じ笑みを浮かべているのだ。

 これは、なんだ?


「…慢心、かもね」


 女の呟きに男は納得がいった表情を浮かべた。

 確かにこの国は勝ちすぎた。

 故に彼らは己が楽をしたいがために自らの国で食物を作ることを止め、他国を吸収し、植民地を増やし、奴隷達に食物生産の全てを押し付けた。

 いずれはこの大陸を武力で一つに出来るとでも思っているのだろう。

 …浅はかだ。

 武力で支配をすれば、何処かで綻びが生じ、反勢力が現れる。

 武力で支配をしたどの国も、数年と保たなかった。


「あ、そう言えばさ、パチシニスでまた勇者召喚が行われたらしいわよ」


「…そうか」


 今回も上手くいったようだ。

「パチシニス」の王は尊大だ。

 尊大で懐が深く、情に熱い。


 …全く、胸糞悪い。

 勇者召喚には大量の魔力が必要だと言うのに、一体何人犠牲にしたのだろうか。


「団長、あの子!」

「ん?」


 女の指した先に、見覚えのある人物がいた。

 人では有り得ない速度で、走りながら「ゾンビ」を倒していったやつだ。

 そいつはみすぼらしい少女から花を買っている。

 恐らく、あの少女は元奴隷だろう。

 いや、父か母かが奴隷なのだろう。

 この国では普通のことだ。


「あの花は…」


「イロアスね。花言葉は勇者。あれ?魔王もあるじゃない!あの女の子の持っている籠の中はある意味宝物庫ね。…ん?あの花はまさかっ!リヴァイブ!?」


「はっ?リヴァイブだと?馬鹿な」


 だが、確かにあれはリヴァイブだ。

 見間違えようのない。

 しかし、そんな貴重なものが何故そこにある。

 あの花は…。


「団長、この焼き鳥もどきやばいわ」


 先程まで目を見開いていた女はいつの間にか近くの露店で焼き鳥もどきを購入していた。

 女から差し出されたそれを口に含む。


「ぐっ…」


 女は男の苦悶の表情を見てニヤニヤ笑う。

 そう、購入した焼き鳥もどきは口に含んだ瞬間口内に獣臭さが広がるのだ。

 自分だけが苦しむのもあれだと思った為、もう1本購入し、男にもあげた。

 結果、表情をあまり変えることのない男はあまりの不味さに顔を顰めた。

 久しぶりに見る彼の表情変化に女は嬉しそうに目を細めた。


「帝国での食事は控えたいな」


「ふふっそうね。団長、口が臭いわよ」


「誰のせいだと思っているんだ?」


 サングラスの奥から睨みつけてくる眼光に背筋がヒヤリとする。

 普段温厚で無愛想な団長を怒らせると恐ろしい目に遭うことは脳天気な仲間のお陰で知っている。

 出来るだけ刺激しないでおこう。


「ほらほら、見えてきたわよ?」


 路地裏を進み、古ぼけた居酒屋のドアを開ける。

 客が少なく、飲みに来る人の階級か低い割には気品が漂う店内に、警戒が強まる。


 この居酒屋には情報屋がいる。

 帝国の裏情報を全て握っていると噂されている凄腕の情報屋が。


「…いた」


 バーの隅で酒を豪快に飲んでいる男が例の情報屋、ピエロだ。

 帝国から放たれた刺客全てを返り討ちにし、生きた伝説と呼ばれている最強の情報屋。

 下手に出ると戦闘は避けられない。

 男と女はその情報屋の横に並んで座る。


「お前がピエロか?」






 情報屋は鋭い目で横に座った2人組を射る。

 レンズが黒い眼鏡をかけた、オールバックの男と、妖艶な美女。

 どちら共に黒い髪。

 友人から貰った刺客リストにはない特徴だ。

 となれば、依頼か。


「そうだ。で?欲しい情報は?」


「あぁ。話が早くて助かる。俺達の欲しい情報は、女帝が居る城の詳細な見取り図、兵の人数、そして、勇者の情報だ」


「ほう、アンタは城落としでもする気か?だが、それと勇者の情報の関係性がイマイチ分からねぇ。…まぁ、詮索はしないがよ。で、報酬は?俺がアンタらに売る情報はちと高いぞ?」


 そう言うと、男がどこからともなく氷を取り出した。

 アイテムボックスを使えるとは、少しは腕の立つ依頼主のようだな。

 だが、報酬であろう氷は【水魔法】と【風魔法】があれば作れる代物だ。


「これはただの氷ではない。永遠に溶けない氷だ。この意味、分かるよな?」


「永遠に溶けない氷」、それ即ち「永氷」。

 この大陸では絶対にお目にかかることは出来ない超級のレアものだ。

 伝説の情報屋でさえ、死ぬまで見ることは無いと思うほどのもの。


「…本物か?」


「あぁ」


 生唾を飲み込み、「永氷」が入った丸いガラスボールを受け取る。

 情報屋の魂が直感に訴える。

 これは本物だと。


「確かに本物のようだ。これはしっかりと情報を売らなきゃな。伝説の名が廃る」


「気に入ったのならば良かった」


「貰ったからにはもう返さねぇが、本当に良かったのか?こんな高価過ぎるものを貰っちまって」


「あぁ。それは捨てるほど持っているからな」


 果たしてその言葉が真実なのかは分からないが、少なくとも目の前の男は嘘を言っている目ではない。

 ふと、情報屋の脳裏にある噂…と言うべきか、伝説と言うべきかの情報が浮かんだ。

 だが、そんな事は無いだろうと頭を振り、その考えを消す。

 今は大事な情報交換の最中である。

 少しの言葉の選択ミスをも許されない。


「では、まずは見取り図からだ。これはー」












 女はベッドの上で水晶玉をつつく。


「団長、計画はいつから?」


 隣の部屋にいる男の声が水晶玉から漏れる。


「…そうだな。色々と他にも情報を知りたいからな。**日後でどうだ」


「そうね。ここは情報の国だから…。下手に動くと上手く情報が集まらないしね」


「そういう事だ」


「明日もバリバリ平和の為に働こー!おやすみ、団長」


「そうだな。いい夢を」

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