世界戦③とお風呂
「次の試合、負けてくれないでしょうか?」
突然、初心者装備の人にそう話しかけられた。
負ける?
何故に。
てか、
「貴様は誰だ。」
そいつは少し顔を顰めたが、すぐに笑顔を浮かべ、
「あぁ、失礼しました。私は、リアルの…ある国からの使者です。それ以上は詮索しないでくれると有難いですね。貴方の命にも関わる故。それにしても、生で見る方がお美しいですね。貴方の活躍はリアルで拝見しております。その実力、随分と努力をされたようだ。私、貴方の動きを惚れ惚れと見ておりました。今ここで貴方に会えることを嬉しく思っております。」
言葉の端々に嘘が飛び散っているように感じた。
何とも胡散臭い使者さんだ。
「で、その使者が私に何のようだ。」
その問に使者はいやな笑を浮かべる。
まるでカエルのような顔だ。
「率直に申し上げますと、貴方に是非とも八百長試合をして頂きたいのです。何、タダで負けろと言うわけではございません。それ相応のリアルマネーは用意しております。」
八百長試合?
野球でそういう事がよくあるって聞いたことがある。
私の中では八百長=詐欺みたいな感じだな。
詐欺と言えば、私、パッシブスキルの【詐欺】スキルを持ってたや。
今までoffにして封印してきたけど、そういうスキルはここで使うべきだと判断した。
すかさずonにする。
さぁ、ここから話に乗った振りをするか。
詐欺師になりきるんだ!
「だが、私はわざと負けるような真似はしたくはない。まぁ、金額ぐらいは聞いてやってもいい。」
使者はカエルのような笑を一層深めた。
こいつの名前は蛙男だ。
そうしよう。とても似合っていると思う。
「3億…はあると思っていただきたいです。」
3億っ!?
思わず動揺が顔に現れてしまいそうになるが、【無心】を発動させて抑え込む。
動揺するのは仕方が無い。
だって、普通の学生が手に入れられるようなお金じゃないんだもの。
「3億か…なるほどな。」
顎に手を添えうんうんと頷く。
蛙男は私がこの提案を前向きに考えていると思い込み、下卑た笑みを浮かべている。
「どうです?もし八百長試合をして頂けるのなら前金で1億を先にお渡ししますよ?」
前金高っ!
心が揺れるが、私は世界一位になりたいのだ。
どうせ1位になったら、リアルでお金を貰えるから別に八百長試合をしなくてもかなり儲かるのだ。
もし仮に3億手に入れたとしても怖くて使えないよ。
「前金は要らない。…戦いの方は善処する。」
日本人がよく使う善処という言葉は便利だ。
善処とは、必ずしもそうするという意味ではなく、前向きに検討するということ。
その私の返事を聞いて満足したのか、
「そうですか、ありがとうございます。試合の方、宜しくお願いします。」
そう言って笑を崩さずに人混みに消えていった。
人生の中で八百長試合をしてくれだなんて迫られることがあるなんて思わなかったよ。
まぁ、やらないんだけどね。
次の試合は瞬殺だ。
相手はどこかの国のお偉いさんだったりして…。
だけどそれはこの世界では関係の無いことだ。
このことは一応運営にも報告しておこう。
『午後の初戦は~!日本代表、軍服、るしVSドイツ代表、運男、セグエス・ファルデス!!ドイツは日本の進撃を止めることが出来るのか!?』
『軍服は皆さん知っての通り、瞬殺が得意ですよね。気づいた時には死んでいる…っていう感じらしいですよー!!運男はその2つ名通り、運がいい!いやぁ、瞬殺と運、どちらが勝つのか見ものですねぇ!!』
運がいい?
まさか、私と同じ極振りさんですか?
仲間ですね。
「御手柔らかに、軍服さん。」
意味有り気にいう運男。
ははーん。
八百長しろって言ったのは君だね?
