種と幸せ
今日は朝からアルザスは鍛冶工房に篭っている。なんでも、昨日のフリークエストで得た報酬の種が鍛冶時に使えるらしく、それを使って私のオーダーメイドを作ってくれているらしい。
当の私は村の畑の隅でどの種を植えようか唸っている。ジンとウォッカはヴィネと特訓へ。バレンシアとテキーラは村に新しく出来た料理亭へ。実はたまにそこでギムレットが働いているとかいないとか。出てくる料理は全て最高級で、予約待ちらしい。私も今度食べに行ってみよう。
とまぁ、こういうことで、相談相手おらずで畑と睨み合っている。
「おはようございます、るし様。どうなされたのですか?」
声をかけてくれたのは畑の責任者であるエルフのクロッツ君。この前ネクターを食べて気絶した子だ。
「おはよう。いやぁ、この種をどこに埋めようか迷っててね…」
「そうでしたか。なら、日当たりが良い場所に埋めてはどうでしょうか。やはり、種を育たせるなら日向に限りますからね」
「おー!ナイスアイディア!クロッツ君がいると助かるなぁ」
「そ、そのような事を言ってもらえて僕は感涙の極みです!」
この村の住人はどうにも涙腺が弱い。ちょっと褒めただけで目尻に涙を溜める。もしかして、褒められ慣れていないとか?うん、そうかもしれないね。最初のうちは挨拶するだけで泣いてたし…。あれは悪気がないことは分かってたんだけど、結構焦ったなぁ。だって大の大人が泣くんだもん。仕方ないよ。
「どうさましたか?」
「ん?あぁ、考え事をしてただけだよ。クロッツ君、ありがとね」
「はい!お力になれて幸いでした!では、僕はそろそろ仕事に戻りますね」
そう言ってスキップをしながらネクターがなっている場所に向かっていった。
さて、クロッツ君に教えてもらったとおり、日当たりがいい場所に種を植えようかな。まずは◈イロアスを植えようかな。
スコップを持ってフカフカな地面に穴を開けていく。二つほど開けて、その中に1粒ずつ入れる。そして、穴を塞ぐ。
この花が大きくなるのが楽しみだなぁ。早く大きくなぁれ、大きくなぁれ。
「おい、そこで何をしているのだ?家畜」
この威圧的で挑発的な声はっ!!
「ベリト…何でここにいるの?」
「はんっ!我がどこに居ようと我の勝手であろう?それよりも、貴様は何をしているのだ?その年にもなって一人孤独で土いじりとは…ククッ」
「失敬な!私は種を埋めているだけなの!邪魔するならユニオンハウスに戻ってよね!」
ベリトを無視し、◈リヴァイブを埋めようとした時、その手を止められた。
「家畜、それは…」
「ん?これはリヴァイブっていう花の種で、昨日買ったんだ」
「そうか。その種は我が貰い受けよう」
むんずと種を奪い、その場を去ろうとするベリト。だがそう易々と持って行かせるわけにはいけない。その種は大事なものだ。
何とか真紅のコートの裾を掴む。
「待って、ベリト。どこ行くの?」
「む、家畜如きに言うはずがなかろう?」
「いや、それ私のだから」
暫く睨み合い、先に折れたのはベリトだった。
「はぁ、貴様は諦めが悪いからな。…付いてこい」
ガシガシと金赤の髪をかき、スタスタと先に歩いていく。見失わないようにその後ろを駆け足でついていく。少し距離が空くと、ベリトは一度立ち止まり、チラリと後ろを振り返る。
意外とイイヤツなのかもしれない。
目が合うと鼻を鳴らし、また先に行く。
実はシャイなのかな?
「家畜、遅いぞ」
「あ、ごめん」
ついた場所は私の自室。
…私の自室?どうして私の自室?
「ふっ、ここは我が部屋だ。家畜、ボサッとするな。こっちだ」
「いや、ここ私の部屋だから」
ベリトは部屋に置いてあった鏡に手を当てた。すると、ヴヴンと奇妙な音をたてて鏡に波紋が広がる。ベリトの手が鏡の中に沈んでいき、ついに目の前からベリトが消えた。恐る恐る自身の手を鏡に当てると、ズブリと沈んだ。
「おぉっ」
まるでアリスの国に行く時のようだ。意を決して顔も鏡の中に入れる。
「家畜、早くせぬか。門が閉じるぞ?」
門が閉じると身体が真っ二つになるな、とベリトが笑う。
そんな恐ろしい事が起こるのですか。それならば早く身体をこっちに持ってこないと。
慌てて鏡を抜けきると、門が閉じたのか波紋が消えた。
もう少しで身体が真っ二つになる所だったぜ。危ない危ない。
冷や汗をふき、ベリトを探すと白い空間が広がっていることに気づいた。
「45柱に特注で作らせたのだ。存外良い場所であろう?」
真後ろから聞こえる声にビクッと身体が跳ねた。それを見てまた不敵に笑うベリト。
くそうっ…。今度絶対に怖がらせてやる!私ばかり笑われては不公平だ!
