表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運極さんが通る  作者: スウ
虫襲来編
65/127

動き出す者



 〜???side〜


 吹き抜ける潮風が行き交う人々の頬を撫でる。

 白い鳥が青い空を飛び回る。

 そこに、一船の船が来航した。

「船を降りる際には忘れ物はなさらないように。では皆々様、いい旅を!」

 この大陸では見られないような服装の観光客達が降りてきた。


「ん〜!長い航海だったわぁ!ねぇ団長」


 黒く艶のある長い髪を後ろでゆるく結った美しい女が、全身真っ黒のサングラスをかけた男に詠うように話しかける。



「そうだな。だが、たまにはテレポートを使わないで行くのもいいものだ。」


 男は背伸びをし、コキコキと指を鳴らす。

 熱い港に黒のオーバーコートをきた男の姿は酷く不自然に映った。

 彼はそれを気にもかけず、女と共に市場を歩く。


「見て団長!この大陸にも青い薔薇が売ってるわよ!」


 男は気怠げな目で露店の薔薇を見て、返事を返す。


「最近は交易が活発化してきたからな。青薔薇があるのも当然と言えるだろう」


 女はカラカラと笑い、そのまま青い薔薇を購入した。

 花の香りを嗅ぐ彼女から、妖しい魔力が漏れ出す。

 その姿は妖艶で、通り過ぎるもの達も思わず振り返ってしまう。

 何度も何度も。


 男はその様子を見て溜息をつく。


「おい、漏れてるぞ。」

「あら?失礼。」


 女も気づいたようで、慌てて薔薇をアイテムボックスに仕舞う。

 すると、妖しい魔力が香り残さず消えた。

 女は天を大きく仰ぐ。

 その瞳に映す色は憧憬。


「この大陸は美しいわ。空が青いし、光が地に降り注いでいるし、何よりも人々の顔が眩しい。」


 女は行き交う人々の顔を見てそう言った。

 確かにな、と男は頷く。


 この大陸の港にいる人々の顔は希望に満ち溢れていた。

 明日を目指し、前を向いて歩んでいる。

 それが、この大陸を発展させている。

 故に眩しい。

 彼らのいた場所ではありえなかったことだ。

 成し得ることの出来なかったこと。

 手から零れ落ち、救おうとしても、救うことは出来なかったこと。

 そして、意味もなく仲間が死んでいった。


 彼らは、必死に救おうとした者から ***** と蔑まれた。

 だけど…。


「この眩しい世界を2度見たからこそ、俺達はやらなければいけない」


「そうね」


 彼らは再び動き出す。

 かつて受けた傷は癒えた。


「世界を善くするためにね」


 女は妖しく微笑む。

 黒髪を靡かせて。


「そうだ。世界の膿を一掃しなくてはな。理想の世界を作るために」


 2人は市場を進みゆく。









「あ、団長!あそこにいるの依頼者じゃない?」


 木々の下に佇む者が今回の仕事の依頼者だ。


「そうだな。行こうか」


 彼らは茨の刺繍が入ったマントを来た人物に近づいた。






 茨の刺繍。

 それは、この大陸の最大勢力の国の印。

「シナンティシ」を吸収し、さらに拡大を続ける国の印。



 帝国「ザバブルク」の印。



 依頼人の話を聞き、おかしな話だ、と男は思った。

 貪欲に領土を拡大し、戦争には百戦百勝の帝国。

 王は慢心し、更には人々は傲慢になった。

 兵士に志願するものはあとを絶たず。

 彼らは自身が作り変えられることを知っても尚、兵士に志願する。

 元には戻れないというのに。

 兵士になれることを狂喜する人々を見て、先代から代々仕えてきた家臣が、とうとうこの国の帝を暗殺してほしいとまで言った。

 その家臣こそが、今回の仕事の依頼主である。

 マントの下から覗く彼の顔は痩せこけ、気力で生きているようだった。

 そんな彼は、自らの心境を語った。



「領土が増えるのは嬉しい。勝ち続けるのも嬉しい。兵士に志願するものも増えて嬉しい。嬉しいが、怖い。人々が自らおぞましい兵士に身を落としていくのが怖い。勝利して涎を垂らし、目を血走らせ、狂気乱舞する人々が、友が、家族が怖い。」