「分かっている。」
運男っていうか、金を流して勝っただけでしょ。
ある意味での運男だね。
『go!!!』
こういう卑怯な人はこの戦いに相応しくない。
確かに、司会は何をしてでも勝てと言っていたけど、八百長試合だけはダメだと思う。
「軍服さん。分かってますよね?」
わかっていますとも。
満月を抜き、空気を四回切る。
手元が狂うことはもうない。
シャン
シャン
シャン
シャン
見えない斬撃が飛ぶ。
まずは右手がゴトリと地面に落ちた。
次に左手が。
右足が。
左足が。
残った部位は支えをなくしてそのまま地面に落ちる。
運男は、何が起こったのか理解が追いつかないようで、呆然と身体から切り離された自分のモノだった物を見た。
それが自分のモノだと理解が追いついてきたようで、顔を青ざめさせた。
「お…お…俺のっ!!ァァァア足っ!!て…てててて手!!い…痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!ぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
私は静まり返った会場に、今からの会話を聞かせるために声を張り上げる。
「貴様は、私に八百長試合をしろと言ったな?」
運男は口から血と泡を出しながら、鬼のような形相でこっちを睨んできた。
「ギィ……そ、そうだぁ!!!このうそづきぃぃぃぃいいいい!!!!」
ゆっくりと手足がない者のいる場所に歩み出す。
ザワザワと会場が揺れた。
「私は、やるとは言っていない。善処すると言ったんだ。私は1位になるつもりでここまで来たというのに、金をやるから負けろ…だと?貴様のような奴が何故ここまで来れたのかは分からないが、私に当たったことが幸運だったな、運男。何故なら、貴様の八百長がバレたのだから。本当に運がいい奴だ。私以外の日本代表に当たってでもみろ?トラウマになるぞ?八百長試合して負けろとでも言ってみろ。その場で拷問のような死を与えられただろう。…貴様は実力でここまで来た。金というリアルの力で。だがな、ここはリアルではない。貴様が使えるのはこの世界の自分の実力のみだ。貴様のような奴はここで死ね。私が貴様を勝たせてしまったら、本戦で散っていった日本の強者達に顔向けが出来ない。」
お、ちょうど運男の所までこれた。
「ぐ…ぐんぷぅくぅぅぅぅ!!!!」
顔色を青から赤にコロコロ変える運男。
ピエロみたいだね。
さぞ、自分の思い通りの試合をやってきた事だか。
「ではな。運男死ね。」
首を刎ねると同時に金色の粉に変わっていった。
もちろん、大量に流れた血もだ。
『試合しゅーりょぉぉぉぉぉ!!!運男まさかの八百長試合をしていたのか!!俺は俺はァァ悲しいよぉぉぉ!!!』
『まぁ、八百長試合もありだと思いますよ!何をしてでもOKでしたからね!まぁ、それが許せない人も多くいるのでしょうね。』
いやぁ、頭に浮かんだことを長々と言ったから何を言ったか記憶にないや。
そさくさと代表席に行く。
「…るし…グッジョブ…。」
「かっこよかったです!私、八百長試合を迫られた瞬間殺すような人ではありませんよ?」
「俺は…感動したよ。」
「僕も。」
4人は揃って拍手し出す。
皆…恥ずかしいから辞めて。
と、急に真剣な顔をしたジャンヌが前に出てきた。
「どうしたの?ジャンヌ。」
3人を見ると、3人も真剣な表情をしている。
「実はですね…。」
「ただいまー。」
「「「「おかえりなさい!」」」」
おー、今日は久しぶりに皆揃ってるね。
トトトと駆け寄ってきたジンの頭を撫でる。
「るし、今日の試合、いいこと言ったな!」
グッと指を出すウォッカ。
「そうです。素晴らしい試合でした。私感動しました!」
「我もだ。汝言う時は言えるではないか。」
皆…!!
そんな事言ったら、調子に乗っちゃうじゃないか!
「るし様。私、今日の試合を見て感動したので、お風呂、というものを作りました。以前、湖じゃなくてちゃんとしたお風呂に入りたいとおっしゃいましたよね?」
お風呂作ったの?
