MD2-092「白亜の城下にて-2」
唐突に戦えと言われても、というのが正直なところだ。
現に相手をするように言われた向こうもキョトンとした顔だ。
「星の小手を彼に見せたいと思ってね。
手続きに時間がかかるからその間にせっかくだから
ここの訓練に混ざってもらおうと思ったわけだ」
「隊長。絶対それ……詳しく言ってないんじゃないです?
じゃなきゃ、こんな顔しないですよ」
平然とした顔のままダグラスさんが言う内容に、
ようやく現状の理解が追いついてくる。
僕の相手をするように言われた人もまた、
それによって事情が呑み込めたようで、苦笑を浮かべつつダグラスさんにつっこんでいる。
「む?……そういえばそうだったな。まあ、別に構わんだろう?
ミルも同じぐらいの背丈の相手がいなくて難儀しているのだろう」
「そりゃあそうですけど、えーっと……」
「ファルクです。彼女はマリー」
どこか適当な部分があるらしいダグラスさんに比べ、
ミルと呼ばれた子は真面目なようだ。
青い髪を首のあたりで切りそろえた少年兵に見える。
けど……中性的というか、もしかして女性?
迷うようにこちらを見るので名乗る。
「ああ、ファルクさんは良いとして、彼女はどうするんです?
明らかに魔法使いですけど、剣や槍と戦えというのは少々変則的に過ぎるでしょう」
ミルさんの言うように、マリーは明らかに魔法使い、という装備のままだ。
戦えないか?と言われると何もできないことは無いと思うけど、
この場所に練習用の木剣等はあっても杖はさすがにないように見える。
「あ、なら問題なければダグラスさんについて行ってもよろしいでしょうか?
また城に向かう時のために慣れておきたいんですよ」
「ふむ。よかろう。同じ場所に行くとは限らんが、参考にはなるか」
どうやら例の小手、星の小手はお城に保管してあるらしい。
あれかな、有事の際には装備が許される、みたいな?
『そんな制限はかかってなかったと思うが、まあ、権威というのは大事だな』
(そういうもんなんだ?)
ではまた後で、と言い残して2人が去って行くのを見送りながら、
改めて向き直る。
周囲の兵士の人達も気になるようで時折視線が向けられるのがわかる。
そりゃあ、気になるよね。
「えっと、得意なのはというか使ってるのは両手剣と長剣です」
「え? ああ……こっちも似たようなもんかな。槍で突き合うなんてのはできないから」
こっちへと誘われた先には訓練用の武器であろう物が収められた棚。
その中からいくつかの両手剣を取り出し、ミルさんが手渡してくる。
えっと、これかな……一番明星に近い。
その中から1本を選び、頷いた。
取る人もいないわけなので、明星は鞘ごと立てかけておく。
「大怪我したら意味がないから、顔とかへは禁止ね。
止められる限りは寸止めすること」
「なるほど……お手柔らかに」
開いている場所へと歩き、10歩ぐらい離れて向かい合う。
足元は硬く、踏みしめるにも向いていそうだ。
さて、魔法は禁止となるだろうけどどこまでやれるか。
ウェイクアップの発動は無しにしても、それ以外は
相手も防具を装備しているので僕もそのまま。
「はっ!」
「くっ!」
先手は僕だ。
なにせ、機会をもらっている身。
遠慮なんて手加減の次に失礼だろう。
剣先を地面にこするかのような姿勢のまま、
低く駆け出した僕は両手剣を振り上げるようにしてまずは全力の一閃。
予想より勢いの乗った一撃は金属の光を視界に残しながらミルさんへと迫る。
うめき声の様な声を上げ、ミルさんはぎりぎりで回避となる。
手にした剣で僕の一撃を受け流すようにして下に剣をすべり込ませて来る。
そのまま外側にはじかれそうな状況に対して、
僕は体をひねるようにして切り上げたのとは逆の向きに剣を振り降ろすべく力をこめた。
「うっそでしょ!?」
「やぁっ!」
随分高い声だな、と思いながらもミルさんの構えた剣を
まるで腕相撲で押し勝つ時のように地面へと押し込む。
その姿勢のまま少し剣を突き出せば、
ぎりぎり相手の首元から離れた場所を通り過ぎる。
でも相手にはわかるはずだ。
