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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-096「よじれた木々の先で-4」


「本当は自分、この階段が崩れるんじゃないかってずっと疑ったんだよね」


「奇遇ですね、僕もですよ」


いざという時に備えて、風の魔法で浮くことをずっと考えていたのは内緒だ。


どちらにせよ、全員は支えられないのでもし本当に階段が崩れたら

大変なことになってたのは間違いない。


ミルさんも含め、防具が金属製だとこういう時に恐怖が襲ってくる。


「前方に障害は無し。少し横幅が広いか」


訓練のたまものか、あるいはミルさんがおしゃべりなのか。


ダグラスさん以外の兵士の皆はほとんどしゃべらない。


頷きや合図はするので、余分なことをしゃべらないようにしているというのが濃厚だ。


普通の家にあるらせん階段と比べるとやや長い階段を越えた先は

また同じような、木と落ち葉で出来た空間が広がっていた。


お金儲けとしては大成功の部類に入るだけの成果はもうあるわけだけど……。


「一応目標としてはどこまで探索しますか?

 全滅するつもりは全くないですけど、撤退条件は決めておいた方が……」


「もっともな話だな。今のところ怪我による撤退はなさそうだが……。

 2人の聞く声は悪い感じはしないのだろう?

 であれば、そこまで行くぐらいはしてもかまわんだろうと思う」


無駄死にはよくない、とは誰もが思うことだけど

兵士のみんなもどうやらこの状況を不安に感じつつも、

驚きや好奇心、あるいは不思議な状況に身を置いている高揚感のような物が

多くを占めているようだった。


「ダグラス隊長はそんなだから、いつも厄介な案件に回されるんですよ。

 ついていくこっちの身にもなってくださいよ、まったく」


なおも続くからかうように笑うミルさんの言葉からすると、

どうやらダグラスさんはこういう危険な話や、

普通の兵士なら一歩引くような話に次々と突っ込んでいくらしい。


見た目は落ち着いた、ちょっと言葉が足りない気もするけど

悪い人じゃないんだけどな……少し、意外だ。


「何を言うか。私の先祖はそれで戦女神から防具を授かる名誉に至ったのだ。

 無難なことだけをしていて特別な何かを得ようと思ってはいけない」


怒ったような内容だけど、口調や表情はそうでもないところを見ると、

このやり取りはよくあることで、互いにいつもの、という感じなんだろうか。


兵士の人達も止めないしね。


周囲の確認を終え、聞こえる呼びかけをたどりながらなおも進む。


幸いにもというべきか、下の階層ほどには出会いはなく、

逆に言えば儲ける機会が少ないということ。


特にけがもなく、また現れた階段を上る。


そこも同じように戦闘は少なかった。


ただ、明らかに出会う大きさが大きくなっているような気がする。


殺意というのか、そういったものはそんなに高くないのか、

対処に困るということは無いのだけど……うーん?


「侵入者を排除、という感じではないですね。どちらかというと……」


「見極められている、という感じを受けるな。特定の攻撃方法しかない相手しか

 出てこないとなるとなおさらだ」


ダグラスさんが切り伏せたばかりのトレント、

外で見るような普通のトレントだ、を見る。


木のダンジョンの中に木のモンスターが出るとか、

不思議でしょうがないけど岩の洞窟の中にゴーレムが出ることもあるというし、

そんなものなのかなあ?


速攻で素材として分解されたトレントがちょっと哀れな気がしたけど、

声が近くなってきたことに僕の意識はそちらに向く。


「ファルクさん、だいぶ近いですね」


「うん。さっきまでは別の階にいるような感じだったけど、今は同じ階にいるのかな」


僕の気のせいじゃなければ、降り注いでいる陽光も最初とは違う。


それに……なんだろう、少し肌寒い。


『そこの隙間から外を見てみろ。声は出すなよ』


突然のご先祖様からの助言。


よほどの危険がない限り、自分達だけで頑張ってみるとと事前に相談していたので

ここまでご先祖様の助言はほとんどなかった。


そんな中での助言……果たして。


すぐそこにある枝の隙間から陽光。


そこから外が見えるということだともうが……。


(嘘でしょ……)


正直、覗かなければよかったなと思っている。


「どうしました、ファルクさ……え?」


僕の隣に立ち、同じように覗き込んだマリーが黙り込んでしまう。


その顔色が悪いのは当然のことだろう。


その隙間からは、エルダートレントに乗り込む前の白い廃墟が眼下に見えた。


遥か下、白くかすむぐらいの高さだけどね。


「これは……ダンジョンはやはり、奇妙な場所だな」


「落ち着いてる場合ですかあ!? こここ、こんなに登ってきた覚えはないですよ!?」


ミルさんの叫びは皆の気持ちだ。


兵士のみんなも頷き、俄かに周囲を警戒し始めている。


(あれかな、秘密の薬草洞窟みたいに別の場所につながってたのかな)


ふと、故郷の秘密の場所を思い出す。


あそこも、外から見るとありえない広さであり、

外から掘り進んでもそこには到達できないのだ。


『そういうことだな。さあ、進むか戻るか』


「行きましょうか。目的地はすぐそこみたいです」


感じる呼びかけ、それに従うならその場所は近くだ。


この階層は天井が高く、物を投げても届くかどうか、怪しいぐらい。


下の階層と比べると先ほど覗き込んだような隙間が多いようなので、

場所としてはだいぶ上の方、木でいっても上の方に近いのじゃないだろうか。


そうして、角を曲がった時、僕達は硬直することになる。


「ねえ、冒険者のお二人さん。質問があるんだけどさ」


「僕達も知りませんよ? 木の中に扉があるなんて。

 階段も何であるんだって話ですけど」


そう、僕達の前に飛び込んできたのは、

高さは僕の3倍ぐらいの重厚な木製の扉だった。


ご丁寧にとってまでついており、

手前に引いてねと主張しているのだ。


「殺気はない。ここまで来たのだ、腹をくくるべし」


「はいはい、隊長はいっつもそうなんだから……じゃあ盾は前に立って、

 みんな隠れるよーっと。ほらほら、早く」


ここで帰るという選択は取らないようで、

盾役の人の後ろにそうでない人が隠れる。


僕もまた、ブロッカーで土壁を作り出し、構えた。


扉を開けるのはダグラスさんとミルさんらしい。


「ふんっ」


「結構重い……」


古めかしい屋敷の扉が開くような音を立てて、

僕達の前で扉が開いていく。


「……んん?」


思わずそんな声が出てしまった僕を許してほしい。


こんな不思議なダンジョンの最深部だ。


どんな相手が待っているかと思ったのだけど……誰もいない。


中を覗き込むと、大きく外が見える窓というには大きく過ぎる部分。


何もいない平たい木の床の様な部分。


一見すると、木製の大きな部屋、というところか。


そのままダグラスさんが入ろうとしたので、

慌ててそれを止める。


「僕が行きます」


「私もです」


「そうか……わかった」


呼ばれているのは僕達だし、きっとそのほうが良いと思ったからだ。


声はなく、さっきから耳鳴りのようなものが響く。


痛みにも似たそれにそろそろ声を出して文句を言うべきかと思った時、

途端にそれは波がひくように消え去った。


『よく来ました。人の子よ』


代わりに響いてきたのはすっきりした響きの声。


そして、床から音もなく出てきたのは……木彫りの戦女神像だった。




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