ていうか、その肝心なお風呂は何処に?
「るし、そこの外壁に扉があるだろ?そこを開けてみろよ。驚くぜ?あ、開けるのは青い扉な?」
ウォッカが自信ありげに言うから、ちょっとワクワクしてきた。
扉もいつ作ったのだろう。
6つほどあるんだけど。
ガチャりと青い扉のドアノブを回す。
少し開けると熱気が。
まさかっ…この熱気は…。
そのまま勢いよく開ける。
ブワッ
と、湿気を帯びた熱気が押し寄せてき、そのまま中に進む。
「…へ?」
扉の先は温泉だった。
それもかなり広い。
シャワーと桶が置いてあるのは分かる。
だが、ここからが理解出来なかった。
…半径3m程の温泉が5つほど設置してあったのだ。
しかも眺めは何故か雪景色。
暖かさに混じってほのかに雪も舞っている。
「待て待て待て…」
思考を整理しようと頭を振る。
どうしてこうなった。
何で雪が降っているんだ?
うんうん唸っていると、
「ふふふ、るし様、喜んで頂けましたか?私とヴィネの合作です。」
横にギムレットがやって来た。
「す…凄く嬉しいけど…一体どうやって作ったの?」
ドヤ顔のヴィネがやって来た。
「まず我が亜空間を作り、ちょいちょいと弄って気候を雪にし、ギムレットが街で見かけたお風呂というものを昔のローマの風呂と掛け合わせて、出来たものをここに設置したという訳だ。どうだ?気に入ったか?」
…言葉が出ない。
一旦外に出ようか。
気に入ったか、と聞かれれば気に入ったと答えるが、作り方のスケールが違う。
てか、ヴィネって空間を操ることが出来るんだね。
さすが悪魔様。
「どうです?今から皆で一緒に入りません?」
「いいね!」
…ん?皆で?
ということは、裸の付き合い?
ヴィネも?
…家族だから別に良いのか?
だがしかし、小三以来異性の人と一緒にお風呂に入ったことないんだよな。
緊張する。
ここはゲームだからセーフなのか?
セーフなんですか?運営さぁぁあんん!!
「皆様!お風呂に行きますよー!」
「え…俺は…ちょっと…。」
「ぼ…僕も…。」
2人は顔を赤らめて尻込みしている。
ジンとウォッカは別に恥ずかしくもなんともないね。
だって、まだ子供だもん。
「ほら!脱ぎなさい!」
スポボーン
「「うわぁぁぁぁあ!!!」」
2人は叫びながらドアの前に置いてある白いタオルを手にしてお風呂場に去っていった。
ヴィネとギムレットも脱ぎにかかる。
「ヴィネ…下は隠してね?」
「分かっている。そこら辺のエチケットは我といえどもあるからな。」
ギムレットは薄い服を脱いで生まれたばかりの姿になる。
豊満な胸が露わにっ!!
くっ…目が当てられないよ。
私の胸は寂しい。
女の子じゃないね、これは。
少しショックを受けた。
ヴィネは細マッチョで引き締められた筋肉が美しくシックスパックを作っており、思わず見蕩れてしまう。
「む…そんなにジロジロ見るでない。…恥ずかしいだろ?」
「ごめん…見蕩れてた。」
「るし様、ではお先に。」
ギムレットはそさくさとお風呂に向かっていった。
お風呂、気に入ったんだね。
脱いでないのは私だけ。
恥ずかしいよ…。
頭に乗っている軍帽を外す。
ボタンに手をかけるが、外す勇気がない。
「るし、遅いぞ。我が手伝ってやる。」
「ふえっ!?」
ガッとボタンを外され、パンツもシャツもあっという間に脱がされた。
ヴィネの顔が目の前にある。
「ほれ、行くぞ?何でそんなに顔が赤いのだ?……い…っ行くぞ!!」
褐色の手に手を取られ、お風呂場に連れていかれた。