それにしても、ここは何にもないな。少し寂しい。
「ベリト、ここには何もないけど…?」
「ん?貴様には見えぬのか?その聖眼があるというのに?」
「…見えない」
「ふむ。もしかすると貴様のLvが低いせいかもしれぬな。ふっ、家畜は脆弱だからなぁ」
ベリトはパチンと指を鳴らす。すると、白が揺れ、様々な道具が現れた。中でも息を呑む程驚いたものがあった。
「ねぇ、あれって…」
「ん?あれは禁断の果実というものだ。人間の祖が食べたとされる美味しい林檎だ」
美味しいってことはベリトはもう食べたんだね。金色の林檎は見るからに禁断って感じがするから触らないでおこう。
「さて、家畜。種子はプランターに入れる。しかと見ておけ」
「うん」
アイテムボックスから取り出したのは豪華な椅子。どこからどう見ても椅子だ。プランターじゃない。
「プランターは?」
「黙って見ておけ」
ベリトは右手を椅子にかざすと、椅子が変形し始めた。ありえない方向に曲がったりくっついたりして豪華なプランターが出来た。
「…今のは?」
「ふっ。我が錬金術よ。元来我は錬金術に長けておるからな。我が力を見れたことに感謝し崇めるがよい」
「ふーん。等価交換ってやつ?」
「そうだ。頭の弱い貴様でも分かるとはな。解せんな」
そう言いながらも私から奪った◈リヴァイブをプランターの中に入れた。
「ほら、他の種子も我に献上しろ」
「むっ」
その言葉にムカッと来たが、渋々他の種達も渡す。プランターに入れられた種子達はほの明るい光に当てられすくすく育っていくらしい。花が咲く日には呼んでもらえるよう頼んでおく。
ベリトの不思議な部屋を出て私は再び村に来ていた。1人で特に何もすることはないので、フラフラと村を歩く。
「あー!るし様だ!」
「遊ぼー!」
「ギムレット様も一緒に遊んでくれてるんだよー!」
ギムレットも?子供が好きなのかなぁ。
子供たちに引っ張られて公園に向かった。
~ギムレットside〜
久しぶりにネクターの様子を見に行った帰り、人間と獣人の幼き者共に捕まってしまいました。
「ギムレット様ー!遊ぼーよー!」
「ねーねー!」
「るし様はー?」
嗚呼もう!何故こうベタベタと汚い手を私の肌に触れさせようとするのですか。
私に触れた時点で殺すことは確定なのですが、ここで殺してしまうとるし様に迷惑がかかってしまいます。
それに、汚い血が私の衣服に着いてしまうのは避けたいところですね。
「分かりました。遊びましょう?ですが、私にさわら」
「やったー!ギムレット様が遊んでくれるって!」
「おー!早く公園で遊ぼー!」
「何するー?サッカー?」
「いいね!」
サッカーとは、るし様が考案なされた娯楽。ボールを蹴り、相手の陣地にあるゴールという箱にボールを入れれば一点。決められた時間内にどれだけ点を取れるかが勝負を左右するというもの。
るし様は素晴らしいです。私が考えもしないようなことをポンポン出してくれるのですから。
「ギムレット様はどっちのチームに入るー?」
「どっちでもいいですよ?(早く終わらせて帰りたいですね)」
「じゃあ、俺らのチームな!」
汚らしい人間に手を引っ張られるのは屈辱的です。帰ったら早々に手を洗わなければいけませんね。
「ギムレット様!あっちが私たちの点を入れるところだよ!あっちね!」
「分かっております(ですから手を触らないでください)」
笛がなり、人間と獣人に触れないようボールを捌く。
身体も鍛えていますので、そこらの底辺に負けるようなことなど有り得ません。
大人の体格というだけあり、早々に1点を取りにかかる。…が、勢いよく蹴ったボールはゴールから大きくズレたところに飛んでいった。
「ギムレット様ードンマイー!」
「おしいよー!」
「さぁ、皆。こっからだ!行くぞー!」
意外とサッカーとは難しいものですね。絶妙な力加減が必要なようです。
得点なしの攻防が続き、とうとう私のところにボールが回ってきました。
「ギムレット様!ボールいったよー!」
「分かりました!」
獣人からボールを受け取り、再度敵陣に踏み込む。
今度は力加減を間違えないようにしましょう。力を入れすぎるとボールが破裂してしまいますからね。
ギムレットは自身の身体能力を操り、絶妙なシュートを決めた。
「わぁ!凄い!流石ギムレット様!」
「凄い凄い!」
「くそー!取り返すぞー!」
「おー!」
守りに入ろうと動いた瞬間、笛が鳴り、この娯楽が終わったことを告げた。
「おー!勝ったぁぁあ!」
「ギムレット様ありがとう!」
「すごいすごい!」
人間と獣人に駆け寄られ、握手をされる。さっきまで感じていた嫌悪感がまるで感じられなくなっていた。
これは、どういう事なのでしょうか。胸が少し温かいような気がします。もしかして、るし様が連れてきたこれらは、下界にいるあれらと違うものなのかもしれません。でないと、この温かさは表現のしようがありませんから。
「あー!ギムレット様が笑った!」
「ほんとだぁ」
「綺麗!!」
たまにはこういうのもいいかもしれませんね。
たまには…ですけどね。
「おーい、るし様が一緒にあそんでくれるってさ!」
るし様!?
「あ、ギムレットー!私も混ぜてー!!」
遠くの方から愛しの人が手を振って走ってきた。
あぁ、幸せです。
あの人が私の名前を読んで下さるだけで私はもう胸が一杯過ぎて死んでもいいくらいです。
「るし様」
貴女の名前を呼べるだけで私は満たされます。貴女が私に笑顔を向けてくださるだけで私は幸せです。
「ギムレット、楽しそうだね」
「るし様…(貴女がいるだけで)私は幸せです」
「そっか!ギムレットが幸せなら私も幸せだなぁ」
るし様、あぁ、るし様!!
一緒に幸せになりましょうね!