角度を変えれば首を切って終わり、な状況だと。
「これでも結構自信があったんだけどなあ……」
衝撃だったのか、首元をポリポリとかきながら
ミルさんはこちらにあっちゃーといった顔を向けてくる。
僕としては、1本とれちゃったんだ、という気持ちが強いんだけどね。
「胸を借りる方なので、遠慮は無しです」
「胸!? あ、そういうこと。変な事言わないでよ、もう」
なぜか真っ赤な顔で胸元を隠すように両手で覆うミルさん。
(あー、やっぱり女の子なんだ。うう、意識したらやりづらくなってきた)
『それを言うとたぶん、怒ると思うぞ。この感じからして』
だよねーと心の中で答えつつ、手の中の柄を握りなおす。
「1本とられた後でなんだけど、しばらくは打ちあおうか。
そのほうが訓練になるよね?」
「そうですね。そうしましょうか」
その場で何回か飛び上がり、調子を確かめた後、
ミルさんが僕のように切りかかってくる。
「せいっ!」
迎え撃つべく、正面から剣を振るう僕。
予想通り、かみ合う剣同士が鈍い音を立て、止まる。
勢いはあるけど……軽さを感じる。
それでも僕が切り返せば、即座に反応も返ってくるので
次の一撃、次の一撃、と互いに繰り出していく。
そうしているうちに時間も過ぎていくのだけど、
その時の僕達には時間を見てる余裕は無かった。
『5……10……もうすぐ20回だな』
切り合った回数が頭の中で計算され、
30ぐらいで一度離れたほうが良いと言われ、
その通りに30回目ぐらいにはじくようにして切り返し、一度距離を取る。
「すっごいね。全然切り崩せる気がしないよ。
これでも有望株だったんだけどね、私」
「追いかけるのが精一杯で他の事ができませんよ、正直」
実際、早い相手の動きに合わせていくことはできても
圧倒するということは出来そうにない。
そのまま切り合いが続き、息も上がって来たので休憩となる。
休んでいる間に、練兵場へと見覚えのある姿が2人。
ダグラスさんとマリーだ。
「待たせたね。さあ、これがそうだ」
「これが……星の小手」
言い得て妙だな、というのが第一印象だった。
特別輝いている、ということではないんだけど
全体的に不思議な素材と質感の小手だ。
ある程度体格に合わせて調整が出来るらしい構造をしており、
魔法にも強そうな気がするけど、僕では鑑定しきれない。
『戦女神からの物品だからな。俺にも全部は無理だ。
ただ、この男ぐらいじゃないと使いこなせないだろうさ』
「すごい、としか言えません。でも、良い目標になります」
「ならばよかった。さて、報酬代わりというわけではないが、
少し話を聞いてもらいたい」
ほうっと息を吐き、感想を伝えるとダグラスさんは笑顔とわかる顔で頷く。
と同時に何やら提案の様だった。
マリーが頷いていることから、彼女は簡単には話を聞いているのだろう。
「近々、我々は部隊を率いてとある場所へ遠征に行く。
それには冒険者も若干名、同行を予定していてね。
君達さえ良ければ、指名させてもらおうと思うが、どうかな」
「私は構いませんよ。むしろぜひ行きたい場所です」
肝心な場所については何も言ってくれなかったけど、
マリーが乗り気ということはマリーは聞いているのだ。
「隊長、エルダートレントって言わないとわかんないですよ?」
「む? ああ、私の悪い癖だな。そうだ、エルダートレントに乗り込むのだ」
『静のユグドラシルに対してのトレントは動の存在だ。
それが時に集まって巨大な木のダンジョンと化す。
乗り込み価値はあるぞ』
話を聞きながら、僕は覚悟を決めた。
恐らく、マリーの杖に匹敵するような素材がとれたりするのではないか、と
予想しながらではあるけれど。
「参加ということでお願いします」
僕の承諾の声に、ダグラスさんも笑顔で頷く。
と言っても、良く見ないとわからないぐらいの違いだけどね。
さて、どんな戦いが待っているのやら。
少々の不安と、多くの期待を胸に僕は空を見上げる。
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