「ん?でも、繁栄はしたんでしょ?」



「…確かに、帝国は繁栄した。今代の帝…女帝になるまでは、帝国は今と比べるまでもなく小さかった。戦争にも勝ったり負けたりしていた。だが…だが、狂ってはいなかった。兵士になり、戦争に向かわんとする者には、賞賛と涙と名誉が送られた。一日一日生きるために汗を流し、一生懸命生きていた。互いに助け合い、支えあっていた。どうやって帝国を善くするかを度々議論し合った。」



「今はどうなんだ?」



 依頼主は肩を震わせた。



「…っ。今は狂っている。兵士はただの人形と化し、涙するものはただ一人とおらず、子供までもが歪んだ笑顔で変わり果てた親を送り出す。一日一日は酒を飲んで遊んで終わる。互いに蹴り落として這い上がろうとしている。帝国をどう善くするかではなく、どう大きくして、どう安く奴隷を手に入れるかを考えている。私は今の帝国が怖い。女帝のカリスマ力が、才能が、容姿が、全てが怖い」



「その女帝はどのような経緯で帝の座に着いたのだ?」



「…最初に女帝を見たのは、五年も前のことだ。先帝、フィリップ帝は戦の帰りに偶然寄った古城で、眠りについている女に恋をした。俗に言う一目惚れというやつだよ。その美しい女は、悪しき魔女に呪いをかけられて、永遠の眠りについていた。フィリップ帝は、古城を離れる際に、眠っている女の額に愛のキスを落とすと、女の呪いが解け、深い眠りから目覚めたと言っていた。女帝曰く、真に愛する者の口付けで解ける類の呪いだったらしい。フィリップ帝は、女が目覚めたことに歓喜し、女を城に連れてきた。その女を城に入れたことが、帝国の正常な歯車を狂わせたのだ。女は、美しく、全てのものを魅了した。素晴らしい才能もあった。女は、戦に勝つためと言って、若い兵士を使って悍ましい怪物を作った。心優しきフィリップ帝は、それを見て大いに怒り、涙された。内政は荒れ、心を病んだフィリップ帝は、実に30歳という若さで崩御なされた。その後、帝の座に女がついた。フィリップ帝の死を見届けたのは女…女帝だけで、他に見たものはおらず、私はフィリップ帝がまだ生きているのではないか、葬儀で使われた死体はフィリップ帝のものではないのではないか、とそう思い、真相を探った。……3年を費やして、私は知ってしまった。真実を。フィリップ帝が死んだことにされた日に何があったのかを。…お、恐ろしいことだった。し、知って以来、私は女帝を直視出来なくなった。人ととと…お、思えなくなってし、しししまった。い、今思えば女帝は悪しき魔女に呪いをかけられたのではない。善なる魔女に、身のうちに潜む悪魔を見抜かれ、封印されていたのだ。私達は間違った。女帝を起こすべきではなかった。…だから、どうか罰してほしい。…そして、国を救ってほしい」



「報酬は?」



「報酬は帝の首と平和、宝物庫だ。どうか…どうか、女帝を…殺してくれ」



 血を吐くように依頼主はそう言った。

 こんなに美しく見える大陸にも膿は出来るというもの。



「分かった。その依頼、受けよう。だから、貴方はもう安心して休むといい。」



 依頼主は目に涙を浮かべ、近くにあったベンチに崩れ落ちるように座った。

 ずり落ちそうになるのを男が支え、ちゃんと座らせる。

 彼は黒い男と、美しい女を見て、重い瞼を希望と共に閉じた。








 彼はもう起きることはないだろう。



「いい人そうだったのに」



「そうだな。こういう奴がいるからこそ、帝国も救う価値があるというもの」



 2人は帝国に向かって歩き出す。










 帝国「ザバブルク」。





 彼の女帝の名は、オーロラ。





 そのカリスマ性と、容易には抜け出すことは出来ない魅力、そして、何よりも、女帝が眠っていた古城が太い茨で覆われていたことから、彼女には別名が存在する。




 その名は「茨姫」。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